『あの日のように抱きしめて』  

〔映画紹介〕

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戦争の被害者である一組の夫婦を巡る
ラブ・サスペンス映画。

戦争が終わったばかりのベルリン。
強制収容所から帰還した元歌手のネリーは
顔にひどいけがを負っており、修復手術を受ける。
別人の顔にすることが出来るという医師に
ネリーは元の顔に戻してほしいと希望するが・・・

ネリーはナチによって引き裂かれた夫のピアニストのジョニーとの再会を望み、
ある日、酒場で働く夫を見つける。
しかし、夫は妻は収容所で死んだと思い込んでおり、
顔の修復手術を受けた妻を妻と認識できない。
それどころか、
親類がみんな死んでしまった妻になりすまし、
一族の遺産を相続の上、山分けにしようと持ちかける。
奇妙な同居生活を始めた二人は
まず妻の筆跡を真似ることから始め、
一族と再会した時の予備知識をネリーに伝授し始める。
ジョニーの計画したネリーの帰還の日が近づいて来た・・・。

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というわけで、
妻を妻と認識できない夫が
いつ妻だと理解する日が来るのか、
ジョニーの計画した遺産相続作戦はどうなるのか、
そもそも、
妻が隠れ家にいることを密告したのは誰か、
もしかして夫かもしれない、
事実、逮捕の数日前、離婚されていた事実が判明した。
という疑惑をネリーは持っているが・・・
というサスペンスで物語を引っ張る。

戦争で引き裂かれた夫婦が再会した時、
一方が他方を認識できない、
という話は、
「かくも長き不在」「妻への家路」という先行作があるが、
監督はヒチコック「めまい」に触発されたのだという。

しかし、いくら容貌が変わったからといって、
長いこと一緒に暮らした妻である。
細かいしぐさや匂いや声で気づかないはずはない、
筆跡を完璧に真似た時に気づきそうではないか、
何という間抜けな夫
そもそも話自体に無理がある・・・

と鑑賞中、いらいらしっぱなしだった。
それが最後になって
ああ、そうだったのか、となるわけだが、
これから観る予定の人は、
ここから以降は読まないで下さい。



↓                                     

終盤近くなって、
ネリーが隠れ家とした屋敷を訪ねると、
そこの人はネリーをすぐにネリーだと認識する。
あれ、容貌が変わっているはずなのに、
なぜ分かったのかな、
という疑問がまず湧く。

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そして、駅で降り立ったネリーを迎える親戚たち。
誰もネリーのことを「あなた変わったわね」とは言わない。
すぐネリーをネリーとして迎え入れる。

ここで、はたと分かった。

そうか、ネリーの容貌通り、
医師は修復手術でネリーの顔を元に戻していたのだ。
ではなぜジョニーが妻の顔を認識できなかったのか。
それは離婚の上、密告したのはジョニーであり、
その罪悪感から
妻を死んだと思い込み、
その結果、妻を妻と認識することを脳が拒み
別人だと無理矢理思い込んでいたのだ。

なるほど。
そうか、これはジョニーの罪の意識と赦しの物語だったのか、
と初めて納得する。
(と分からない人も観客の中にはいるだろう)

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しかし、そうであるなら、
作り方に問題がある。

決定的なのは、
ジョニーの罪悪感の描写が足りない。
ジョニーが悪夢に悩まされるとか、
夢の中で妻の顔がぼやけていて、
妻の顔が思い出せないとか、
手はいろいろあっただろう。

親戚との再会の場で
ネリーは昔歌った「スピーク・ロウ」を歌い、
腕にある収容所の入れ墨から
ついにジョニーは彼女が妻だったことを認識するのだが、
これも伏線が足りない。
ネリーのふりをするために
歌の練習をするシーンを入れて、
その時はネリーはわざとへたに歌い、
「この歌は僕とネリーの思い出の歌だ。
こんなへたでは歌わせない」
と歌うことで断念したのに、
いざ再会の場で
「スピーク・ロウ」をとネリーが所望して、
「大丈夫なのか」とうろたえながらジョニーが伴奏をすると、
ネリーの見事歌いっぷりに
初めて妻だと分かる。
それまでぼんやりしていた
回想の中の妻の顔が初めて焦点を結ぶ
とか、
描き方はいろいろあったはず。

いや、ジョニーに罪悪感があるのなら、
離婚していながら、妻の遺産を奪取しようとするのは、
罪の上に罪を重ねるわけで、
それはないのではないか、
とも思うが、
そうすると、この話が成り立たなくなってしまう。

そういうわけで、
「妻の容貌が変わっている」
という誤誘導
(チラシには、
「アウシュヴィッツから生還した妻と、
変貌した妻に気づかない夫」
と書いてある!)
には、
私もまんまとはまってしまい、
仕掛けとしては成功しているが、
事実が判明した時の納得性はいまいち。
そういう意味で、
着想は良かったが、
惜しくも成功しそこねた作品と言わざるを得ない。

監督はクリスティアン・ペッツォルト
ソフィにはニーナ・ホス
ジョニーにロナルト・ツェアフェルト
ロナルトの演技はなかなかいい。

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5段階評価の「3.5」

https://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=lyEZuG2QJ84





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