小説『盗まれた顔』  書籍関係

[書籍紹介]

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羽田圭介の警察小説。
2012年の作品だから、
「スクラップ・アンド・ビルド」(2015)で芥川賞を取るより前の作品。

「見当たり捜査」という
警察の中でも特殊な捜査を扱っている。

見当たり捜査とは、
手配犯の顔を覚え、
繁華街に立って目の前を通りすぎる人々の顔の中から
記憶の中の犯人を見つけて逮捕する、
という気の遠くなるような捜査方法だ。

作者の創作かと思ったら、
実際にそういう部署があり、
報道番組でも紹介されていた。
羽田は、2010年に「見当たり捜査員」の特集を、
偶然点けたテレビのニュース番組で見たことが
本作執筆のきっかけになったという。

NHKでも2017年6月、
ドキュメンタリーが放送されていた。

大阪府警が昭和53年に全国で初めて導入し、
これまでに全国最多の4000人以上を検挙

本庁の見当たり捜査員の所属は、
警視庁刑事部捜査共助課
4班に分かれ、1班3人体制で
捜査を行う場所は指示されることはなく、
都内全域のどこで捜査しても構わない。
ある時は渋谷、ある時は新宿、ある時は池袋、
秋葉原、上野、東京ドーム前・・・と町に立ち、
通行人の顔と頭の中の写真帳と照合する。

一人が手配班を見つけると連絡を取り合い、
手元の「顔手帳」という写真集と照らし合わせて人物を特定し、
他の二人が「当たり」を確認すると、
声かけ係、拘束係、逃走経路の遮断と役割分担して捕獲、
交番またはパトカーに引き渡す。

決まりはないが1カ月に1人の逮捕が目安で、
連続無逮捕期間が1カ月を過ぎるとプレッシャーがかかり、
2カ月、3カ月と無逮捕期間が続くと、
過酷な精神状態になり、
誤認逮捕の恐れが出て来る。

手配犯の顔を見つけられない見当たり捜査員は、
血税でまかなわれる組織の運営資金を食いつぶす
無能な散歩者でしかない。


手配犯との遭遇率は0.00006%以下
誠に大変な仕事だが、
実際にこの捜査で手配犯が逮捕されている実績があるのだからすごい。

特定の一人を街中で探すのと、
どこにいるかもわからぬ500人を
あてもなく探すのは、
似ているようでいてまったく異なる。
見当たりは、絶望的なほど低い可能性、
自らの行為の不毛性を見ないようにすることで、
なんとか続けられる捜査だ。
ハズレ券の海の中で泳いでいるようなものである。


手配犯は整形手術を受けることが多いが、
顔全体のパーツの配置、目玉、耳だけは、
加齢による経年変化が少なく、
人工的に変えようにも変えられないという。

小説の主人公は班長の一人、
白戸崇正(しらとたかまさ)。39歳。警部補。
常時500人分の顔手帳を持ち歩いているが
3000人分を超える顔を記憶している。
捜査共助課は普通3年といわれるが、
もう5年目になっている。
部下は谷遼平(たにりょうへい)と安藤香苗(あんどうかなえ)26歳。
安藤は優秀で素晴らしい相貌識別能力を持ち、
研修期間中の2週間で、
70人の顔を覚え手配犯2人を発見して名を上げた。
一方、谷は無逮捕期間が長く、
あやうく誤認逮捕をしてしまいそうなほど追い詰められている。

白戸は安藤と谷と共に、
群衆の中から中国人の手配犯人、王龍李を見つけ逮捕する。
白戸は谷とともに王を大阪府警に搬送するが、
大阪駅で王が殺害されてしまう。
そんな中、白戸は、決して見るはずのない人物を
目撃したような気がする。
4年前に死んだはずの先輩捜査員・須波通(すなみとおる)だ。
須波は優秀な見当たり捜査員で、
白戸が慕っていた人物だった。
須波には在日中国人二世の恋人がおり、
彼女が中国マフィアに殺されたことで、
復讐のために中国マフィアの構成員を次々に仕留めていき、
最後は中国マフィアの報復により命を落とした男だった。
白戸は見間違いだと思おうとしたが、
須波にまつわる噂を耳にする。
白戸は同期の組織犯罪対策第一課所属の小池に頼んで
須波に関する情報を集めるが、
中国マフィアや公安警察が動き出し、
白戸は命を狙われることになる・・・

