世界遺産登録の舞台裏  政治関係

「明治日本の産業革命遺産」登録審査紛糾舞台裏
メディアによって次第に明らかになっている。

まず先立って行われた事前合意

日韓両政府は、外相会談や事務レベルなど
6月21、22両日の協議で、
委員会での声明を
forced to work(働かされた)」
とすることで合意していた。
しかもこの文言は、
交渉の最終段階で
韓国外相の尹炳世(ユン・ビョンセ)自らが直したものだった。

安倍総理は、
国民が待ち望む世界文化遺産への登録、
国交正常化50周年を迎えた日韓関係改善、
日米同盟強化のための日米韓の連携など
大局的な政治判断
外務省がまとめてきた
『forced to work(働かされた)』
という案を了承した」(政府高官)という。

しかし、ボンで韓国側は、
一部施設で働いていた朝鮮半島出身者に関する
forced labor(強制労働)」との文言を、
2カ所で明記した
世界遺産委員会での韓国声明案を伝達してきていた。

寝耳に水の外務省は、
すぐに官邸に報告した。
官邸首脳陣は「韓国に嘘をつかれた」と激怒した。

日本側、韓国側がなぜ「強制労働」にこだわるかというと、
「強制労働」の場合、
ILO(国際労働機関)の
1930年に採択された「強制労働条約」に違反するからだ。

これは、すべての強制労働の使用を、
できる限り短い期間のうちに廃止することを目的とした条約で、
この条約で強制労働というのは、
処罰の脅威によって強制され、
また、自らが任意に申し出たものでないすべての労働のこと。

ただし、純然たる軍事的性質の作業に対し
強制兵役法によって強制される労務、
国民の通常の市民的義務を構成する労働、
裁判所の判決の結果として強要される労務、
緊急の場合、
例えば戦争、火災、地震、猛烈な流行病その他のような災害
またはそのおそれのある場合に強要される労務、
軽易な地域社会の労務であって
通常の市民的義務と認められる労務
などは包含されない。

この条約は1930年という時代状況を反映し、
植民地における労働形態を念頭に置いている条文がほとんどだ。

戦時下の日本の徴用は、
労働力の補充のために
当時の日本の法律で制定され、
日本国民全てに適用、
当時は日本国民であった朝鮮半島の住民にも適用された
合法的な徴用だ。
これを韓国は「強制労働」としたいわけで、
「強制労働」という言葉を使うかどうかは、
それほど重要なことなのだ。

同条約のイギリス英語は、
禁止する強制労働を
forced labour」と明記している。

それだけに、ボンの現地のロビー活動で
「アウシュビッツ」と比較した、
というのは
アウシュビッツの「強制労働」のイメージを
委員国に焼き付けたい意図だろう。

6月30日、首相の安倍晋三は
交渉責任者である外務省外務審議官の杉山晋輔に
「自らのミスは自分で収束してこい」
と指示を出した。
首相指示を受け、ソウル入りした杉山は
7月1日午前、韓国外務省に乗り込んだ。
まず会談したのは外務次官補のキム・ホンギュンだった。

「合意に至らなければ、
日韓関係の根幹を揺るがす大問題になりかねない。
日本では確実に取り返しのつかない反韓感情が生まれる。
慰安婦問題も首脳会談も到底議論できない状況に陥るだろう」
こう切り出した杉山は、
外相会談の合意内容を確認。
戦時中の徴用が国際法上、
違反していないことを改めて説明し
「強制労働」が含まれた案の修正を迫った。

この時、杉山の触れた
「日韓関係の根幹を揺るがす大問題」
「取り返しのつかない反韓感情が生まれるだろう」
という認識は正しい。
これほど国民的期待の盛り上がった世界遺産登録が
韓国の横やり、政治的意図で頓挫したとなれば、
世界遺産好きの国民感情と
日本国民の誇りがズタズタにされ、
韓国に対しては決定的な悪感情が生まれただろう。
しかも、外相会談での約束を破った
ということになれば、
一層加速する。

「日本の最高指導者たちが怒りを覚えている。
この現実を甘く見ないでほしい」
杉山はこう述べて席を立ったという。
「最高指導者だけではない、
日本国民全員が怒りをおぼえている」
と言ってほしかったところだ。

杉山は1日午後、
再びソウルの韓国外務省を訪れ、
今度は外務第2次官の趙兌烈(チョ・テヨル)と会談した。
趙は、世界遺産委員会での発言案文における要素を作成する過程で
『forced to work(働かされた)』
便宜上
『forced labor(強制労働)』
と短くしただけだと釈明し、
「日本側の案文通りに戻すつもりだ」と説明した。
しかし、韓国の声明は日韓ですり合わせる必要がない
とも述べて日本を牽制(けんせい)した。

