小説『すぐ死ぬんだから』  書籍関係

[書籍紹介]

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世の中、「終活」が流行だが、
この小説の主人公、忍(おし)ハナは、そんなことはしない。
「すぐ死ぬんだから」と年齢に妥協し、
老いたことを容認して生きるのなどまっぴらだ。
というわけで、この78歳のハナは、
おしゃれに精を出す。
そのかいあって、
出かけた銀座で、
ファッション雑誌の記者に声をかけられ、
素敵なファッションのシニアとして雑誌に紹介されたりする。

夫岩造と営んでいた酒店を息子雪男に譲り、
近所で隠居生活をしている。
岩造は「ハナと結婚してよかった」が口癖の
折り紙が趣味というおとなしい男だ。

老齢期の男女に対するハナの批判がすさまじい。
年を取れば、鈍くなる。くどくなる。
愚痴になる。寂しがる。同情を引きたがる。
「すぐ死ぬんだから」という言葉を免罪符にし、
集まれば孫自慢に、病気自慢ばかり。
服装も「楽が一番」は一番の不精でしかない。

そのおしどり夫婦のようなハナと岩造だったが、
ある日、脳の血管が切れて、死んでしまう。
ハナは無気力になるが、
岩造の遺言が出てきて、
その内容に驚愕。
俄然命を再び燃やすことになるのだが・・・

周囲の年寄りを見るハナの心の声が面白い。

二人ともバアさんくささに磨きがかかっている。
若さを磨けよ、まったく。
老化に磨きをかけてどうする。

私は腹の中で
「あんた達みたいのは、
ナチュラルって言わなくて、
不精って言うんだよ」
とせせら笑って聞き流した。

「もう、楽が一番。年なんだからサァ」
やっぱりこれだ。
年だから手をかけるべきだろう。
楽したがることが、一番の不精なのだ。

つまらない女が好きな「人は中身」。
「人は中身」と言う女にろくな者はいない。
さほどの中身のない女が、これを免罪符にしている。

お金がないという言葉を、真に受けてはならない。
本当に貧困にあえぐ人たちもいるが、
一般老人はなぜお金がないか。
貯金するからだ。
年金をやりくりし、生活を切りつめ、
「老後のために」と貯金するからだ。
まったく。
今が老後だろうが。
若いうちに切りつめて蓄えたお金は、
今が使い時だろうが。
八十間近の、さらなる「老後」に
何があるというのだ。
葬式しかないだろう。


しかし、時には、娘の苺の言葉が突き刺さる。

「今のママには、老いていく悲しさは見えない。
だけど、これ以上行くと、
抗う悲しさが出るよ」
「ママ、年齢に抗うのは痛いよ。
アンチエイジングでなく、
ナチュラルエイジングにしな」


自分でも感ずる。

これほど気合いを入れて、
老いを遠ざけて生きている私だ。
なのに、老いは音もなくやって来ている。


医者からは言われる。

「70年も80年も使いこんでる体ですから、
そりゃ、経年劣化は当然ですよ」


だから、「何とでもなる」という言葉が嫌いだ。

この「何とでもなる」という思いは、
若者と老人のものだ。
若者は「切り拓くから何とでもなる」と思い、
老人は「すぐ死ぬんだから、何とでもなる」と思う。


インドネシアの年齢145歳と自称する男へのインタビューが笑える。

「今、一番やりたいことは何ですか?」
と聞くと、男はまったく悪びれることなく、答えていた。
「死にたい」


しかし時には78歳という歳の限界を感じる時もある。

私には先がない。
後期高齢者の先はないのだ。
終期高齢者、晩期高齢者か?
末期高齢者か?
その先は終末高齢者で、
ついには脳死高齢者だろう。


「終わった男」で「卒婚」という言葉に焦点を当てた筆者だが、
今度は「死後離婚」というのを持ち出す。
区役所の職員は説明する。

「『死後離婚』というのは俗称でして、
正しくは『姻族関係終了届』を自治体に提出することを言います。
姻族というのは、配偶者の両親、兄弟姉妹などですね。
配偶者の死後に、
舅や姑の面倒を見なければならなくなったり、
小姑ら姻族から不快な思いをさせられたり、
よくあることです。
法的に関係を終了すれば、
完全に他人。
無関係です。
だから『死後離婚』と言われるわけですね」


更に、こう言う。

「死後離婚は婚家先の墓に入りたくないという理由が、
かなり多いんですよ」


筆者はあとがきで、このように書く。

昔は定年後の人生はそう長くなかった。
しかし、現在は職場と墓場の間が長い。
65歳で職場を去ったとしても、
あと20年かそれ以上を生きる人はざらだろう。
何しろ、私たちは「人生百年」の時代に生きているのだ。

「すぐ死ぬんだから」というセリフは、
高齢者にとって免罪符である。
それを口にすれば、
楽な方へ楽な方へと流れても文句を言われない。
「このトシだから、外見なんてどうでもいいよ」
「誰も私なんか見ていないから」
「このトシになると、色々考えたくない」
等々が、
「どうせすぐ死ぬんだからさァ」でみごとに完結する。


「終わった人」が男性版だとすると、
「すぐ死ぬんだから」は女性版。
なかなか面白く、カミさんに読ませようと思って、はっと気づいた。
この本、カミさんが友達から
「面白いから読んでみなさいよ」と言われて、
私に「図書館で予約して」と言った本だった。
カミさんより先に読んでしまった。

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「終わった人」





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