評論『明智光秀 五百年の孤独』  書籍関係

[書籍紹介]

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本能寺の変は、日本歴史最大の謎とされている。
その中核にあるのは、
明智光秀は何故謀叛を企てたのか、で、
信長に成り変わって天下を取ろうとした野望説
信長に与えられた恥辱による個人的怨念説
はたまた秀吉や朝廷をはじめとする黒幕説など様々なものがある。

著者は独特な観点から、
従来の説を覆し、
新たな光秀像を現出する。

その主な趣旨は、次のとおり。

・光秀は当時の戦国武将の中で教養にすぐれ、学識あふれ、
 戦略にも通じた一級の武将であった。
・信長の家来の中でも、秀吉などより
 はるかに信長の信の篤い筆頭の家来であった。
・しかし、独自の世界観、日本観から、
 信長とは相いれないものがあった。
・特に、光秀は天皇親政を目指しており、
 自ら天皇に替わろうとする信長とは決定的な齟齬があった。
・宣教師たちは日本侵略の先兵であり、
 このままでは日本の国風、伝統、文化が破壊されはしないかと
 日本の知識階級は脅威視していた。
・天皇親政をめざす光秀は、独裁的独善的な絶対神という
 キリスト教の教えは国をあやうくすると考えた。
 従って、キリスト教を容認する信長を、
 国を危うくする存在として排除したかった。
・その他、信長の仏教徒虐殺などの方針に対して、
 内心許せないものを感じていた。
・実は、信長を危険視する風潮は、当時蔓延しており、
 信長を排除する政治行動、義挙を誰もが薄々期待し、
 しかし誰もが日和見主義に走っていた。
 その後押しを得て、光秀は立った。
 天皇を守り抜く、国体を守るために
 信長を仕留めねばならないという、
 正統な歴史認識に立脚していた。
・しかし、天下取りの野心はなかったため、
 後続を引っ張る戦略に欠けていた。
 そもそも光秀は君側の奸を討ち、
 天下に正義を訴えることだけが目的であった。
・従って、権謀術数に長けた秀吉にしてやられてしまった。
・光秀を「天下の謀反人」に仕立て上げたのは秀吉であった。
 光秀を悪役にしておけば、
 秀吉の権力簒奪という暗い本質が回避できたからだ。
・光秀が百姓に竹槍で刺されたという説は、
 おそらく秀吉の創作である。
 光秀の最期はみっともない方がよかったのだ。
・公家や朝廷が黒幕だったという説が間違いなのは、
 光秀を過小評価しているから。
 当時、光秀は信長軍団にあって最強の武将であり
 知謀の人でかつ文化人であった。
 つまり、信長を脅かす最大最強のライバルであった。

なるほど、信長の存在を危険視していた雰囲気があった
というのは納得できる。

中でも、信長が評価されるようになったのは
明治以降であるという説は注目に値する。

・江戸時代、信長は評価されていなかった。
・信長を祭る神社は江戸時代に存在しない。
 信長を祭る神社は明治2年と3年に建立された2社しかない。
・江戸時代の古文書には、
「信長は公家を蔑ろにして万民を悩まし、
 苛政や暴虐は数えきれず、
 信長の死を人々は拍手した」という記述が見られる。
信長評価のきっかけは、
 明治の新政府が富国強兵、産業の近代化を目指すにあたり、
 忘れられていた英雄を祭り上げて
 国民を糾合する必要があったため。

そして、信長・秀吉・家康をめぐる
おびただしい小説
虚構を膨大に作り上げる。

そもそも戦国時代は下克上の時代で、
臣下が上の者を裏切るのは日常茶飯事。
しかし、光秀だけが
「天下の謀反人」「主殺し」の汚名を着せられている。
国を憂い、日本の国の形を維持するために
危険な信長を葬った
光秀の真意は理解されないままだった。
つまり、約五百年にわたり
「主殺し」としてのイメージが定着したままでいた。
そこで題名の「五百年の孤独」となるわけだ。

この本の中で目を開かれた思いがしたのは、
キリスト教の宣教師が、
実は日本侵略の先兵だった、という点で、
言われてみれば、南米もアジア諸国もアフリカも
キリスト教宣教の名を借りた侵略が行われたことは事実である。
そのキリスト教の信長の受容が
光秀の行動の一因であったということは、
今までにない観点だと思う。
なお、宣教師の本国への報告には、
日本は武士団という強固な戦闘集団がおり、
侵略は不可能、というものがあったという。

豊富な史料と綿密な取材で綴る歴史再考の書
従来の「光秀本」と異なる観点で興味深かった。

著者の宮崎正弘氏は、1946年、石川県金沢生まれ。
早大英文科中退。
「日本学生新聞」編集長などを経て論壇へ。
歴史評論、日本近現代史論、文藝評論などをこなす。
一方でチャイナ・ウォッチャーの第一人者としても知られている。


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