短編集『夕映え天使』  書籍関係

[書籍紹介]

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浅田次郎の短編集。
「小説新潮」誌上に
平成15年から20年の間に書かれたものをまとめ、
平成20年12月に発刊。

「夕映え天使」

八十過ぎの父親と息子の二人でやっている
場末の中華料理店の昭和軒。
その店に一昨年やって来た四十ばかりの女・純子。
他の客が帰るのを見計らって、思い詰めたように言った。
「住み込みで雇っていただけませんか」。
気立てのいい女で、昭和軒の看板娘になり、
父子の生活になじむが、
半年後、あいさつもせずにいなくなってしまった。
老父が純子を息子の嫁になることを
暗にほのめかした翌朝のことだった。
その後の男やもめ二人の生活は灯が消えたようになってしまった。

1年ばかり経った正月、
軽井沢の警察から電話が入る。
身元不明の自殺者に心当たりはないか、との問い合わせで、
持ち物に昭和軒のマッチがあったというのだ。

その日のうちに軽井沢に向かった息子は、
警察署の入口で一人の男に会う。
関西のうどん屋のおやじで、
同じような連絡を受けて、軽井沢まで来たのだという。
そして・・・

幸福からはじき出されたような父子が迎えた天使のような女の話。
純子のやむにやまれない事情は明かされないが、
無限の想像力が働く、心に染みる一篇。

「切符」

広志がじいちゃんと暮らす家の二階には
間借り人の八千代さんが男と暮らしている。
何か込み入った事情があるらしく、
やがて男は去り、八千代さんは引っ越していく。
これにじいちゃんの戦争で無くした脚、
同級生の韓国人の少女、
離婚した母からもらった切符の裏の電話番号などがからむ。
東京オリンピックの開会式の日、
様々な大人の事情が広志の上を通り過ぎていく。

「特別な一日」

私物を片づけて、会社から帰ろうとしている男。
どうやら定年を迎えたらしい。
昔愛し合った女が名残を惜しみ、
同期で今は社長となった友人に別れを告げ、
いつも通った飲み屋でちょっとだけ飲み、
家に向かう。
その生活はいつも通りで、
特別な一日にはしない、という気持ちでそうした。
家では妻が庭の花を今夜に向けて丹精し、
娘は、恋人と夜を過ごすと言って出ていく。

そして、ある時点で、
その「特別な一日」が
全然意味が変わって来る。
男の定年退職の日ではなかった。
あっと驚く展開。
うわ、そういう話だったのか、
心地よくだまされる
最後まで読んで、
もう一度読むと、
実にうまく伏線が張りめぐらされていたことが分かる。

珠玉の一篇。

「琥珀」

定年退職前、上司の命令で休暇の消化を命じられ、
一人旅に出た米田。
振り返れば、何の手柄とも無縁の警官人生だった。
電話が入り、別れた元妻が最近グアムで結婚式を挙げる、
という娘からの電話を受ける。
ふらりと降り立った駅の近所の喫茶店「琥珀」で、
米田は、その店主が指名手配の殺人犯であることに気づく。
交番で手配書を15年も見ていたのだ、間違いはない。
しかも、時効が間近だ。
定年間際の、無縁だった一世一代の手柄が手に入る。
しかし、米田が取った行動は・・・

最近テレビドラマ化された。
カミさんが観て感激していた。
ネットの無料映像で観たところ、
人物を増やし、
短編を上手に肉付けした作品になっていた。
警官に西田敏行、犯人に寺尾聡、
喫茶店に出入りする女性に鈴木京香。

「丘の上の白い家」

小沢と清田は、貧乏で、奨学金を一緒にもらっている仲間だ。
しかし、清田は優秀で、小沢はワル。
小沢は憧れていた丘の上の白い家の娘と知り合いになる。
小沢は清田を紹介し、その少女と恋仲になるように仕向ける。
やがて、少女と清田が無理心中したことが伝わる。
だが、少女だけ命が助かった。

長い時が過ぎ、
老女となった少女と小沢は再会するが、
相手は小沢が誰かも分からなかった。

最後に、少女が出した手紙で、
心中の真実が明らかになる。

友情と憧憬と裏切りを描く一篇。
ちょっと中途半端か。
           
「樹海の人」

かつて自衛隊にいた浅田次郎の経験談らしい。

通信兵だった主人公は、
富士の樹海でいつ終わるか分からない演習に取り組む。
その夜中、主人公のいる窪地に
人影が現れる。
それは・・・

どの作品も、
昭和のテイスト満載。
いわば浅田次郎のお家芸
手練の文章が薫り高く物語をつむぐ。
やはり浅田次郎は短編がいい。

読んだ後、哀愁を感ずる
魅力的な短編集だった。





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