小説『傍流の記者』  書籍関係

[書籍紹介]

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新聞社を舞台にした小説。
筆者が新聞社に20年勤めただけあって、
非常にリアリティがある。

東都新聞社という、
どちらかと言えば政権寄りの新聞。
5年の地方支局回りの後、
東京本社の社会部に配属された同期入社6名のエースたち。
40歳を越えた男たちの一人一人にスポットをあてた6話で構成。
それぞれの得意分野の異名で、
「警視庁の植島」「検察の図師」「調査報道の名雲」
「遊軍の城所」「人事の土肥」などと呼ばれる。
それに早くに総務に異動した北川を加えた6人の視点で描かれる。
続々デスクに昇進する中、
そのうち一人だけが社会部長のポストを射止める。
そのレースの過程で、
組織、保身、正義、家庭、部下の転職、
上司との軋轢など様々な問題が浮き出て来る。

小説新潮2016年12月号〜2017年12月号に掲載されたものに
プロローグとエピローグを加えた。
その書き下ろし部分で、
新聞社が倒れかねないスキャンダルの火の粉が、ふりかかり、
彼ら6人が、どう対処したかで新聞社の姿勢を問う。

新聞記者がスクープにどれだけ命を懸けるかがよく分かる。
それと、新聞社内での人事の占める重さ。

新聞社は下克上だ。
社会部でデスクになれるのは
130名いる部員のうち6名、
部長は1名だ。
編集局は総勢600名以上いるが、
そのうちたった1名だけが
編集局長として東都新聞の指揮を執れる。
他方、出世レースに敗れた人間は、
同期や年下の上司からこき使われる。
本社勤務で雑用をやらされるならまだいい方だ。
敗者の多くは、
欠員が出るたびに穴埋め要員として
地方支局や僻地の通信部を転々とする憂き目に遭う。


まあ、過酷な人事レースがあるのは、他の会社も同じだが。

社会部と政治部の確執など、
新聞社の細部が描写される。
新人記者を巡るドラフトなど、興味深い描写もある。

警視庁、司法クラブ、遊軍、厚労省、宮内庁・・・
毎年、7月に支局から若手が上がってくるたびに、
各キャップは、若手の仕事ぶりをよく観察、
使えそうだと見込むとこっそり呼び出し、
「きみ、検察取材に興味ないか」
「遊軍でいろんなところに出かけてみないか」
などと勧誘する。


そして、新聞というものを巡る厳しい状況。

経営の基盤となる部数の減少が著しい。
商品を宣伝する媒体に新聞を使おうという企業も減り、
広告出稿量は全盛期の半分以下まで落ち込んでいる。
各社ともに支局の縮小など改革に取り組んでいる。


こんな描写もある。

新聞社は権力を見張るだけが役割ではない。
この国を良くするにはどうすべきかを考察し、
論を発信する役目もある。
前者の中心になるのが社会部なら、
後者は政治部の仕事だ。
政治部にとっては、
大塚首相の息子が病院の理事長から資金を受け取ったことや
首相が閣議に30分遅れてきたことより、
東アジアの国際情勢や外交、消費増税、
憲法改正の方がよほど重要なのだ。


まさにモリ・カケに執着する朝日新聞のことを言っているようだ。

横山秀夫は警察を舞台に、
池井戸潤は銀行を舞台にしたが、
この筆者は新聞社という舞台を主戦場にする模様。

先の直木賞候補の一つ。
選考委員の評は辛い。

北方謙三
どこを読んでも既視感に似たものに襲われる。
描かれる事象は克明で、
同期の登場人物たちの書き分けもきちんとしていて、
全体としては隙のない世界が構築されながら、
新鮮さに欠ける。

宮城谷昌光
音楽にたとえると、不協和音が多用されている楽曲である。
それが新機軸として成功していただろうか。
私は否だとおもう。
小説の内的エネルギーを読者に伝えてゆく技法が熟していない。

浅田次郎
説明くさくなくてわかりやすい、センスのよさを感じた。
しかし読み進むうちに、
よその職場の愚痴を聞いているような気分になった。

桐野夏生
狭い新聞記者業界内部の域を出ていないように感じられたものの、
記者の人間関係の話は、
確かに他に類を見ないから面白かった。
それから、プロローグは要らないのではないか。

東野圭吾
エンタテイメント小説として立派な出来だと思うが、
無難で地味という印象があるのは、
核になる大きな事件がないからかもしれない。
人物の描き分け方も物足りない。
企業勤めを経験すれば、
その業界の内幕ものを一つや二つは書ける。
この作品が、そのレベルを超越しているかどうかは
判断の難しいところだ。

林真理子
スクープをめぐっての、新聞社内の駆け引きが
非常にスリリングなのであるが、
「ひと昔前の話」という感はぬぐえない。
新聞が最初にニュースを発するメディアだった頃の話
だろうとつい思ってしまう。

高村薫
エンターテインメントとして過不足はないが、
新聞記者という、今日では少々手垢のついた題材が
小説全体の印象を薄くした。

宮部みゆき
ラストに向かって収束してゆく
長編としてのストーリー展開はこれで充分と思いますが、
個々の短編にもう少しひねりや意外性がほしい。

伊集院静
新聞記者がどんなふうに生き、
どんな考え方をしているのかが見え辛かった。
内情に通じていた作家の捉え方としては
甘いのではないかと思った。






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