小説『2038 滅びにいたる門』  書籍関係

[書籍紹介]

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約20年後の世界を描くディストピア小説
ディストピアはユートピア(理想郷)の正反対の社会のことで、
暗黒郷、地獄郷などとも言われる。

20年後の世界がどうなっているかというと、
まず、南北アメリカ大陸は、
アメリカ合衆・連邦国という一つの国に統一されている。
ひところは28カ国だったEU
イギリスが脱退して以来、脱退国が増え、
11カ国になってしまい、解体が進んでいる。
人口減少が顕著になったドイツ
移民政策を取り、多民族国家になっている。
フランスは南部の原子力発電所が爆発して、
高度汚染地域を抱える事態に。
住民は立ち退きが命じられたが、
その汚染地域にアフリカの紛争地域から
難民が押し寄せ、生活を始めた。
アフリカ諸国は相変わらず紛争にまみれ、
中東は世界の火薬庫のまま。
中国は実体経済の30倍に及ぶ通貨を発行して破綻。
一党独裁の思想的締めつけが過酷になり、
共産主義の名のもとに紅衛兵が横行する時代に戻ってしまった。
その結果、少数民族が独立運動を起こし、
8つの小さな独立国家ができた。
中国周辺のアジア諸国は、
中国の衰退によって領海侵害がなくなったのはいいが、
保護貿易主義がはびこって輸出量が減ったため、ジリ貧状態に。
インドだけが精彩を放っているが、
カースト制度による不満が爆発寸前。
ロシアは見る影もなく、
石油の輸出が途絶えたため、
貿易によって経済をやりくりする手段が途絶えた。
南半球のオーストラリアニュージーランドは、
騒々しい諸大陸から隔絶され、
リゾート地、観光地として繁栄。

アメリカ合衆・連邦国が一人勝ちの状態だが、
それは、次のような理由による。
北部ではシェール資源を採掘する技術が、
南部では水素ガスを採り出す技術が飛躍的に向上し、
エネルギー問題が解決した。
それによって合衆・連邦国は
石油資源を求めて、中近東に代理戦争をさせたり、
ロシアを恫喝しながら駆け引きをする必要がなくなったばかりでなく、
全ての資源が国内でまかなえるため、
他国と貿易する必要もなくなり、
輸入品には高い関税を課し、
徹底的な保護主義を取った。

ただ、問題がないわけではない。
人工知能の発達により、
人間の労働を必要としない職業分野が増えたのだ。
農業、漁業、工業のほとんどがロボットにとって代わられ、
第3次産業でも、
人間の労働を必要としていたものの大部分が消えてなくなった。
良く言えば、ヒトが労働から解放されたということだが、
同時にヒトは金銭を稼ぐ手立てを失ったということで、
大量の失業者が世にあふれる事態となった。
貧富の差は限りなく拡大し続け、
貧しい民は「棄民」として
強制的に社会からはじき出す政策が取られた。
労働力がいらなくなったということは、
ヒトがいらなくなる、ということだからだ。

政府は巨費を投じて人工知能(AI)を開発。
その頂点となった「アレクサンドロス19世」
重要な政策を神のごとく決めるようになった。
そのアレクサンドロス19世が
パリのエッフェル塔を弾道ミサイルで攻撃せよ、
という“ご宣託”を発するところから物語は始まる。

その託宣は、ほんの一部の人間の間での秘密事項となるが、
その託宣を聞いた一人、アインという青年と
アメリカ合衆・連邦国のムーン大統領を
主軸に物語は展開する。

アインは20歳で国家公務員として採用され、
アレクサンドロス19世とずっと向き合ってきた。
執務室に監禁され、
アレクサンドロス19世へのデータ入力を担当。
従ってアインの脳はアレクサンドロス19世の人工の脳とつながった状態。
アインは託宣を聞いた少数の人間で、
その秘密を守るために消されそうになる。
しかし、救出組織の働きで解放され、
あるコミュニティに救い出される。
そこは首都に近い、棄民たちのコミュニティで、
そこで生活しながら、
アインは徐々にアレクサンドロス19世の呪縛から解かれていく。

一方、アメリカ合衆・連邦国のムーン大統領は、
託宣の実行をためらっていた。
彼は棄民政策の廃絶を政策に抱えていたが、
それは各方面からの反対でにっちもさっちもいかない状態。
部下の政策部長たちは保身に走り、
大統領の言うことを聞かない。
AI予算は国家予算の3割、
軍需予算は2割に達している。
消費税は35パーセントになり、
あいかわらず世界はマネーゲームに沸いている。
ストレスのたまる中、
アインの所属するコミュニティから
棄民政策を廃絶する手紙が届き・・・

そして、物語は意外な結末を迎える。

わずか20年後の世界の有様にはゾッとさせられる。
その時代になっても、
核兵器が温存されており、
北朝鮮さえまだ存続していることに驚かされる。
また、アレクサンドロス19世には
人類が語ってきた神話が全てインプットされており、
その結果、歴史的に優位だった
旧約聖書と新約聖書が優勢となり、
地政学的判断も
ユダヤ教、キリスト教に有利に働くようになっている、
などという指摘も興味深い。

著者の廣田尚久 (ひろた・たかひさ) は、
1938年生まれで、
東京大学法学部卒の弁護士。
紛争解決学の創始者だという。
相当な博識。

題名は、
新約聖書のマタイによる福音書7章13節の
「狭き門より入れ。
滅びにいたる門は大きく、
その路は広く、これより入る者は多し」
から取られている。





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