小説『消えない月』  書籍関係

[書籍紹介]

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田舎から東京に出て来た女の子・さくら(28歳)は
マッサージ店に勤め、資格を取り、
仕事に生きがいを感じてやっているが、
指名してくれた客・松原(31歳)と親しくなり、
つき合うようになる。
ある時、松原がさくらの携帯電話を取り上げて、
男性名の連絡先を全部消す、という事態が起こる。
その後も松原の奇矯な行動はエスカレートし、
さくらは松原に別れのメールを送るが、
松原は執着し、
返してくれない鍵でアパートの室内にも入った気配。
それだけでなく、マッサージ店に投稿し、
さくらの裸の写真を掲載したりするようになる。
さくらはアパートを引き払い、
故郷の実家に身を寄せるが、
そこにも松原は追いかけて来て・・・

田舎娘の東京での恋愛話、と思って読んでいたら、
なんだか雲行きが怪しくなってきて、
ストーカーを扱った作品だと気づく。

さくらの側と松原の側との描写が
章立てを変えて交互に出て来るので、
両者の立場、考え方を読者は詳細に知ることができる。
なるほど、ストーカーは、こうした勝手な論理で付きまとうのか、
と知るだけでなく、
ストーカーされる側にも
対応に過ちがあることが分かる。

たとえばLINEも削除せず、
着信拒否もせず、
どうせ引っ越すからと、金のかかる鍵の交換もしない。
相手からもらった指輪も
マンションに行って郵便受けに入れればいいのに、
1カ月でもつき合った事実があるから、出来ない、と言う。

鍵をめぐっては、
「鍵を返して」とさくらはコーヒーショップで大声を出すが、
松原は、さくらがそう言ったのは、
誰かに監視されていて、わざと言ったのであり、
その鍵を使って助けに来てほしいという
メッセージだったのではないかと
勝手に推測する。
どうもストーカーの側には被害妄想ならぬ
「被妄想」があるようだ。

警察の対処も署によってまちまちで、
特に男性警官は、
「痴話喧嘩」程度にしか扱ってくれない。
最後に行き着いた町の警察では、
親身になってくれる優秀な女性警官にめぐり合うが、
その時には、事態は取り返しのつかないことになっていた。

さくらの周辺のマッサージ店の先輩や
実の弟たちが親身に相談に乗ってくれるが、
中には、親切を装って、
実は事態を進行させているような人物もいる。
松原の同僚の女性など、
存在自体が不気味だ。

最後に相談に乗ってくれた女性警官との対話が興味深い。
「警告しない方がよかったんじゃないか」と言うさくらに、
警官ははっきりと言う。

「警告を受ければ、
自分がストーカーと思われていることに気がつき、
やめる人がほとんどです。
そこでやめられる人は、
好きだからしつこく連絡したとか、
好きだから会いにいったとかで、
ストーカーと呼べるほどではありません。
ストーカーに関して、
動機を好きだからとか
愛しているからとか考える人がいますが、
それは違います」

「ストーカーは、正論を語ります。
自分がどれだけ正しくて、
相手がどれだけ悪いか、
はっきりと話せます。
恋愛において、優先されるのは感情であり、
正論が正しいわけではないと、
彼らや彼女たちには分かりません。
分かっていても、分からないフリをします。
間違っていると指摘されると、
彼らや彼女たちは怒ります」

そして、「運」について、語る。

「相手に会い、自分の怒りをぶつけるために、
ストーカーは努力します。
警察よりも被害者よりも、努力します。
運は平等に、努力する者の味方をします。
それが間違った努力だとしても。
警告されてもつづけるようなストーカーは、
人の話を聞けません。
自分が正しいと信じ、周りに止められても、無視しつづけます。
そのうちに、彼の周りには、味方は一人もいなくなります」

そして、こう警告する。

「運だけが彼に味方します」

現代を切り取った作品になっているし、
文章もなめらかで読みやすい。
章が変わるたびに視点が変更するのでサスペンス感も十分。

題名は、どこまで行ってもついて来るの様に
ストーカーの姿を重ね合わせたもの。





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