これと並行して、
白戸の私生活、出会い系サイトで知り合った千春33歳との
4年にわたる同棲の中、
千春が最近何か隠し事をしていると感じている、
という話がからむが、
生煮えで、本筋には関わらない余計なエピソード。
出会い系サイトで「顔で選んだ」という要素が
何かに関わると面白かったのだが。

冒頭、新宿で逮捕した塚本という
外資系精密機器メーカー社員が関わって来て、
白戸がある人物を追尾しつつ、
追跡を順に振り切って、
ある場所に到達するあたりは、
サスペンス感一杯。
白戸がある組織から追跡を受ける立場で、
「見る側」である自分が
「見られる側」になっていたという皮肉。

また、白戸が「あの顔には見覚えがある」と追跡した挙げ句、
声をかけてみると、
数年前に見当たり捜査で逮捕した犯人で、
既に刑期を終えて出て来た男だったりする。
白戸には、「一度覚えた顔を忘れない」という欠点があったのだ。

面白い題材だが、
顔の記憶というアナログ手法と、
顔認証システムというデジタルなものとの確執、
町じゅうに張りめぐらされた監視カメラなど、
もう一つ踏み込んだ世界が描けなかったか、の不満は残る。


WOWOWで連続ドラマ化され、
1月5日から毎週土曜放送。

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連続5回で2月2日が最終回。
白戸を演ずるのは、玉木宏

予告編は↓をクリック。

https://youtu.be/6buKjHWSbKk


映画『バジュランギおじさんと、小さな迷子』  映画関係

[映画紹介]

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パキスタン北部の村に住む少女シャヒーダーは
生まれつき言葉を発することができず、
親は心配していた。
そこで、隣国インドのデリーにある
イスラムの聖者廟に参拝することになるが、
兵役経験があるためビザの取得が困難な父に代わり、
母がシャヒーダーと共にデリーに向かい、
娘が言葉を話せるように祈願する。
その帰り道、印パ国境検問所付近で
線路修理のために列車が停車中に
窓外に山羊を見たシャヒーダーが列車を降りてしまい、
動き出した列車に置き去りにされてしまう。
シャヒーダーがいないことに気付いた母は娘を探そうとするが、
列車は既に国境を越えていたため
探しに向かうことができなかった。

「ライオン〜25年目のただいま〜」(2016)を想起させるが、
インドでは日常茶飯事のようだ。
「ライオン」は実話だが、
こちらはフィクション。

インドに取り残されたシャヒーダーは
貨物列車に乗り込んで、
見知らぬ町に辿り着き、
インド神話における猿族の神様・ハヌマーン↓の

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祭りの行われている町で
一人の青年・パワンに出合う。
パワンは警察にシャヒーダーを預けようとするが断られ、
彼女を連れて自身が暮らすデリーに向かう。

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パワンは婚約者ラスィカーの自宅にシャヒーダーを住まわせて
彼女の故郷を探そうとするが、
口がきけないので、思うにまかせない。
そのうち、シャヒーダーが
回教徒のパキスタン人であることが判明し、
ラスィカーの父は「異教徒は住わせられない」と激怒、
パキスタン大使館経由でパキスタンに追い返すように
パワンを促すが、
大使館は反パキスタン暴動の影響で閉鎖されてしまう。
困り果てたパワンは知り合いの旅行代理店に助けを求め、
お金を払って預けるが、
旅行代理店の男は少女を売春宿に売り飛ばそうとしており、
激怒したパワンはシャヒーダーを取り戻し、
自分の力で彼女を両親のもとに送り届けようと決意する。

二人は密入国業者の手配で地下トンネルを通り、
パキスタンに入国するが・・・

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というわけで、異国の少女を助ける話の背景に、
インドとパキスタンの民族紛争、
宗教紛争が横たわっていることが分かる。

