連作短編集『119』  書籍関係

[書籍紹介]

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「傍聞き」(かたえぎき)の長岡弘樹による、
消防官を描く短編集。
和佐見(わさみ)消防署の消防官たちが多数登場するが、
一貫した物語ではなく、
複数の登場人物が各篇で重なり合う。
1作目と9作目までの間に10年ほどの歳月が流れる。

「石を拾う女」

今垣睦生(いまがき・たかお)は、
帰途、河原で石を拾う女・三咲季に出会い、
入水自殺を見抜き、命を助ける。
その後、二人はいい仲になるが、
救急出場要請が出て、駆けつけた先は、三咲季のアパートだった。
何種類かの市販薬を大量に飲んだのだ・・・
何気ない一行の伏線が
後で見事に回収させる、
短編の妙味を感ずる作品。

「白雲の敗北」

火災現場にかけつけた土屋崇文(たかふみ)は、
作曲家の部屋で救助にあたった時、
同じ部屋にいた先輩の栂本(つがもと)俊治が、
部屋にあった現金を着服したのではないかとの疑いを持つが・・・

「反省室」

志賀野安華(しがの・やすか)は、
非番に行った野鳥観察で、
焚き火失火の現場に遭遇する。
その後、地滑りの現場で、
失火の原因を作った五味が土砂に埋まる。
救出作業の中、
上司の猪俣威昌(いのまた・たけまさ)は、
救助担当に安華を指名せず、
不思議な言葉を残す・・・

「灰色の手土産」

小学校の記念講演会で、
「命の大切さ」というテーマで話してほしい、
との依頼を受けた今垣は、
大杉洋成(ひろなり)を指名するが、
大杉は固辞する。
しかし、ある事件の結果、講師を引き受けて・・・
依頼文書・会話記録・新聞記事、講演録・業務日記だけで
構成する意欲作。

「山羊の童話」

元消防官の垂井柾彬(たるい・まさあき)は、
高校時代の同級生・奥本と飲んで、
奥本のアパートで眠っていた時、火災に遇い、
奥本を死なせてしまう。
その後、今垣の捜査で、
火事の原因は垂井が玄関先に置いたペットボトルが
太陽光線を集めての
収斂(しゅうれん)火災ではないかと疑いを持たれるが・・・
「山羊の童話」とは、
現状に嫌気がさしても、
もっと酷い状態を経験すれば、
現状のありがたさが分かる、という寓話。

「命の数字」

栂本の父・康二郎は、
友人宅にいた時、
倒れてきた箪笥で戸を塞がれて、
トイレに閉じ込められてしまう
友人は箪笥の下敷きだ。
何とか外部と連絡を取ろうとするが・・・
プッシュホンの、ある機能を使った救出劇。
しかし、そんな特殊能力があるとは・・・

「救済の枷」

コロンビアのM市に
レスキュー技術の講師として派遣された猪俣は、
身代金目的の拉致に遇い、監禁される。
手錠でつながれた状態で始めは与えられた食事も
やがて途絶える。
どうやら、犯人たちが警察との争いで死亡してしまったようなのだ。
このままでは餓死しかないと考えた猪俣は、
ある方法で手錠を外そうとするが・・・

「フェイス・コントロール」

土屋の大杉に宛てた手紙形式。
土屋は課長の綿貫から陰湿なパワハラを受けていた。
火災が起こり、土屋は現場に向かうと、
火災発生場所の上の階の救助を担当することになった。
その階には綿貫の部屋があり、
大杉が引っ越しの手伝いに行っていた。
梯子車で救助に向かった土屋は、
ベランダで救助を求める大杉を救い出すが、
綿貫は部屋の中で一酸化炭素中毒死してしまう。
その救助の情景をニュース番組の録画で見た栂本は、
ある疑問を呈する。
それは、画面の中の大杉が笑顔だったことだった。
「救助の現場では、救助者は厳しい表情ではなく、笑え」
との教授があるとは知らなかった。

「逆縁の午後」

今垣の幼馴染みで、同じ消防官の吉国智嗣(にしくに・さとし)は、
やはり消防官になった息子・勇輝(ゆうき)が
アパートの消火現場で5階から落ち死亡する。
その「お別れの会」で勇輝のスライド写真を見ながらの
吉岡の挨拶で進行する。
途中で話の落としどころが分かってしまうが、
ちょっと無理がある。
それは「吉国」という珍しい姓なので、
いくらなんでも、
当人は気づくだろう、というものだ。

消防士の日常、上下関係、厳しい訓練などを活写する、
珍しい消防官の小説。
工夫をこらした、企みのある小説群だが、
成功したものも、うまくいかなかったものもある。

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「傍聞き」
                                        




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