小説『白銀を踏み荒らせ』  書籍関係

[書籍紹介]

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雫井脩介の第3作。2002年刊行。
デビュー作「栄光一途」の続編にあたる。
(「栄光一途」は、あまり感心しなかったので、本ブログには掲載しなかった。)

五輪選手選出を巡るドーピング問題で
柔道界を去った望月篠子は、
パリ界隈でブラブラしていたが、
彼と共に訪れたスキー場で、
日本のアルペンチームのヘッドコーチをしている五十嵐と会い、
有力選手のメンタルトレーナーに就くよう要請される。
その選手は石野マークといい、
年子の兄、石野ケビンと共に頭角を顕していたが、
ケビンは1年前の富良野でのワールドカップの時、
転倒事故で命を落としていた。
その精神的痛手から立ち直れないマークに
ポジティブシンキングを注入するのが篠子の役割だった。
篠子はなんとかチームに溶け込むように努力しているが、
チームの居候である
ドイツの大学教授のミハエル・ホフマンから
ある人物に荷物を渡す仕事を頼まれ、
その相手が暴漢に襲われ、
篠子も襲撃されるという事件が起こる。

再び富良野での世界選手権に舞台を移すが、
篠子たちは1年前のケビンの事故が
仕組まれたものであるとの疑念を抱く。
しかし、高速で滑走中の選手を転倒させるという
手立などあるのか。
篠子は、チームの中に潜入していた殺し屋にも命を狙われる。
それを助けてくれたのが、
東京からやってきた相棒・佐々木深紅(みく)だった・・・

前作で柔道界を巡る世界を詳細に描いた筆者が、
今度は一転、スキー競技の世界を、
これまた詳細に描く。
振れ幅の大きさに驚かされるが、
その後の雫井の扱う題材の幅広さを思うと、
既に第3作において、その予兆が現れた感じ。

今回はスキーの世界に踏み込むと、
白人至上主義が頭をもたげて来る。
というのも、スキー競技は「白人の聖域」で、
そこに有色人種が侵入して来るのを好まない人々がいるというのだ。

「もともとスキー界っていうのは白人社会だからね。
言わば白人の聖域ですよ。
日本チームのような有色人たちはゲストにしか過ぎないわけ。
ゲストはゲストらしくしててほしいと彼らは思ってる。
例えば近年、日本はノルディックのジャンプチームや
複合チームがゲストの立場を超えて、
彼らの聖域に踏み込んでいったわね。
聖域の住人は誰もが日本人の活躍を賞賛して
大いなる拍手を送った。
それが紳士である彼らのやり方なのよ。
そして無事にゲストを帰しておいてから言うわけ。
『さあ、ルールを変えよう』と。」


それがケビンの転倒事故の陰謀につながるというのだ。
そして、その背景に浮き上がって来るのが、
「パル」という、白人至上主義の秘密組織で、
その組織から日本チームにも刺客が送られてきた・・・

というわけで、ゴンドラ上での活劇や、
最後のマークの滑走中の活劇と、
劇画的展開が続く。
それも深紅の活躍で、
篠子は脇役となる。
「栄光一途」もそうだったが、
どうも篠子という主人公、線が細く、
いいところは深紅に奪われてしまう傾向がある。
最後の「パル」を巡る展開が、
深紅の深慮遠謀が効果を顕すなど、
真の主人公は深紅ではないかと思わせるほど。

ただ、登場人物が多く、
名前も判然としないので、
人物一覧が必要なのではないか。

この篠子シリーズ、
その後続編がないところを見ると、
あまり評判は呼ばなかったのかもはしれない。





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