小説『エクリプス』  書籍関係

[書籍紹介]

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北朝鮮の拉致事件を扱った、
知りうる限り、初の小説
昨年の12月15日に発刊されたばかり。

本作には、複数の拉致被害者が登場する。

1977年、新潟で、
バトミントンの練習を追えて帰宅する途中、
拉致された中学生の田辺菜穂子。
彼女は横田めぐみさんがモデルと思われる。

母と道を歩いている時、
袋をかぶせられて拉致され、
北に連れ去られた岡田節子。                           
北の名前永任(ヨンイム)という名前を与えられ、                 
ベトナム派兵から逃れるために北に渡り、
ソ連に送られることを希望したのに
北朝鮮に留め置かれた元アメリカ兵、ジム・セルカークと結婚する。
この二人は、曽我ひとみさんとチャールズ・ジェンキンスさんがモデルだ。

他に在日二世の考古学者で、
「地上の天国」である北朝鮮に拉致されて失望する
岩手の林茂。
この男性は創作上の人物と思われる。

更に、大韓航空の飛行機を爆破して、捕らえられ、
ソウルで尋問を受け、
北で教えられた南の状況と現実の南の現状との違いに驚き、
北朝鮮の工作員であることを告白する女性。
これはもちろん金賢姫だ。
本作の中での名前を世真(セジン)という。
世真の少女時代の淡い恋や、
その恋人の友人で、
後にスナイパーとしてソウルに送り込まれ、
世真を狙撃しようとする王も登場する。

この王の話は、本作中最も哀切な話だ。
王は北にいた時、一度だけ世真に会っていた。
親友のホナムと世真の駅での待ち合わせを
遠くから見ていたのだ。
だから、世真とは言葉を交わしたこともない。
しかし、ホナムと切り離されて
工作員としての道を行った世真の運命を思い、
狙撃を断念して、世真に会う決意をする。
世真を訪ねて表で待っている間に、
監視役の北朝鮮工作員によって撃ち殺されるのだが、
王が夢想する世真との対話が悲しい。
王の心の中には親友に対する愛と
世真に対する、遥かな憧れが横溢する。

北に連れ去られた菜穂子は、
孝善(ヒョソン)という名前を与えられ、
政治軍事大学で工作員たちに
日本人の習慣や文化について講義する立場に立たされる。
その時、自分が脱け殻になっていくような
不思議な感覚にとらわれる。

たくさん話したせいで、
菜穂子は自分の子ども時代同様に、
自分の母語もまた、
体から抜け出ていくような感覚を味わった。

そうなのだ、田辺菜穂子という存在が、
彼らの中に流れ込んでいるのだ。
それは彼女自身を輸血することだった。
──遠い昔の思い出の数々が
彼女から彼らの中に移っていくのだった──、
それは言葉や名前や出来事の輸血だった。
こうして生徒たちがすっかり田辺菜穂子になってしまった暁には、
彼女自身は干からびていることだろう。
そして彼女は、
それで一巻の終わりとなるだろう。

また、永任と一時期過ごし、
そこで新潟なまりを聞き、
同郷の人間だと悟る。
やがて二人は切り離され、
再会したのは、永任のアメリカ人との結婚式の場。
そこで菜穂子は日本から持って来た、
大切な思い出の品、
バトミントンのバッグをプレゼントする。

やがて、北で製作する映画に
セルカークはアメリカ人の役で出演するようになり、
そのビデオを取得したアメリカが、
セルカークの老母を召還して、
映像を見せる場面も悲しい。
30年前に失踪した息子の頭部の薄くなった姿を
北朝鮮で撮影された映画の中に発見した時、
母親は「これは息子の声です。
でも、これは息子ではなりません」と言う。

林茂も北で映画に出演していた。
日本人の役で日本が舞台の場面で、
部屋の中に日本的な小道具が足りなく、
セルカークは妻が結婚式の時に菜穂子からもらった
バトミントンのケースを提供する。
その映画が北朝鮮の動向を監視する
日本の機関で注目を浴びる。
北朝鮮の映画に出演している俳優が
岩手なまりの言葉を使っているというのだ。
それは林茂がやった「私は拉致されて、ここにいる」
というメッセージなのだった。
その映画を見せられた菜穂子の父母(もちろん横田夫妻がモデル)は、
映画の中に娘が持っていたバトミントンバッグを発見するのである。

それ以外に、
各地で起こった拉致事件を
北朝鮮の仕業だと報道する新聞記者も登場する。

そして、日本の首相(小泉純一郎)のピョンヤン訪問で
金正日は拉致を認め、
一部の帰国を認める。
その中に節子とセルカークも含まれていた。

物語はエピローグで
帰国した節子の娘が
かつて母親がなろうとして夢断たれた
看護師の道を歩んでいること、
田辺夫妻がウランバートルで菜穂子の娘、
つまり孫に会うシーンでしめくくる。