パキスタンは、
19世紀には英領インドとして
インドと同一の政府の下に置かれており、
独立運動も本来は同一のものであった。
しかし、独立運動の中で
イスラム教徒とヒンドゥー教徒との対立が深まり、
ヒンドゥー教徒地域がインド、
イスラム教徒地域がパキスタンとして分離独立をすることとなった。
(インド東部の東パキスタンは後にバングラデシュとして分離独立)

独立の経緯以来、
インドとの間では緊張関係が継続し、
1947年、1965年、1971年と
3回の全面戦争を経験している。
互いに核保有し、
2001年のイスラム過激派による
インド国会議事堂襲撃テロを巡る対立では、
当時のムシャラフ大統領は
「インドへの核攻撃も検討した」と回想している。

こうした背景を知ると、
父親が軍歴があるからビザが取れないとか、
国境付近での厳重な警戒やスパイ容疑など、
パワンとシャヒーダーの潜入行がいかに困難なものかが分かる。

その困難なミッションがどうやって達成されるかがキモだが、
親の元に届けられるのは分かりきっているので、
その間の途中のディテールがものを言う。
物語を支えるのは、
パワンの馬鹿がつくような正直者の造形と、
シャーヒダーを演ずる子役の可愛さだ。
なにしろパワンの馬鹿正直っぷりは、
密入国後、「警備隊の許可がほしい」と言い出す有り様なのだ。
「ハヌマーン教徒はコソコソしない」という言やよし。
しかし、途中でパワンの真っ正直も、
多少の嘘は許される、と変わるし、
異教にも理解の蓋が開く。
試練により、パワンも成長したのだ。

途中で関わって来る特ダネ目当てのTVレポーターも面白い。
撮影した映像を放送してシャヒーダーの両親を探そうとするが
番組制作会社の社長に「話題性がない」という理由で拒否されてしまう。
レポーターは言う。
「憎しみのニュースには人々は飛びつくが、愛には関心ない」
そこで、You Tubeの出番となる。
全くSNSは世界の情報伝達を変えた。
画像に写っていたある事実から、
シャーヒダーの故郷が判明するのだが、
警察の手もすぐ背後に迫っていた・・・

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パワンと少女の運命はどうなる。
そして、パワンはインドに戻れるのか、
更に少女の失った声は・・・?

インド映画らしい、
前向きでポジティブな色合いが
観る者の心を洗う。
なにより、愛と誠意と正直が世界を救うという、
まっとうで力強いメッセージ。
国境も民族も宗教もそれらの前では障壁とはならない。
二人の旅の途中のパキスタンの風景が美しい。
(撮影はインドだが)

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歌と踊りのダンスシーンもちゃんとある。

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「読後感」はすこぶるよく、
幸福な気持ちで帰路をたどれる。
これぞ、映画を観る楽しさ。

パワンを演ずるのは、
ボリウッドの大スター、サルマーン・カーン

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口のきけない少女役は、                             
5千人のオーディションから選ばれたというハルシャーリー・マルホートラ

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監督はカビール・カーン

2015年の映画だが、
各国の映画賞で沢山の賞を獲得しており、
興行も抜群の成績を収め、
インド映画興行成績歴代3位だという。

原題は「Bajrangi Bhaijaan」(バジュランギ兄さん)。
バジュランギは猿神ハヌマーンの別名で、
パワンの愛称。
熱心なハヌマーン信者なのでついたものらしい。

5段階評価の「4」

予告編は↓をクリック。

https://youtu.be/F4JrMk1iyb0

109シネマズ木場他、少数の劇場で上映中。
もっと沢山の映画館でやれないものか。

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『韓国人の交渉術』紹介がヘイト?  政治関係

ニュース番組『プライムニュース イブニング』(フジテレビ系)で
取り上げられたある特集が話題になっている。

1月24日放送で、
レーダー照射事件が取り上げられ、
その中でメインキャスターの反町理氏が
産経新聞ソウル駐在の黒田勝弘記者による
「韓国人の交渉術」をフリップで紹介。
そこには「強い言葉で威圧」「周囲にアピール」「論点ずらし」
書かれており、
黒田さんは
「レーダー照射に関して言えば、
韓国政府は自衛隊機の低空での威嚇飛行を
新たにポイントとして出すことによって、
論点をずらし、
韓国国内ではもはやレーダーの話は消えた」
と述べていた。

