小説『絶声』  書籍関係

[書籍紹介]

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「ぜっしょう」と読む。

親父が死んでくれるまであと一時間半──。

という衝撃的な書き出しで始まるこの作品は、
最近売れている下村敦史による遺産相続ミステリー。

なぜ親父が死ぬ時間が分かっているかというと、
大富豪、堂島太平の「失踪宣言」の時間が迫っているからだ。
莫大な資産を持つ大物相場師が、
末期の膵臓癌と認知症に冒されたまま、
7年前に自宅から消えた。
テレビ番組での訴えも虚しく、その行方は知れず、
裁判所に7年の失踪宣告の申立書が申請された。
生死不明のまま7年以上が経過し、
裁判所によって失踪が宣告されると、
法的には死亡と同じ扱いになる制度だ。

午前0時をもって「死亡した」と認定される日、
堂島の屋敷に集まった三人の相続人。
45歳の兄孝彦、40歳の妹美智香、
そして後妻の子30歳の正好。
それぞれお金の必要な事情を抱えており、
父親の死亡が認定されれば、
3等分しても、億単位の金が手に入るのだ。
父親の健康や生死など実は眼中になく、
莫大な遺産相続のことだけを考えていた。

しかし、父が「死ぬ」時間のわずか10分前、
異変が起こる。
死んでいるはずの父のブログが7年9カ月ぶりに更新され、
「私はまだ生きている」と書かれていた。

ブログ更新の事実は何者かによって家庭裁判所に通告され、
事実関係が明らかになるまで、
裁判所の失踪宣言は白紙に戻る。
つまり、3人は遺産相続が出来ない。
その上、ブログは一週間単位で更新され、
堂島の闘病記が記されていた。
それによれば、
今、堂島はA子という女性の介護を受けているというのだ。

本当に父親は生きているのか、
もし生きていないとすれば、
ブログを更新しているのは何者なのか。
更新者が堂島のブログのパスワードを知っているのはなぜなのか。
そして、この時期に更新された真意はなぜなのか。

兄の貴彦は未公開株の詐欺に遇い、
一億近い大損を出している。
姉の美智香は、
アンティーク家具の買い付けで偽物をつかまされたあげく、
マネージャーに金を持ち逃げされて、経営は火の車。
弟の正好はギャンブルに手を出して、
借りた金の厳しい取り立てにあっている。
正好は後妻である母共々家を追い出され、
貧苦にあえいだ恨みを父に抱いている。
それぞれの事情を抱え、
疑心暗鬼は続く。

これに、一時期父親の介護を任されていた愛子、
正好の借金取り立て役で、遺産相続をネタに
知恵袋となって策謀を巡らす相葉、
家裁調査官の真壁などが絡む。
相葉の調査で、
父親の介護をしていた女性A子の身許が明らかになり・・・

資産家の死によって骨肉の相続争いが巻きおこる、
というのはよくあるパターンだが、
そこに「失踪宣告」という法制度を取り入れたのが本作の新しさ。
ついでに、遺言書の処理を巡る相続人の廃除の制度も併用されている。

そういうわけで、着想は斬新だが、
描き方に難がある。
登場人物に魅力がないのだ。
また、堂島の失踪の原因となる
ある過去の事件への悔恨も、
取って付けた感が強い。

[以下、読む予定の人はスルーして下さい]

なにより穴が開いていると思うのは、
堂島が死んでからのこと。
遺体の焼却は? 埋葬は?
A子の性格からして、不法な手段を取ったとは考えにくい。
だとしたら、死亡診断書、焼却許可書などで、
堂島の死は明らかになってしまい、
失踪宣言どころの話ではなくなるのだ。
そういう、決定的な穴をしっかり埋めてはいない点が難となる。
出版社の校閲係はどうしていたのだろう。

あと注目する点は、
ブログの掲載順序の問題で、
これにはもう一つの仕掛けがなされている。






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