短編集『不時着する流星たち』  書籍関係

[書籍紹介]

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「博士の愛した数式」で本屋大賞を受賞した
芥川賞作家・小川洋子の短編集。

様々な人物や事象に触発された物語群で、
各編の扉に、その人物や事象が英語で書かれ、
終わりに、その人物や事象の紹介がある。

以下に、題名と触発された事柄を括弧内に示す。

第一話 誘拐の女王(ヘンリー・ダーガー)
第二話 散歩同盟会長への手紙(ローベルト・ヴァルザー)             
第三話 カタツムリの結婚式(パトリシア・ハイスミス)              
第四話 臨時実験補助員(放置手紙調査法)                    
第五話 測量(グレン・グールド)                        
第六話 手違い(ヴィヴィアン・マイヤー)
第七話 肉詰めピーマンとマットレス
     (バルセロナオリンピック・男子バレーボールアメリカ代表)
第八話 若草クラブ(エリザベス・テイラー)                   
第九話 さあ、いい子だ、おいで(世界最長のホットドッグ)            
第十話 十三人きょうだい(牧野富太郎)

物語と人物や事柄がどのようにリンクするかというと、
たとえば、「誘拐の女王」は、
血のつながらない姉がどこからか戻って来て、
父母と妹と暮らし始める。
姉は妹に、自分は誘拐されていて、
「子供たちを守護する会」によって救出されたのだ、と告げ、
その物語を話して聞かせる。
姉は常に裁縫箱のような箱を手に持っており、
その中には雑多なガラクタが入っていて、
救出劇で役割を果たす。
しかし、夜になると、
姉の部屋からは、
多人数の声が聞こえる。
どうやら多重人格で、
病院に収容されていたのが退院して来たのだと読者は悟る。

で、ヘンリー・ダーガーとは何者か、だが、
子供をさらう悪と戦う絵物語「非現実の王国で」を人知れず創作し、
ゴミに埋もれた部屋の中から、
アパートの大家によってその物語が発見された人。
墓碑には「子供たちの守護者」と刻まれている。

一つの事象から、小川洋子が想像の翼を広げたのがわかる。

「カタツムリの結婚式」は、
「太陽がいっぱい」の作者、パトリシア・ハイスミスから触発。
パトリシアがカタツムリを偏愛し、
300匹にまでなったカタツムリを
フランスに引っ越す時、
生きたカタツムリの持ち込みが禁止されていたことから、
6匹から10匹のカタツムリを
左右の乳房の下に隠して何度も国境を往復した。

このパトリシアにインスパイアされて小川洋子が作った物語は、
一家で飛行場で一日を過ごす趣味を持つ家族の「私」が
空港の一角で、6匹のカタツムリに競技をさせている
不思議な人物に会って交流する話。
                                        
「肉詰めピーマンとマットレス」は、
外国にいる息子を訪問した母親が、
息子と過ごす日々を描く。
毎日テレビのオリンピック中継を観、
昼間は息子が作った観光手引き書に従って町を歩く毎日。
見送られた空港で、
彼女は背の高い、ブレザー姿の集団に遭遇する。
それが、アメリカのバレーボールのオリンピック選手たち。
つまり、触発された事柄は最後の7行だけ登場する。

このチームは、予選リーグの対日本戦で、
3対2で勝利しながら、
日本側からの抗議によって、
翌日、1対3で敗北の裁定を受けた。
しかし、最終的にアメリカチームは銅メダルを獲得し、
日本チームは6位に終わった。

「若草クラブ」は、
学芸会で「若草物語」を演じた4人組が、
秘密の「若草クラブ」を結成する話。
誰がどの役をやるかでもめるが、
主人公は四女のエミイを演ずる。
配役の後で知ったのが、
映画でエミイをエリザベス・テイラーが演じた役だった。
主人公の少女はエリザベス・テイラーについて調べ、
その複雑な結婚生活を知り、系図を作ってみたりする。
そして、テイラーとの間に3つの共通点を発見する。
毛深いこと、仮病を使うこと、そして足のサイズ(21センチ)。
しかし、彼女は成長し、
次第に21センチの靴が合わなくなって来る・・・

「十三人きょうだい」は、
父の13人兄弟の末っ子の「サー叔父さん」との交流の話。
サー叔父さんの勤め先の城壁公園で草の名前について語る時に、
「スエコグサ」が出て来る。
植物学者の牧野富太郎が、
植物の命名にあたり私情を排していたのに、
唯一の例外として、
新種のササに、
亡くなった夫人の名から、「すえこざさ」と名前をつけた。

どの短編も、
小川洋子の才能が横溢する、
味わい深い短編集となっている。





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