これについて、
「韓国政府の対応を批判するのは当然だけど、
民族全体に落とし込むのは差別としか言いようがない」
「明白な民族差別行為。BPO案件だと思う」
「明らかに韓国人への差別的な言説だわ」
といった批判の声が殺到。
ヘイトスピーチでは、との指摘が多く寄せられている。

では、肝心の黒田さんのコラム
「韓国人のケンカの仕方」(産経新聞1月25日)
を読んでみよう。


韓国人のケンカには三つの特徴がある。

まず威張った態度で
強い言葉や大きな声を出して
相手を萎縮させようとする。
2つ目は、周囲に訴え味方を増やして有利になろうとする。
3つ目は、争点をずらし
別の争点を持ち出して挽回しようとする。

このうち、3つ目が興味深い。
たとえば二人が何かで争っていると、
そのうち決まって「その言い方は何だ!お前の年はいくつか?」となる。
そして「年下のくせに、謝れ!」とか
「年上ならどうなんだ」と年齢争いになる。

あるいは激高しながらお互い
「何なら殴ってみろ!」と言って顔を突き出す。
先に手を出すと「殴りやがったな!」と相手を非難し、
それを周囲に触れ回って優位にたつ。

最近の日韓間の軍事的トラブルにおける韓国側の振る舞いも、
こうした伝統スタイル(?)に合致している。

日本側に「無礼だ!」などと言って威張るのもそうたが、
そのうち本題の韓国艦による
火気管制レ−ダ−照射問題はそっちのけで
日本の哨戒機の接近飛行を非難し始めたのは、
不利脱出のための論点ずらしの典型である。

しかし哨戒機接近への非難に熱を上げ
「今後は警告射撃もありうる」などとマスコミに言わせているのは、
哨戒機へのレ−ダ−照射を自認し
正当化しているようなものだ。


これのどこがヘイトなのか。
韓国在住40年近い黒田さんが、
その卓越たる観察眼で
韓国人の性質を分析しているだけのことだ。

そうか、ヘイトと話を振ることで、
また論点ずらしをしているか。

韓国のマスコミが
「安倍首相が支持率挽回のために反韓感情を利用した」
という日本人が聞いたら笑ってしまうような
見方を掲載しているが、
これも論点のすり替え。

このケンカのやり方、
思い当たる節がある。
ロサンゼルスの公立校の壁画↓。

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これに「旭日旗を想起させる」
といういちゃもんを付けたのだ。

そのやり方が、まさに黒田さんの書いたとおり。

校長および学区長らに
公開質問状を突きつけ、
同校周辺で集会で気勢を上げたのちデモを繰り広げる。

→@威張った態度で
  強い言葉や大きな声を出して相手を萎縮させようとする。

公開質問状の署名には、
反日32団体が名を連ねている。

→A周囲に訴え味方を増やして有利になろうとする。

「この壁画の太陽は
日本帝国主義のシンボルである旭日旗を思い起こさせる」

→B争点をずらし別の争点を持ち出して挽回しようとする。

そもそも、この壁画は、女優エバ・ガードナーと
ヤシの木をモチーフにして、
朝日の光が放射状に広がる構図を取っている。
色見も違えば、数も違う。
大体、中央にある大きな太陽も描かれていない。
それを「旭日旗に見えて辛い」と論点をすり替えているのだ。

この壁画騒動、その後進展はあったのだろうか。

レーダー照射問題は、
お互いに証拠を出し合ったが、
とにかく韓国にはあやまる姿勢がない。
低空飛行の写真も海面が写っていないのだから、
証拠にはなり得ない。
それでいながら、
日本が出した音声データは、
「単なる雑音」と聞く耳を持たない。

聞けば、韓国トップの国防会議で、
強行姿勢を貫けと、方針が出たのだという。

つまり、日本と韓国は軍事的に協力関係が崩れてもいい
と思っているのだろう。

だから、強行姿勢だけを取り続ける。

在韓米軍の問題も同様で、
駐留経費に関する米韓協議で、
米国が韓国に対し、
最低でも約1兆1300億ウォン(約1130億円)の負担
を要求しているのに対し、
韓国側は応じず、平行線が続いているという。