作者はインタビューで、
あたかも異国の地に移植された植物のように、
突然、何の前触れもなく、
自分の生活している場から引き離され、
生活環境も文化環境もまったく違うところで
生きることを余儀なくされた拉致被害者の方々が、
何を考え、
どのように生きようとしたのかを書きたかったのだ、
と述べている。                                 家族や友人たちから引き離された悲しみの後に、
みなから忘れ去られてしまったのではないかという
不安が襲ってくる。
自分の失踪が既定の事実とみなされ、
自分の存在はもはやだれの関心をも引かないのではないか
という疑念の虜になる。
その一方で、
親しかった人たちや場所の記憶さえも曖昧になり、
自分の存在の基盤そのものが揺らぎ始める。
そこに長期にわたる朝鮮語の学習や
主体思想の洗脳教育が加わり、
自分はいったいだれなのか、
だれだったのか、
自分自身うまく答えられない状態に陥る。
田辺菜穂子ばかりでなく、
岡田節子にしても
ジム・セルカークにしても、
すべての登場人物が、
みずからに迫りくる狂気を巧みに統御しないかぎり
北朝鮮で生きのびることはできない。
この小説から聞こえてくるのは、
そうした絶望的な戦いを
常時強いられている人たちの
生々しい、しかし、フィクションとしての声にほかならない。

また、あとがきに、次のように書く。

タイトルの「エクリプス」は、
日蝕や月蝕などの「蝕」を意味する語であるが、
まさに太陽や月のように、
いっとき消失したものが
必ず、再び、以前の輝きにも増した状態で戻ってくる
という意味合いをこめて採用したものと
著者が語っていたことを追記しておきたい。

大変文学的な良いタイトルとは思うが、
拉致事件を扱ったものだとは分かりにくい。
何か副題をつける等して、
拉致問題に関心のある人の目に触れるような工夫をした方が
沢山の読者に読んでもらえてよかったのではないか。

拉致被害者の現実を書いたこの本、
センセーショナルなものではなく、
あくまで文学的な美しい文体で、
心に残る。
しかも、フランス人のよるフランス語の著作だ。

読後、ふつふつと沸き起こるのは、
北朝鮮の非人道的なやり方への怒りだ。
何の罪もない市民を拉致して自国に連れ帰り、
拘束して、工作員の教育に利用する。
そして、小泉訪朝で拉致を認めながら、
大部分が死去したと嘘をつき、
捏造した診断書や死亡証明書を提出する。
その間に拉致被害者の家族は、
高齢から次々亡くなっているのだ。

大韓航空機爆破事件は1987年11月9日。
金賢姫の日本語教育を担当した「李恩恵」が
行方不明となった田口八重子と同一人物であると
判明したのが1991年。
「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)」が
結成されたのが1993年5月。
小泉第1回訪朝が2002年9月17日。
2002年10月15日、拉致被害者5名が帰国。
2004年5月22日、小泉第2回訪朝で、
地村・蓮池夫妻の家族5名が帰国。
2004年7月、曽我一家日本に帰国。

そして、2005年2月、北朝鮮が核保有を宣言。
そこから、拉致問題は一進一退、というより、
事実上、一歩も進展していないのだ。

小泉訪朝から既に14年と4カ月
その間に北朝鮮は金正日から金正恩に代わり、
ますます核とミサイルを用いて世界を恫喝している。
あの国に誠実な対応など望むことは出来ないのは、
世界が知っている。
いっそのこと、戦争でも起こして、
あの国を崩壊させる以外、
解決方法はないのではないか、
と乱暴な思いにとらわれもする。
今北朝鮮はアメリカに到達するミサイルを開発した、と言っている。
「大量破壊兵器」を理由にイラクを攻撃した国連軍だ。
核施設、ミサイル施設の局地攻撃も許されないのだろうか。
そうすれば、北の首領は、
あわてて逃げ出すだろうに。
トランプ政権は乱暴ついでに、
北朝鮮の一挙解放をしてもらいたいほどだ。

韓国の次の大統領候補は、
全員左派で、親北なのだという。
核とミサイルを切り札に恫喝する国に
「親」だという。
狂ったとしか思えない。
核とミサイルに膨大な金を使い、
人民を飢えさせていることは周知の事実だというのに。

外からの力が無理なら、
内部崩壊しか出来ないのか。

また冬を迎える。
「今度の冬は越せないだろう」
と言われながら、もう何年もたつ。
北の政権が崩壊して、
隠された拉致被害者の方々が
姿を現す日は来るのだろうか。

映画「めぐみ 引き裂かれた家族の30年」については、↓をクリック。

http://star.ap.teacup.com/applet/shokuniku/20061221/archive

2010年の「拉致問題国民大集会」については、↓をクリック。

http://star.ap.teacup.com/applet/shokuniku/20100425/archive

蓮池薫著「拉致と決断」については、↓をクリック。

http://star.ap.teacup.com/applet/shokuniku/20130725/archive





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