中編連作集『昨日がなければ明日もない』  書籍関係

[書籍紹介]

クリックすると元のサイズで表示します

「誰か Somebody」(2003)「名もなき毒」(2006)
「ペテロの葬列」(2013)「希望荘」(2016)と続く
宮部みゆき杉村三郎シリーズ第5弾となる中編集。

前作で探偵業に転身した三郎は、
東京都北区の大地主の竹中家の好意で
その屋敷の一角を間借りし、
主にオフィス蛎殻の下請けで生計を立てている。
その小さな探偵事務所に依頼に来た3件の事件を扱うのが、本書。

「絶対零度」

杉村探偵事務所の10人目の依頼人は、
50代半ばの品の良いご婦人。
一昨年結婚した27歳の娘・優美が、
自殺未遂をして入院したのだが、
夫のガードで1ヵ月以上も面会ができず、
メールも繋がらないのだという。
それまでは頻繁に連絡を取り合った
親密な母娘関係だったというのに。

三郎の調査では、入院先のメンタル・クリニックには、
入院している痕跡がない。
夫が先輩と一緒に遠出をしている様子もある。
調べていくと、その先輩が主宰するホッケークラブで
何か事件があったらしい。
優美は生きているのか、それとも・・・

事件は意外な展開をし、
殺人事件にまで発展する。
その背景として、
大学のスポーツ部OBの人間関係が浮き彫りになり、
そのがんじがらめの関係が事件の要因であったことが分かる。
先輩後輩関係の闇に迫るが、
どうにも後味の悪い内容だ。

絶対零度とは、
ある登場人物の中に芽生えた
復讐の決意に凍りついた、という意味。

「華燭」

三郎は近所に住む小崎さんから、
姪の静香の結婚式に出席してほしいと頼まれる。
小崎さんは妹(静香の母親)と絶縁していて欠席するため、
中学2年生の娘・加奈に付き添ってほしいというのだ。
絶縁の原因は、25年前、
小崎さんの結婚式当日、妹が新郎と共に駆け落ちして、
結婚式が台無しにされたことがあったからだ。
姉と妹は関係を絶っていたが、
たまたま加奈の通った私学の事務職員に静香がいて、
従姉妹同士は知り合いになった関係で、
結婚式に出ることになったのだ。

気楽な付き添いのつもりでホテルに行った三郎だったが、
異様な光景を目にする。
もう一組の別な結婚式で若い花嫁が逃走、
静香の結婚式も新郎側の不祥事で式が取りやめになったのだ。
同じホテルの同じフロアの結婚式が
二つとも中止になるという事態。
その上、三郎は加奈と共に、
もう一つの結婚式の若い花嫁が階段にうずくまって
泣いているのに遭遇する。

これも意外な展開で、
25年前の姉と妹の相剋があぶり出されて来るのだが、
小振りな事件ながら、
血族同士の憎しみのすごさがうかがえる一篇。

「昨日がなければ明日もない」

事務所兼自宅の大家である竹中家の関係で、
29歳の朽田美姫からの相談を受けることになった。
美姫は奔放というよりいい加減な女性で、
16歳で最初の子(女の子)を産み、
別の男性との間に6歳の男の子がいて、
しかも今は、別の彼と一緒に暮らしているという。
縁の切れた男の子が交通事故に遇い、
それを実家の陰謀だとして、
賠償金を請求したいというのだが・・

こういう人間って、いるのかな、
というような歪んだ性格の人物
宮部みゆきの作品には時々出て来るが、
この美姫という女性もその典型。
どこまでも自己中心で、どこまでも身勝手で、
その被害は家族にまで及ぶ。

これも、事件は意外な展開をするが、
後味はすこぶる悪い。
3編すべてに共通するのは、
「ちょっと困った女たち」が登場すると、
帯に書かれているが、
この3本目に登場する女性は
困ったどころか、
社会に存在していてはいけない人物である。

物語に救いがあるのは、
そうした迷惑な女性を取り巻く人々が
ごく常識的で善良な人たちであることだ。
そして、三郎自身の性格の温かさが、
作品全体を貫いていること。

それにしても、
宮部みゆきのストーリーテラーの才能
とどまるところを知らない。

「オール読物」に2017年11月号、
2018年3月号、11月号と、
3篇をそれぞれ一挙掲載。
これだけの作品を一挙掲載するなど、
文藝春秋は懐が深い。


シリーズのこのブログでの紹介は、↓をクリック。

「名もなき毒」

「ペテロの葬列」

「希望荘」





AutoPage最新お知らせ