要するに、文政権は、
アメリカが堪忍袋の緒を切って、
在韓米軍撤退を言い出すのを待っているのではないか。

レーダー照射問題も対立を煽り、
日韓軍事協力の日本側からの破棄を言い出すのを待っているのではないか。

在韓米軍が撤退したらどうなるか。

文政権は一般国民に知らさないまま、
北主導の統一に進み、
半島は核を持った統一国家が出現する。
少なくとも文政権の間にそこまで無理やり持っていくだろう

しかし、今の経済格差の中での南北統一は、
南の市民にとっては悪夢の到来だ。
内戦が起こり、
半島は戦火にまみれるだろう。

前にも書いたが、
この国は、そうなってみなければ、
目が覚めないのかもしれない。


ところで、徴用工をはじめ、
韓国の主張の根底にあるのは、
「日本は韓国を侵略し、
植民地支配をした」
というもので、
そこから始めて徹底的な反日教育をしている。

それに対して、当時の実情を知る韓国の大学教授が
テレビのインタビューに答えている。
大変公平な見方をしているので、
是非ご覧いただきたい。

https://youtu.be/HBZowZgUHys



紀行文集『ラオスにいったい何があるというんですか?』  書籍関係

[書籍紹介]

クリックすると元のサイズで表示します                                       

村上春樹
の紀行文集。

目次は、
○チャールズ河畔の小径ボストン1
○緑の苔と温泉のあるところアイスランド
○おいしいものが食べたいオレゴン州ポートランド/メイン州ポートランド
○懐かしいふたつの島でミコノス島/スペッツェス島(ギリシャ)
○もしもタイムマシーンがあったならニューヨークのジャズクラブ
○シベリウスとカウリスマキを訪ねてフィンランド
○大いなるメコン川の畔でルアンプラバン(ラオス)
○野球と鯨とドーナッツボストン2
○白い道と赤いワイントスカナ(イタリア)
○漱石からくまモンまで熊本県1
○「東京するめクラブ」より、熊本再訪のご報告熊本県2

うち、アメリカのボストン、ギリシャ、イタリアは
著者が住んだことのあるところで、
後は旅行で訪れた場所だ。

本の題名は、
ラオスに向かうためにベトナムのハノイで一泊した時、
ハノイの人に「どうしてまたラオスなんかに行くんですか?」
と質問され、その言外に
「ベトナムにない、いったい何がラオスにあるというのですか?」
というニュアンスが読み取れたというもの。

これに対して、著者はこう考える。

そんなことを訊かれても、僕には答えようがない。
だって、その何かを探すために、
これからラオスにまで行こうとしているわけなのだから。
それがそもそも、旅行というものではないか。


まさに正しい答である。

これらの場所の中で、
ラオスとアイスランド、
それにニューヨークのジャズクラブには行ったことがあるので、
やはり親近感が沸く。
私と同じものを見て、
この高名な作家がどのように感じるのか、興味が尽きない。

アイスランドの部分で、
バフィンという鳥の記述が面白かった。
ウエストマン諸島というところには、
約600万羽のパフィンが巣を作っていると言われ、
アイスランドの人口30万人と比べてすごい数だと驚く。
パフィンの親は、子供をある程度育ててしまうと、
「あとはもう自分でやってね」
という感じで、さっさと海に飛び立ってしまうのだという。
子供たちだけ取り残され、
餌を取れない子供はそのまま死ぬ。
町には、親に捨てられたはぐれ者パフィンが沢山やって来る。
町の子供がそれを保護し、
海に向かって放してやる。
なかなかの光景である。

私のアイスランド旅行はツァーで、
そんなパフィンの島なんか行かないから、
その話を聞いてわくわくしてしまう。

村上氏は美食家で、
アメリカの東と西にあるポートランドの店の描写など、
うわ、食べてみたい、と思わせる。
行かないけどね。

ボストンの描写で、
なんでこれはこうなのか、と訊くと、
「さあ、よくわからんけど、
昔からとにかくそうなっている」
という答が返って来るのは面白い。
そう言われてみれば、
世の中には、「昔からそうなっている」ことが多いのではないか。

