小説『約定』  書籍関係

〔書籍紹介〕

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青山文平の短編集。
「小説新潮」誌に2012年から2014年の間に掲載された
短編を集めたもので、
作品に相互の関連性はない。

三筋界隈

故郷の藩で郡奉行だった時、
貧農に対して無断で善政を施した咎を受けて放免されて
江戸に出て5年。
主人公は江戸の浪人がやる職業を一巡りした後、
本物の一文無しになる前に、
剣術を教えて凌ごうと、
道場を開いたものの、
門弟が集まらず、
実入りのいい用心棒仕事をした帰り、
水が出た道場の前で一人の武士が倒れていたのを助ける。
瀕死の状態だった武士を回復させてみると、
その武士・寺崎は、一刀流の手練であることが分かる。
お互いの刀を交換した後、
一刻後、書院番組屋敷での再会を約するが、
そこで起った事態は・・・

水が出る三筋に道場を構えた浪人と、
死を覚悟した武士との束の間の友情を描いて哀しい物語。
時代ものには珍しい、一人称小説

半席

前に紹介した青山文平の「半席」↓の第1作に当たる作品。

http://star.ap.teacup.com/applet/shokuniku/20100000/archive

春山入り

原田大輔は城下の刀商から古刀の目利きを依頼される。
その時、店の脇に置いてある長柄刀を目に止める。
大輔は「人を斬る気になるような刀」と感じ、
最近、親友から頼まれた
江戸から招聘した儒者の警護に使うことを考える。
というのも、儒者を襲撃する者の一人に、
やはり親友の哲平が予想されており、
親友を斬るのに、
その刀の力を借りようとしたのだ。
しかも、刀商の話では、
哲平もその長柄刀に目を止めたというのだ。
哲平との対決への逡巡の中、
妻の佐和から春の山に行くことを誘われ、
そこで哲平に会う。
哲平の口から出た言葉は・・・

太平の世の中を治めるために、
国が武威から文治に治世を切り替える時期の、
一人の若者の内面の変化を描いて、
最後はさわやかだ。

乳房

養父の島内清蔵が、絶家の危機をも省みず、
娘の那珂を西崎弘道に嫁がせる。
始末屋の弘道との生活に張りが見出せない那珂は、
時間を惜しんで読む漢詩の世界に救いを求める。
そんな弘道が御用で1年間留守にすることになった。
その間、家に辰三という中間を雇うが、
辰三は普段は陸尺(武家の駕籠かき)で、
大名駕籠を担いでもおかしくないほどの美丈夫だった。
そんなある日・・・

武家の奉公人と主人の力関係について、
ほ〜う、と思うところのある一作。

約定

浄土ケ原で果たし合いに来た武士。
しかし、今日でいいのか、と自問している。
相手は来ない。
逃げたのか、それとも
やはり日限を間違えたのか・・・

果たし合いは何故なのか。
その相手は誰で、
どんな秘密があるのか・・・

ちょっと謎めいていて、
そして哀しい一篇。

夏の日

名主の家に血相変えて飛び込んで来た男・百姓の利助。
家の壁に火矢が放たれたというのだ。
火矢とは、言うことをきかなければ、
家に火を放つという脅しの文を結んだ矢のこと。
その問題を処理している中、
肝心の利助が刺殺されてしまう。
その真相とは・・・
西島雅之が調べに当たるが、
その背景には、
名主の美談に秘密があった。

ちょっと納得のいかない話。
これだけ見事な話が連なる中、
残念な一篇。

しかし、青山文平が
なみなみならぬ時代小説家であることを示す短編集。
直木賞候補にならなかったのは、
同じ作家の「鬼はもとより」
その期の候補にあがったから。






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