小説『竜と流木』  書籍関係

[書籍紹介]

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デビュー作の、
毒性を有する変異カイコが猛威をふるう「絹の変容」や
新種日本脳炎を媒介する軟体動物が蔓延する「夏の災厄」など、
この手のものを書かせたら、
右に出る者のいない篠田節子による
異形生物パニックもの

太平洋に浮かぶ美しい島、ミクロ・タタの泉に、
愛くるしい両生類が棲んでいた。
ふっくりとしたピンクの腹、真っ黒なつぶらな瞳。
島にある泉に生息するウアブと呼ばれる生物は、
水中の不純物を食べ、浄化、泉の守り神と呼ばれていた。

アメリカ軍人の父と日本人の母を持つハーフのジョージは、
ウアブに惹かれ、ウアブ研究については第一人者と言われていた。
東京の語学学校の講師をつとめ、
金が貯まれば、長期休暇を取って、
ミクロ・タタでウアブと戯れる日常だった。

しかし、その泉が活用されることになり、
ウアブはそこに住めないことになった。
ウアブ保護クラブのメンバーは、検討の結果、
もっと大きな島メガロ・タタにある
リゾート地、ココスタウンの池に
ウアブを移住させることにする。

しかし、当初順調に推移していたにもかかわらず、
ウアブが大量死する事態が二度にわたって起こる。
その上、メンバーの一人が小さなトカゲ様の生物にかまれ、
かまれた片足が壊死して切断するという事件が起こる。
更に、その黒いトカゲに咬まれ、
命に関わる例が頻発する。

はじめは、ウアブの天敵がいて、
移住して来たウアブを食べ、
異常繁殖した可能性が論じられた。
島の生態系に変化を与えてしまったのだ。

しかし、やがて、捕らえられた黒トカゲとのDNA比較により、
その黒トカゲが、
ウアブの成体だということが判明する。
ミクロ・タタでは幼体のままで成長を止めていたウアブは、
肉食アリの駆除のために撒かれた薬剤に反応して大量死し、
絶滅の危機を逃れるために、成体に変容化していたのだ。
黒トカゲに姿を変えたそれは、
俊敏で鋭い歯で噛みつき神経毒を注入する。
そのうえ口中は病原菌で、
咬まれた人間はその傷から全身へと壊死が広がる。

ココスタウンでは国際会議などのキャンセルが相次ぎ、
夜の外出が禁止され、
外国の金持ちたちは続々と逃げ出し、
町はゴーストタウンと化してしまう。
しかし、島民は逃げ出すわけにはいかない。

駆除隊が組織され、
銛や空気銃で武装して島の内奥部に向かうが、
刃物は通用せず、
銃弾を撃ちこんでも急所をはずせば驚異的な再生をし、
そのうえ繁殖力旺盛。
一頭一頭殺してもすぐ個体数を増やし、
駆除は絶望的と思われた。

というわけで、
自分たちが善意で移住させたウアブの
思わぬ変容に立ち向かう人々の姿を描く。

こうした過程を理論づけ、科学的根拠を示し、
リアリティ豊かに描写する、
まさに篠田節子の真骨頂ともいえる作品。

主人公のジョージ、
ココスタウンの医院長のマユミ、
軍隊でサバイバルの教官であったジョージの父、
ココスタウンのゼネラル・マネージャーのサマーズ氏、
博識を披露するフェルドマン教授など、
魅力的な人物たちが登場する。
みんな冷静で合理的な人間であることが
篠田作品の特徴だ。
ジョージは混血児で、30半ばで結婚をしておらず、
確たる職業も持たないなど、
幼体のままで生きているウアブと通じるものがある。

古老は、一つの伝説を語る。
かつてこの海域に無人島があった。
人が住みつかなかったのは竜が支配していたからだ。
その島は九十年前の嵐と地震で海中へ没し、
周辺の島に流木に乗って小さな竜が流れついく。
その竜はやがていろいろな形や色をしたトカゲになって、
ひとびとと農作物をネズミや害虫から守ってくれるようになった・・・

その伝説は、ジョージがみつけた
「南洋群島統治総論」という書物で裏付けられる。
日本の統治時代、「忌島」と呼ばれた島で、
開墾農民を襲ったトカゲ。
島が水没した際、流木に乗ってミクロ・タタにやって来た彼らは、
環境に順応し、大人になることをやめ、
島民に可愛がられるウアブとなったが、
メガロ・タタに移住させられ、
再び環境が悪化して、昔のトカゲに戻ってしまったのだ。
つまり、ジョージたちは、
外来の捕食動物をメガロ・タタに持ち込んだことになる。

更に被害は広がる。
フィリピンや沖縄でも、
黒いトカゲ様の生物に咬まれる事件が発生したのだ。
しかし、メガロ・タタからの距離1千キロから考えると、
あまりに遠すぎ、途中で両生類はひからびてしまう。

その謎も、ある事実から可能であることが明らかになる。
これも生物の環境適応能力のすごさを思わされる。

そして、黒トカゲの絶滅は、
ある方法によってもたらされるのだが、
それは読んでのお楽しみ。

背景には自然をいじることの恐ろしさがあるが、
そういった教訓以上に、
エンタテインメントとして面白く、
ページをめくる手が止まらない。
やはり私は篠田節子が肌に合う。

新潟日報と静岡新聞に連載されたものを単行本化。






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