あとがきで、ラオスについての質問が繰り返され、
また、答える。

言われてみれば、ラオスにいったい何があるというのだろう?
でも実際に行ってみると、
ラオスにはラオスにしかないものがあります。
当たり前のことですね。
旅行とはそういうものです。
そこに何があるか前もってわかっていたら、
誰もわざわざ手間暇かけて旅行になんて出ません。
何度か行ったことのある場所だって、
行くたびに「へえ、こんなものがあったんだ!」
という驚きが必ずあります。
それが旅行というものです。
旅っていいものです。
疲れることも、がっかりすることもあるけれど、
そこには必ず何かがあります。
さあ、あなたも腰を上げてどこかに出かけて下さい。


同感である。


映画『ライ麦畑の反逆児』  映画関係

[映画紹介]
                                
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大ベストセラー「ライ麦畑でつかまえて」を書いた
ジェローム・デイヴィッド・サリンジャー(1919〜2010)の半生を描く。

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サリンジャーが登場する映画は、
少年院から出てきたばかりの少年が、
「ライ麦畑でつかまえて」の主人公
ホールデンのその後を知りたいと、
サリンジャーに会うための旅をする
「ライ麦畑をさがして」(2001)、

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「ライ麦畑でつかまえて」を舞台化しようとした高校生が
原作者であるサリンジャーの許可をとるために、
サリンジャーと会いに出かける
「ライ麦畑で出会ったら」(2015)、

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などがあるが、
サリンジャー本人を主人公にした映画は初めて。

ライ麦・・・
イネ科の栽培植物で、小麦、大麦の仲間。

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食用や飼料用としてヨーロッパや北アメリカを中心に広く栽培される穀物。
寒冷な気候や痩せた土壌などの劣悪な環境に耐性があり、
主に小麦の栽培に不適な東欧および北欧の寒冷地において栽培される。
パンとしての利用のほかに、
種子は醸造用としてウイスキーやウォッカの原料ともなる。

↓は私のお気に入り、ライ麦入りパン。

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「ライ麦畑でつかまえて」・・・
1951年、7月16日に出版された小説。

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高校を放校となった17歳の少年ホールデン・コールフィールドが
クリスマス前のニューヨークの街をめぐる物語。
口語的な文体で社会の欺瞞に対し鬱屈を投げかける内容は
時代を超えて若者の共感を呼び、
青春小説の古典的名作として世界中で読み継がれている。

サリンジャーの分身、ホールデン・コールフィールドは、
成績不良で退学処分を受ける。
ホールデンは学校を追い出される前に自分からここを出て行くことを決め、
ニューヨークに向かう。
ニューヨークに着くとホテルを取り、
ミーハーな女の子たちどダンスしたり、
ナイトクラブでピアノ演奏を聴くが、
会う人間たちの俗物性に嫌気が差し、
ますます気分が落ち込む。

エレベーター係の男に娼婦を斡旋されたり、
二人の尼僧と知り合ったりする中、
女友達のサリーに電話してデートの約束を取り付ける。
サリーと待ち合わせて、
ブロードウェイで演劇を観るが、
役者や観客の欺瞞に辟易する。
ホールデンはサリーに、
今から二人で田舎にいってそこで結婚して
自給自足の生活を送ろうと持ちかけるが、
サリーにはまったく相手にされない。

一度家に帰って妹のフィービーに会うが、
フィービーはホールデンが放校になったことを知ると、
兄は「けっきょく、世の中のすべてが気に入らないのよ」と言う。
その後、両親が家に帰ってきたため、
ホールデンは見つからないようにこっそり抜け出し、
かつての高校の恩師であるアントリーニ先生の家を訪れる。
アントリーニ先生はホールデンに助言を与えるが、
ホールデンは強烈な眠気に襲われ、カウチで眠りにつくが、
しばらくして目が覚めると、
アントリーニ先生がホールデンの頭を撫でている。
驚いたホールデンはすぐに身支度して、そのまま家を飛び出し、
駅で夜を明かす。

