小説『騎士団長殺し』  書籍関係

[書籍紹介]

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村上春樹の新作。
と言っても、2月の刊行。

第1部 顕れるイデア編
第2部 遷ろうメタファー編
の2冊に分かれ、
それぞれ500ページで、計1000ページを越える大部。
400字詰め原稿用紙換算2000枚。

イデア:プラトン哲学で、時空を超越した非物体的、
    絶対的な永遠の実在。
    感覚的世界の個物の原型とされ、
    純粋な理性的思考によって認識できるとされる。
    中世のキリスト教神学では
    諸物の原型として神の中に存在するとされ、
    近世になると観念や理念の意で用いられるようになった。

メタファー:隠喩(いんゆ)、暗喩(あんゆ)ともいい、
      伝統的には修辞技法のひとつとされ、
      比喩の一種でありながら、
      比喩であることを明示する形式ではないものを指す。
          
妻に離婚を迫られた36歳の肖像画家の主人公は、
車で北海道や東北を1カ月半さまよったあげく、
美術大学当時の友人・雨田政彦(あまだまさひこ)の父親の
小田原郊外の山中の家を借り受ける。
父親というのは、
雨田具彦(あまだともひこ)という高名な日本画家で、
92歳の高齢。
今は認知症で施設に入っており、
その家は雨田具彦の自宅兼アトリエだった。

主人公はその屋根裏部屋から、
封印された「騎士団長殺し」というタイトルの絵を発見する。
大きさは縦横が1メートルと1メートル半ほどの、横に長い長方形。
飛鳥時代の服装の一人の若者が
老人を刺殺する瞬間を描いたその作品は、
不思議な魅力にあふれていた。

主人公は、どうやらこの絵は、
モーツァルトのオペラ「ドン・ジョバンニ」の中で、
ドン・ジョバンニに殺される騎士団長を描いたものだと理解する。
すると、絵の中に描かれている女性は、
騎士団長の娘、ドンナ・アンナで、
召使のような人物は、
ドン・ジョバンニに仕えるレポレロらしい。
また、絵の中には、地面の四角い穴から顔を出して
殺人を目撃している「顔なが」という謎の人物もいる。

やがて、主人公は雨田の息子の話から、
雨田具彦がウィーンに留学していた1930年代、
ナチスとオーストリアの併合に反対する学生たちの
ナチスの幹部暗殺計画が未遂に終わり、
日本に送還された過去に対する
老画家の怨念
この絵の中に埋め込まれているのではないかと推測する。

そんな中、夜中に鈴の音を聞いた主人公は、
雑木林にある祠の裏の塚の中から、
その鈴の音が聞こえてくることを確かめ、
塚を掘ると、
地中から石組みの石室が現れ、
中には仏具と思われる鈴が納められていた。

やがて、主人公の前に怪異と言える人物が現れる。
「騎士団長殺し」の絵を発見したことに連動して、
塚の封印を解いてしまったらしいのだ・・・

という話に、
主人公が高校生の頃に
先天性の心臓疾患で12歳で死んでしまった
妹・小径(こみち)への追憶、
離婚を迫られた妻・柚(ゆず)への執着、
北海道・東北をさまよっていた時期に交わった女性と
宮城県の海岸沿いの小さな町のファミリーレストランで遭遇した
白いスバル・フォレスターに乗っていた中年男性、
谷を隔てた向かい側の山にある豪邸の持ち主・
免色渉(めんしきわたる)の肖像画を描く話。
更に免色の依頼で、
反対側の谷を隔てた家にいる
美貌の少女、秋川まりえの肖像画を描く話、
何故免色がその豪邸に住むに至ったか、
秋川まりえに執着する理由等の謎、
雨田具彦のウィーン時代に対する探求、
戦前は洋画家だったが、戦後日本画家へと転身した謎、
具彦の3つ年下の弟継彦が、
徴兵で中国へ配属され、
いわゆる「南京虐殺」に無理矢理加担させられたことで
復員後に自殺、
等々の話がからむ。

ほとんど雨田の自宅兼アトリエを舞台に展開し、
物語の起伏は少ないが、
魅力的な人物と様々な謎に包まれて、
ページめくる手は止まらない。

やがて、物語は
現実と非現実の境界を越えていくのだが・・・

小さい時に死んだ妹への思慕が
妻を代理で愛し、
更に秋川まりえの関係に重なる
近親相姦的関係が低く低音を響かせる。

更に、「肖像画」を描く主人公が、
自分の描きたい絵画を求めて模索する姿も
背景に色濃く存在する。

免色の人物像も魅力的で、
次のように描写する。

彼が微笑むと、
目尻の皺がまた深まった。
いかにも清潔で裏のない笑顔だった。
しかし、それだけではあるまいと私は思った。
免色という人物の中には、
何かしらひっそりと隠されているものがある。
その秘密は鍵のかかった小箱に入れられ、
地中深く埋められている。
それが埋められたのは昔のことで、
今ではその上に柔らかな緑の草が茂っている。
その小箱が埋められている場所を知っているのは、
この世界では免色ひとりだけだ。
私はそのような種類の秘密の持つ孤独さを、
彼の微笑みの奥に感じとらないわけにはいかなかった。

(真実を知りたい、という主人公の主張に対しての免色の反論)
免色は微笑んだ。
「それはまだあなたがお若いからです。
私ほどの年齢になれば、
あなたにもきっとこの気持ちがおわかりになるはずです。
真実がときとして
どれだけ深い孤独を人にもたらすかということが」


まさに、春樹ワールド

読んだ後、
「騎士団長殺し」という架空の絵を
見てみたい、と思ったのは私だけだろうか。





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