『ペテロの葬列』  書籍関係

〔書籍紹介〕

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「誰か」「名もなき毒」に続く
宮部みゆき杉村三郎シリーズ第3弾。

とにかく長い
普通の単行本で681ページもある。
手に取ると、ずしりと重い。
2010年9月から2013年10月まで
「千葉日報」その他全国の地方紙合同で
4年間も連載したものだ。

今多コンツェルン会長室直属の
グループ広報室に勤める杉村三郎は、
編集長の園田瑛子と広報誌の取材で
房総の町を訪れた帰り道、
拳銃を持った老人によるバスジャックに遭遇する。
運転手を含め、乗客は男女合わせて7人。
老人は「警察を呼んでください」と指示を出した上で、
待ち時間の間に
人質全員に「後で慰謝料をお支払いします」と謎の提案をする。
そして警察には3人の人物の住所と名前を上げ、
その3人を連れて来るように要求する。
3人は老人にとって「悪人」であり、
その悪事をマスコミに露出しようというのだ。
しかし、警察による強制突入を受け、
その際、老人は拳銃で自分を撃ち、死んでしまう。

事件は終わったかに見えたが、
犯人の老人の言っていた「慰謝料」が実際に送られて来た。
乗客たちは再集合し、
「慰謝料」を受け取るべきか、
それとも警察に届けるべきか、で紛糾する。
被害者の一人、中小企業の経営者にとっては
喉から手が出るくらい欲しい金であり、
大学に入る資金にしたい青年もいた。
ただ、偶然居合わせた7人の住所をどうして知ったのか
老人が死んだ今、
その金を送ったのは誰なのか
その意図はどこにあるのか。
謎を解明すべく、杉村たちは動き始めた。
その中には、老人が名指しをした3人の人物の周辺を探ることも含まれていた。

これに並行して、
広報部編集部の問題児、井手正夫によるセクハラ問題、
足立則生が容疑者となった殺人事件が描かれる。
編集長の園田瑛子が事件以来、
家にこもりきりで出社しないのは何故か。

三郎は今多コンツェルンの会長であり、
杉村の妻でもある菜穂子の父親でもある
義父の今多嘉親に会い、
過去のある時期、
社員研修と称してマインドコントロール的な行事が行われたこと、
その残党による
組織的な投資詐欺集団の存在を知る。
こして、事件を契機に、
日本という国と人間の本質に潜む闇と向きあうことになる。

前にも書いたが、
宮部みゆきという作家に
「創作の神様」が付いていることがよく分かる小説。
長い原因は、描写が詳細で一点の省略もないことだが、
それでいて飽きさせない
そして、人物像が鮮明に目に浮かぶ
7人の乗客の描写も適切だし、
何より老人の言葉の一つ一つに
老人の境遇が現れる。
取材に訪れたコンツェルンの引退した重鎮の森信宏の人物像も明確だし、
何より今多嘉親の存在が魅力的だ。

そして、あぶり出される過去。
人間の中にある「悪」が刺激され、
現れて来る背筋が寒くなるような現実。
バスジャック事件という出来事を通じて現れて来る
背景はとてつもなく深い。
特に「悪は伝染する」という言葉と、
ネット社会の嫉妬の現象に
「世の中には、こんなにも悪意が満ち溢れているんですね」
という言葉が印象深い。

最後に主人公の三郎に転機が訪れるが、
その経緯を巡る着地点は
今多嘉親の大きさも含めて感動的だ。
三郎周辺の人間たちの反応も心地よい。
筆者の心の温かさがよく分かる。
読み終えて、
「ああ、いい小説を読んだ」
という気持ちにさせてくれる。

題名の由来は、
過去に罪を犯したが後に悔い改めた者の象徴としての
レンブラントの絵「聖ペテロの否認」による。

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2014年7月から
テレビドラマ化されたが、
原作をよく消化し、
さらにふくらませ、
謎が謎を呼び、視聴者を引っ張る
ドラマ化の成功例だった。

「名もなき毒」のブログでの紹介は、↓をクリック。

http://star.ap.teacup.com/applet/shokuniku/20150110/archive

                                           




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