翌朝、街を歩きながらホールデンは、
森のそばに小屋を建て、
聾唖者のふりをして、
一家で世間から身を隠して暮らそうと考える。
別れを告げるためにフィービーにもう一度会うが、
フィービーは自分もホールデンに付いていくと言う。
ホールデンは拒否するが、フィービーも譲らず、
険悪な雰囲気のまま動物園に入るが、
そこの回転木馬に乗ったフィービーを
降りだした雨の中で眺めたとき、
ホールデンは強い幸福感を覚える。
ホールデンは家に帰る。

といった内容だが、
ホールデンは社会や大人の欺瞞や建前を「インチキ」と唾棄し、
その対極として、フィービーやアリー、
子供たちといった純粋で無垢な存在を愛し、
その結果、社会や他者と折り合いがつけられず、
孤独を深めていく心理が、口語的な一人称の語りで描かれている。

題名の意味は、
ホールデンが妹のフィービーに語る次のセリフにある。

「とにかくね、僕にはね、
広いライ麦の畑やなんかがあってさ、
そこで小さな子供たちが、
みんなでなんかのゲームをしているとこが目に見えるんだよ。
何千っていう子供たちがいるんだ。
そしてあたりには誰もいない――誰もって大人はだよ――僕のほかにはね。
で、僕はあぶない崖のふちに立ってるんだ。
僕のやる仕事はね、誰でも崖から転がり落ちそうになったら、
その子をつかまえることなんだ――
つまり、子供たちは走ってるときにどこを通ってるかなんて見やしないだろう。
そんなときに僕は、どっかから、さっととび出して行って、
その子をつかまえてやらなきゃならないんだ。
一日じゅう、それだけをやればいいんだな。
ライ麦畑のつかまえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ。
馬鹿げてることは知ってるよ。
でも、ほんとになりたいものといったら、それしかないね。
馬鹿げてることは知ってるけどさ」

これが原題の「The Catchar in the Rye」の意味で、
これに「ライ麦畑でつかまえて」との邦題を付けたのは、
野崎孝訳、白水社、1964年版

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1952年の初訳では、
「危険な年齢」(橋本福夫訳、ダヴィッド社)という
独自のタイトルが付いていた。

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2番目の訳「ライ麦畑でつかまえて」が有名になったため、
その後、ほとんどこの題名で語り継がれているが、
(私はライ麦畑で鬼ごっこをする話だと思ったいた)
3番目の訳では、
「ライ麦畑の捕手」(繁尾久の原書の注釈、英潮社版、1967年)
という題名がついていた。

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野球じゃあるまいし。
一番新しい村上春樹訳では、
「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(白水社、2003年)と英語そのまま。

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先程のホールデンのセリフは、
村上春樹訳では、

「つまりさ、よく前を見ないで崖の方に走っていく子どもなんかがいたら、
どっかからともなく現れて、
その子をさっとキャッチするんだ。
そういうのを朝から晩までずっとやっている。
ライ麦畑のキャッチャー、
僕はただそういうものになりたいんだ」

となっている。

ホールデンは、ニューヨークの朝、
道で小さな子供が
「ライ麦畑で誰かが誰かと会ったら
(If a body meet a body coming through the rye. )」
という歌を歌うのを聞くが、
ホールデンは、
「ライ麦畑で誰かが誰かをつかまえたら
(If a body catch a body coming through the rye.)」
と覚え違いして、そういう話になった。

なお、この歌はスコットランドの国民詩人ロバート・バーンズの歌詞で、
日本では「故郷の空」(夕空晴れて 秋風吹き〜)の歌詞が付けられた。

故郷の空

後にドリフターズがなかにし礼の作詞で
「誰かさんと誰かさん」(1970)と歌い、

誰かさんと誰かさん

年配者からは「冒涜的な替え歌」という批判が出たが、
実は、このザ・ドリフターズ版が一番元歌の雰囲気を醸し出している。

この映画の中でも、
この歌は出て来る。

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さて、映画だが、
主人公のサリンジャーが1939年にコロンビア大学の聴講生となり、
ホイット・バーネットの創作講座に参加する。
バーネットは、トルーマン・カポーティやジョゼフ・ヘラー、
ノーマン・メイラーなど数々の新人作家の作品を
自らが創刊した文芸誌「ストーリー」で最初に掲載し
世に紹介したことで知られる人物。

