短編集『サンライズ・サンセット』  書籍関係

[書籍紹介]

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時代小説の名手、山本一力の新作は、
意外や、現代のニューヨークが舞台。
著者はここ10年、
毎年マンハッタンに1カ月半ほど逗留。
仕事はメールでこなし、
マンハッタンの町を散歩するのが日課。
そこで見聞きしたことで、
この小説の構想が生まれたという。

「行けば行くほど好きになる。
東京が失ってしまった、
俺が子どもの時分にあった町が、
俺が憧れている江戸の暮らしが、
マンハッタンには“いま”の話として生きている。
そう感じたんだ」

と言っているが、
いつもながら着眼点が素晴らしい

ホワイト・キャブ

ウィスコンシン州の片田舎の酪農農家で、
夫ノーマンの葬儀を終えた妻のマーサが
孫の住むニューヨークに行く、と言い出す。
心配した家族は、
もう一人の孫のミッキーを付き添いにつけるが・・・

この話にノーマンとマーサの出会い、結婚、
農場を根こそぎさらっていった竜巻、
たった一度だけの夫婦のラスベガス旅行の話がからみ、
ギャンブルで勝って得たアイゼンハワーの1ドル銀貨を
ニューヨーク旅行に持参する話が加わる。
更に、JFK空港で待ち受けていた
ぼったくりタクシーの白タク
(イエロー・キャブならぬ、ホワイト・キャブ)
のデイブがからむ。

デイブの父親のキャンディストアでの兄妹の王冠の話は、
「リーダーズ・ダイジェスト」で読んだことがある。

ピクルス

ブルックリンの古書店「モビー・ディック」の店主、
アンソニー・マーチンの話。
店名の由来である「白鯨」の初版本が置かれている。
これに父親の映画の看板書きの継承を志す美術学生モーリン、
町営映画館コブルヒル・シネマ、
町の人に愛されたスーパー「グリーンマーケット」の
存続問題がからむ。

ブルックリンの地上げの問題など初めて知った。
モビー・ディックをフランク・シナトラが
ライザ・ミネリと一緒に訪れて、
「白鯨」の初版本を見るあたり、
事実なのか創作なのか興味深い。

キューバン

ブルックリンのエリザベス通りにある
「キューバン・カフェ」が舞台。
焼きトウモロコシのコーン・スペシャルが人気だ。
経営者のナディアの父、ルピオが
祖国キューバで食べた味を記憶をたどりながら仕上げたものだ。
ルピオは、キューバ革命のさ中、
アメリカに逃亡してきた人物。
逃亡の際、親友のマリオと生き別れになった。

最近、周辺に現れたホームレスが
マリオではないかと疑ったナディアは、
その姿を撮ったスマホの映像をルピオに見せるが・・・

バーバー・プンチャン

タイからやって来た理髪師メイリンの一代記。
バンコクの理髪店でのひげ剃りの技術にほれこんだ
米軍将校の勧めで
ニューヨークに移住し、
ウォール街の理髪店で働き、客がつく。
しかし、9・11のテロで客足が遠のいたため、
クイーンズに移り住む。
地下鉄で通ったミッドタウンの床屋のオーナーに気に入られ、
ウッドサイド駅近くに
メキシコ人とギリシャ人との共同経営で、
バーバー・プンチャンという店を持つ。
やがて公園の青空市でうまい野菜を売っているサルと知り合い・・・

理髪店という地味な職業にも
9・11やリーマン・ショックの波は押し寄せて来る。

C・P・D

42丁目のピザ屋「シシリア」の息子パトリックは、
7月4日の独立記念日の花火で
方向感覚をなくした傷ついたカモを助ける。
隣の中華料理店「ジンジャース」の息子チョウセイに相談し、
セントラル・パークの池に戻してやろう、と決める。
それを助けたのが、
「エンパイア・コーヒー」のオーナーの息子デューイ。
(この三人の頭文字を取ったのが、「C・P・D」だ。)
しかし、子どもが子どもだけで歩いていたら、補導されてしまう。
そこで編み出したのが、
それらしい観光客の子供のふりをして、
すこしずつセントラルパークに近づこうというものだった・・・

大人の足なら42丁目からセントラルパークまでは苦もない道だが、
子供の足では大冒険。
その途中のポートオーソリティ(バス発着所)、
タイムススクエア、ブライアントパーク、
5番街など、
ニューヨーク好きにとってはたまらない地名が続く。

グリーン・アップル

グリーン・アップルは、クイーンズタクシーのニックネーム。
マンハッタンのタクシーが黄色なのに対し、
市はクイーンズのタクシーにアボガド色の塗装をさせた。

そのグリンー・アップルの運転手トムが
マンハッタンでマックという
故郷のアリゾナ州セドナに向かう青年を乗せる。
そのマックの軍隊生活の人生が
思わぬところで交錯していることが判明する。
イラクへの出兵、
故郷へ帰った時の意外に冷たい出迎え、
軍隊時代に炊事兵として蓄積した技術が
ダイナーで花開く・・・

ここでもセドナのイン(宿屋)に
9・11の影響が波及する。

書籍紹介には、
次のようにある。

摩天楼が並ぶ世界の最先端のイメージはほんの一角。
まったく変わらない場所のほうが多いという。
昔ながらの風情の町には、肉や魚の店、
靴の修理にクリーニング店など、
専門の個人商店がずらり。
住人はなじみの店主とやりとりしつつ、
自分の町内でなんでも揃える。
画一化された全国展開店と違い、
いきおい町に個性がうまれる。
脈々と受け継がれて文化になる。

確かにニューヨークの町は、
東京のように変化は激しくない。
また、個人商店が多いのも特色。
こんな効率の悪いことを、
という店がいくらでもある。
そして、「ダイナー」と呼ばれる町の食堂。

作者は言う。
                                  
「とにかく、人が主役で生きている。
そのことに強く惹かれたの。
営まれている暮らしにも、
人の数だけバリエーションがある。
それを短編にしたらおもしろいなと」

出てくる名物ピクルスや
焼きとうもろこしのコーン・スペシャルなどは実際にあるグルメ。
エンパイヤ・コーヒーも本当にあり、
本書に出て来るように、
警官がたむろしてコーヒーを飲んでドーナツを食べているという。

本書の中に食べ物が頻繁に出て来るが、
これが実にうまそうで、食欲をそそる。
まさにグルメの描写力





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