短編集『浮遊霊ブラジル』  書籍関係

[書籍紹介]

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津村記久子による、
ちょっと奇妙な短編集。
「文学界」「新潮」などの
純文学文芸誌に掲載されたものをまとめた。

「給水塔と亀」

定年退職後、
故郷に帰って、
独り身の今後を考える男の話。
2013年川端康成文学賞受賞作

「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」

店主のうんちくが激しい、よく行くうどん屋で
気になる客がいる。
茶色く染めて結い上げた髪が
コルネのように見えるので、
内心コルネさんと呼んでいる女性。
その女性が店主のうんちくに過剰な反応をする。

「アイトール・ベラスコの新しい妻」

翻訳者が仕事で
ウルグアイ人のサッカー選手についての記事を翻訳する。
最近、彼が離婚し、新たに結婚するのが、
アルゼンチンの人気ドラマの検死官役の女性。
日本人だ。
その日本人とは、
実は小学生時代に同じクラスで、
クラスの女王的な女の子とのかかわりの中に
現在がある、という話。

「地獄」

これが7作の中で一番面白い。

私と中二の時の同級生のかよちゃんは、
温泉旅行ツァーの帰りのバス事故で同時に死に、
地獄に送られる。

「私」が送られたのは「物語消費しすぎ地獄」
飽食の罪ならぬ、飽・物語の罪。
生前、ドラマや映画や小説を観たり読んだりしすぎた罰で、
一日に何回も殺される。
刑事ドラマを観すぎていたからだという。
また、別な罰では、
一日400ページ小説を読むノルマを課せられ、
しかも、必ず最後の数ページが破かれている。
いくら呼んでもラストだけは分からない地獄。
更に別な地獄では、12時間交代で様々な役を演じられる地獄。
たとえば、ケネディを暗殺してジャック・ルビーに殺され、
宇宙ステーションの外壁の掃除をし、
カノッサの屈辱で雪の中、ハインリヒ四世になって、
裸足で許しを乞う。
そうかと思うと、砂浜に放置されて、
何も物語がない地獄を味あわせられたりする。
最近、物語に貪欲な人が増えたので、
地獄の一部門として加えられたのだという。
「その人に合った地獄」を提供するというのが、
地獄運営側のポリシーにあるらしい。

そんな時、別れ別れになっていたかよちゃんと再会する。
かよちゃんが送られたのは、「おしゃべり下衆野郎地獄」で、
生前、おしゃべりをし過ぎた人の行く地獄だという。
その罰は、山小屋で、話し相手ゼロの生活をさせられたり、
逆に「鬼」のすさまじい愚痴に対して
口をはさめない生活をさせられたりするのだという。
しゃべれないのも辛いけど、
しゃべり過ぎる奴と一緒にいるのも辛いのだという。

やがて、かよちゃんの話と私の話に共通項が見えてきて・・・

地獄の様相が、
生前の生活のあり方に反映する、
というのが実に面白い。
そして、「鬼」の権田や西園寺の描写も笑える。

「運命」

人から道を尋ねられる、という宿命を負った人が
その生涯を回想する。
人から道を尋ねられる宿命は生前、
母親の胎内にいた時からで、
モスクワでの赴任生活の中でも、
男を追って行ったパラグアイでも、
とにかく人に道を訊かれる。
そして、地獄でも川の方角を訊かれ、
宇宙船の中でさえも、
窓の外に現れた地球外生物からも月への道を尋ねられる。
そして、最後は、
卵子へ向かう3億の仲間に道を訊かれるが、
最後は自身が卵子に到達してしまう。
こうして、彼女の「道を訊かれる人生」が始まったのだと分かる。

奇想天外な発想の小説。

「個性」

夏期講習で一緒の学生の板東さんが
毎日奇矯な服を着て来るようになった原因に、
同じ班の秋吉くんの
視認を受けるためだった、という話。

「浮遊霊ブラジル」

これは「地獄」と並んで面白い。

72歳で死んだ三田は、
生まれて初めての海外旅行で
アイルランドのアラン諸島に行きたかった未練で、
浮遊霊になってしまう。
ふわふわしている存在で、
電車も飛行機もすり抜けてしまうから、
近所をふわふわ漂うことしかできない。

一緒に旅行に行くはずだった町内会の連中は、
一番行きたがっていた三田さんに悪いから、と
旅行そのものを取りやめてしまう。
そんなこと、やめてくれ、
と副会長の仲井さんの耳元で叫ぶと、
仲井さんの耳の中に入ってしまい、
仲井の視点で周りを見るようになる。
人に憑りつくという技術を身につけたのだ。

こうして、三田は飽きると他の人に憑りつくことを繰り返し、
仲井→その息子→その恋人の市岡さん
→その会社の顧客のロナウド
と渡り歩き、アイルランドのダブリンから打ち合わせに来る
秘書に憑依しようとするが、
失敗し、ロナウドの体内にいたままリオデジャネイロに来てしまう。
そこで槍投げの選手のマテウス君の中に入った三田は、
選手村でアイルランドの選手と近づく機会をうかがうが・・・

これも奇想天外な発想の話。

というぐあいに、
7つの短編それぞれに
今までにない切り口の物語の面白さに浸った。

さすが、芥川賞作家





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