便宜上短くしただけという説明は笑い物だが、
外相会談で合意した言葉を
安易にすり替えるなど、
「強制労働」の国際法上の意味を認識していないとしか思えない。
外交官が国際法を知らないはずはないから、
とぼけたと言う方が正しいだろう。

あるいは、ユネスコ大使の暴走かもしれず、
いずれにせよ外相会談の結果が
ちゃんと下に伝わっていない、
朴政権の風通しの悪さを感ずる。
それも意図的かもしれない。

こうした取り繕うような韓国の主張に、杉山は納得しなかった。
韓国に声明案の修正を求める杉山と、趙の議論は過熱していった。
杉山「『forced to work』とした
外相会談の合意を一方的に変えてきたのは韓国だ」
趙「日本の判断がそうであれば、それぞれの判断で行動すればいい」
杉山「韓国が『forced labor』を利用し
悪意に満ちたことを行おうとしていると確信した」
趙「尹炳世(ユン・ビョンセ)外相には報告する」

衝突寸前の両者は、
交渉継続を確認し、
杉山は帰国日を1日延長した。

日本と韓国は、昭和40年の日韓請求権協定によって
「朝鮮半島出身の徴用者を含め
日韓間の請求権問題は完全かつ最終的に解決済み」
である。
このことを論ずる時、
案外触れられないことだが、
韓国の請求権だけではなく、
日本の請求権、
すなわち、
韓国に置いてきた日本人の資産、
インフラなどについても
日本は請求権を放棄している。
つまり、
同等の立場で成立した協定なのだ。

また、19年9月から20年8月の終戦までの
国民徴用令に基づく朝鮮半島出身者を含めた日本人徴用が、
強制労働条約上も違法でないことを何度も韓国に説明してきた。

韓国国内で徴用に関する訴訟が相次ぐ中、
日本政府は韓国側がこの文言を明言する場合は、
協力合意を破棄する方針で交渉に当たった。

そして結局、
日本側は「強制労働」という語句を使わないよう押し返し、
「最後の一線は守った」(首相周辺)。

とはいえ、韓国メディアは遺産登録決定後
「日本が強制労役の事実を国際社会で初めて認定した」
と大きく報じた。

登録が決まった後、
佐藤ユネスコ大使が
「意思に反して連れて来られ、
厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいた」
というスピーチを行ったが、
スピーチのなかで用いた「forced to work」という表現について、
直後岸田外相は「強制労働を意味するものではない」と説明。
菅義偉官房長官も記者会見で、
日韓の間で焦点となった「徴用工」をめぐる表現について、
「我が国代表団の発言は強制労働を意味するものではまったくない」
と説明した。

政府高官は一連の経緯をこう振り返る。

「もし日韓交渉が合意に至らず、
投票になっていたら負けていただろう。
ああいう国際会議ではけんか両成敗とされる」

投票になると、
委員国は日本と韓国のどちらかを選ばなければならず、
棄権する国が続出しただろう。
議長国のドイツは
その事態を避けるために、
「先送り」を提案しただろう。
先送りは3分の2の賛成で成立する。

となれば、
今回の登録は果たされず、
来年以降に持ち越されるが、
来年は委員国から日本は外れ、韓国は残る。
登録は絶望的だ。

であれば、今回の登録決定は
結果的には良い結果ということになるが、
後味の悪いものとなり、
日本国民の韓国に対する不信感はより高まった。

まとめると、今回の経緯は、
韓国側が外相会談での合意を無視し、
審査で「強制労働」を声明に盛り込もうとしたことに対し、
日本が合意破棄を迫って韓国発言を
合意通りに修正させた
ということになるだろう。

ともかく、『forced labor(強制労働)』
という表現を阻止できただけでも成果だと
今までの記述で分かっていただけるだろう。

今回の経緯で分かったことが二つ。

@ボンの会議で
 韓国代表が外相会談での合意にそむく発言をしようとしたことは、
 韓国政府内部でのタガが緩んでいることがうかがえる。
 意図的であれば、なおさら悪い。

A今回の反対行動の背景には、
 国を上げての「反日」があり、
 反日であれば、外相会談の決定もゆるがすことが出来る、
 という、韓国が「法治国家」ではない側面が表れたこと。

Bユネスコという政治的でない場所で、
 世界遺産を人質に
 自らの政治的主張を通そうとした
韓国の姿勢に
 世界は不信感をつのらせるだろうこと。

いずれにせよ、
登録もされず、
日韓に決定的な亀裂を生むという
「最悪の事態」は避けられた点では
評価すべきだろう。

ただ、韓国という国は、
反日を背景に
正式な外相会談の結果さえも反故にしようとする国であることは
強く認識し、
安易な妥協をするべきではないことは明言したい。






AutoPage最新お知らせ