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サリンジャーは、バーネットの授業に参加して大きな影響を受け、
作家の魂のようなものを植えつけられる。
処女作「若者たち」が「ストーリー」 (1940年3-4 月号) に掲載され、
25ドルという、生まれて初めての原稿料を受け取った。

1941年に「マディソン・アヴェニューのはずれでのささいな抵抗」が
『ザ・ニューヨーカー』に掲載されることになるが、
太平洋戦争の開戦により、
作品の掲載は無期延期となってしまう。
(結局5年後の1946年に掲載される)。
この短編は、作家の分身とでもいうべき
ホールデン・コールフィールドが初めて登場した作品である。

その頃、劇作家ユージン・オニールの娘ウーナ・オニールと交際していたが、
ウーナは1943年に突如チャールズ・チャップリンと結婚してしまう。

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1942年、太平洋戦争の勃発を機に
自ら志願して陸軍へ入隊し、
ノルマンディー上陸作戦に一兵士として参加し、
激戦地の一つユタ・ビーチに上陸する。
強制収容所を見たことやナチ狩りでトラウマを得て、
神経衰弱と診断され、ニュルンベルクの陸軍総合病院に入院する。
入院中にドイツ人女性医師シルヴィア・ヴェルターと知り合い結婚。
その後、離婚。

1949年頃、コネチカット州ウェストポートに家を借り執筆生活に専念、
「ライ麦畑でつかまえて」の執筆を開始。
当初予定していた出版社から
「狂人を主人公にした作品は出版しない」と出版を拒否され、
別な出版社から刊行。
文壇からは賛否両論があり、
保守層やピューリタン的な道徳的思想を持った人からは激しい非難を受けた。
ホールデンの言葉遣いや態度を、
カリフォルニア州の教育委員会が問題とし、
本書は学校や図書室から追放されることになった。

しかし主人公ホールデンと同世代の若者からは圧倒的な人気を誇り、
30カ国語に翻訳され、
全世界で累計6500万部以上の売り上げを記録。
現在でも毎年約25万部が売れ続けている。
日本でも累計320万部を越えた。

時代の寵児となるが、違和感を覚え、
ニューハンプシャー州に土地を購入、
原始的な生活を送った。
地元の高校生達と親しくなり、交流を深めることになる。
しかし、その関係も長くは続かず、
親しくしていた女子高生の1人が、
学生新聞の記事として書くことを条件に受けたインタビューの内容を、
地元の新聞にリークしてしまったことに激怒し、
高校生達とも縁を切り、社会から孤立した生活を送るようになった。

1955年にラドクリフ大学に在学中のクレア・ダグラスと結婚。
一男一女を儲けるが、後に離婚。
次第に発表する作品数が減り、
1965年に「ニューヨーカー」に掲載した
「ハプワース16、1924」を最後に
完全に沈黙、作家業から事実上引退した。

という半生を、かなりの駆け足で描いたのがこの映画。
サリンジャーという作家のことを知るには、
大変ためになる映画。
そして、バーネットとの師弟関係
人間ドラマとして興味深く、
最後の二人の別れが切ない。
掲載を巡る編集者とのやりとりも興味津々。
また、小説を彷彿とさせる場面が沢山出て来るのも楽しめる。

サリンジャーを演ずるのは、ニコラス・ホルト

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バーネット役をケヴィン・スペイシーがつとめる。
監督はダニー・ストロング
ケネス・スラウェンスキーの書いた評伝
「サリンジャー生涯91年の真実」を原作としている。

5段階評価の「4」

予告編は↓をクリック。

https://youtu.be/gAUYWxvsavw

なお、
1980年代に有名人を射殺しようとした3人の犯人が
「ライ麦畑でつかまえて」を読んでいたことでも知られる。
1980年12月8日にジョン・レノンを路上で射殺したマーク・チャップマンは
警察が到着するまで歩道で座って本書を読んでおり、
法廷でも作中の一節を大声で読みあげていた。
1981年3月30日にはロナルド・レーガンがジョン・ヒンクリーに射撃されたが、
犯人のモーテルの部屋に本書があった。
1989年7 月18日には女優のレベッカ・シェイファーを
ロバート・ジョン・バルドが射殺し、
犯人の拳銃と血だらけのシャツと共に本書が発見された。

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