小説『刑事の慟哭』  書籍関係

[書籍紹介]

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新宿署の刑事、田丸茂一(しげかず)は、
1年前、誤認逮捕と自殺の騒動の中、
報道陣の見守る前で、
真犯人を連行した行為が
本部に反抗し、恥をかかせたたとみなされ、
主軸から外され、冷遇されていた。

そんな中で、OL殺人とホスト殺人が起きる。
別々に捜査本部が立ち、別々に有力容疑者が浮上し、
捜査本部はその容疑者がホンボシと決めつけている。
2つの事件の共通点を田丸はみつけ、
捜査会議で進言するが、
「また捜査本部への反抗か」
とみなされ、取り合ってもらえない。

共通点というのは、
新宿で起きた企業爆破事件の裁判員裁判で、
その裁判員の候補者かつ落選者が
新たな2つの殺人事件の両被害者だということだった。
しかも、企業爆破事件の犯人として立件された被告が、
強引な捜査による冤罪だというのだから、
警察上層部に受け入れられるはずがなかった。

田丸は神無木と相棒を組まされ、
重要でない捜査に回されるが、
1年前の事件でも田丸と組んだ神無木は、
今度は田丸を信ずる側に回っていた。

捜査会議で、自分の意見が入れられないことを察した田丸は、
それを逆手に取って、
捜査の方向を正しい方向に向けさせようとするが、
田丸を信頼する神無木によって、
逆に阻害されてしまう・・・

作者の下村敦史は、
2014年「闇に香る嘘」で江戸川乱歩賞を受賞。
社会的な題材を取り上げ、今、期待される新人作家だという。
「闇に香る嘘」「黙過」と読んだが、
状況設定、人物造形、文章と
とても読み進む気が失せて、
中途で断念した。

本作は、組織に歯向かったとみなされた刑事の孤独で、
設定が良かったので、読み進むことができた。

裁判員を扱った作品で、
裁判員候補者に身分証明は求められないので、
なりすますことが出来る、というのは盲点だった。

ただ、爆破事件の現場にいた人間が
裁判員候補者に4名いた、などという、
あまりに確率的に無理がある設定には違和感を覚えた。
また、その状況から生まれる犯人の動機も、
それが殺人まで犯すものになるだろうか、という疑問は残る。

自分の意見を入れてくれない上層部を
逆手に取って、一つの方向性に導こうとし、
それを相棒によって阻止されるという状況はなかなか面白い。
背景にインターネットやSNSによる
不満の拡散という病理が設定されているのも、
現代を切り取るものだ。

ただ、文章と会話に未熟な点が多く、
あまり高い評価は与えられない作品だった。





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