『日本語は天才である』  書籍関係

〔書籍紹介〕

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著者は翻訳家
だから、日本語の天才ぶりは
国語学者のように日本語の研究から導き出したのではなく、
翻訳という現場作業で
「日本語は天才である」
ということに気づいたのだという。

それだけに
日本語の天才ぶりを
ここで説明するのは
少々やっかいだ。
翻訳という経過を通じてのことだから。

従って、ここではその天才ぶりに触れない。

興味を惹かれたのは、
それまで文字を持たなかった日本人が
漢字に接した
時のこと。
自分たちが日常話している言葉が
文字として定着し、
伝達可能であることを知った時の驚愕はいかばかりだったろうか。

次のような文字列を見て、
何のことか分かる人がいるだろうか。

田児之浦従打出而見者真白衣不尽能高嶺※雪波零家留(※は文字がパソコンで見つからず)

これは万葉集4千5百首の中でも
最も知られている歌の一つ、

たごのうらゆ
うちいでてみれば
ましろにそ
ふじのたかねに
ゆきはふりける

(現代語訳 
  田子の浦に出かけて、
  遙かにふり仰いで見ると、
  白い布をかぶったように
  真っ白い富士の高い嶺が見え、
  そこに雪が降り積もっている。
          山部赤人)

の原文漢字表記。
この音が
こういう文字(漢字)に書き留められた時の
驚き、感動はどんなものだっただろうか。

文字を持たない文明として
インカ文明が有名だが、
ついに彼らは文字を持たず、
意志の伝達は
ひもの結び方で伝達した。
その結果、その文明は謎に包まれている。
逆にエジプト人は文字を持ったがゆえに
おびただしい記録を残した。

で、文字(漢字)に接した時、
日本人は素晴らしい発明を付け加えた。
カタカナひらがなの発明である。
どちらも漢字の一部を使ったり、
くずして表音文字を作った。
その結果、日本語が漢字文化に吸収されることなく、
残ったのである。

しかし、普及はさぞ大変だっただろう。
その普及に役立ったのが、
当時既に確立していた官僚制度だった、
というのも面白い。

この本の中に
「言葉というのは、
ほとんどの場合、
正確な出生届が残っていません」
と書いてあるが、
平安時代のある時期に
漢字が中国から導入されたのは間違いない。

漢字は、
日本語にとって
上代に保有することになった
初めての、組織的な、社会的な文字であった。
文字というべきものを方法として持たなかった日本語にとって、
漢字とのめぐりあいは
運命的な事件であったといえよう。
(角川大字源)

そして、そこから仮名が登場する。

漢字との「運命的な」出会いから始まった万葉仮名の誕生を、
ぼくは一種の翻訳という営みとして考えます。
つまり、日本語は、
漢字を無文字言語である自分に翻訳し
──たとえば、雪をゆきと翻訳した──
かつまたそれと並行して、
無文字言語の自分を漢字に翻訳していった───
たとえば、あらなくにを不有國と翻訳したわけです。
その「運命的な」出会いの
最初がいつであったかは特定されていませんが、
万葉集が完成した8世紀末まで、
少なくとも半世紀にわたって、
厖大な量の翻訳が行われた。
日本語は、
無文字の自分をまるごと漢字に翻訳していったのです。
壮大な話です。
今では無名の天才的な翻訳者たちが
どれだけ活躍したことか。
渡来人もいれば日本人もいて、
幾世代にもまたがって
翻訳者たちが活躍した。
無一文ならぬ無一文字だった日本語は、
漢字を手に入れて、
今度は独自の片仮名と平仮名を作りました。
9世紀には定着した独特の文字です。
これ自体は日本語の独創として
自慢できるのではないでしょうか。
いわば自習時間に自分でこしらえた。
お金だってかかったでしょうが、
全て自費でまかなった。

こうして
漢字と平仮名、片仮名が混在し、
さらにアルファベットも混在し、
横書きにも縦書きにも出来る
日本語が誕生する。

新聞を見ても
人目で内容が分かるのは、
漢字と仮名がまざっているから。

戦後のある時期、
日本語を全部かな表記にしようとか、
ローマ字で表記しようか、
というアホな学者たちがいたようだが、
そんなことが導入されたら、
と思うと背筋が寒くなる。

なんといっても漢字仮名混じりが、
日本語という天才が
長い歴史の中で選び取った
かけがえのない書き言葉だと思います。

隣国のことで恐縮だが、
韓国はハングル一本にしてしまったのは、
本当に愚かなことだと思っている。

とにかく日本語は表意文字と表音文字の二つが混在している。
アルファベットは表音文字で
わずか26文字と表記文字だけで
あれだけの言語を駆使するのも見事だが、
日本語は表意文字も持っている関係で、
次々と新しい言葉が発生するのもすごい。

その上、日本語にはルビというのもある。
あれも世界に類を見ない発明。

敬語、謙譲語なども交えて
日本語は世界一複雑な言語の一つだとされているが、
それをやすやすと習得する外人もすごい。
テレビ東京の「YOUは何しに日本へ」を見ていると、
日本語を話す外人が沢山登場するが、
本当にすごいと思う。
特に、独特の同音異議語を
漢字を通過せずに
ちゃんと理解しているところがすごい。

その日本語の特長である
「同音異義語」について。
ワープロを開発した時の難題が
この同音異義語だが、
それもクリアして、
ワープロが開発された。
ワープロなくて、
今のパソコンもアイフォンも成り立たないほとのすごい発明だった。
その同音異義語、
日本国語大辞典に収録されている
同音異義語上位30傑が掲載されている。

こうしょう 107 交渉、考証、高尚など
こうこう  101 高校、孝行、航行など
こうし    87 講師、公私、行使など
こうか    76 効果、高価、校歌など
しょうし   71 少子、笑止、焼死など
こうかん   69 好感、高官、交換など
しこう    68 思考、志向、施行など
こうそう   67 高層、構想、抗争など
せいし    65 生死、制止、静止など
せいこう   63 成功、精巧、性向など

しょうか   62 商家、消火、商科など
かんこう   62 観光、刊行、慣行など
かしょう   62 仮称、過少、歌唱など
こうとう   60 高等、高騰、口頭など
こうき    60 高貴、後期、好機など
しし     59 獅子、志士、四肢など
きこう    59 紀行、気候、寄稿など
かこう    59 加工、下降、河口など
しんこう   58 親交、進行、信仰など
ししょう   58 師匠、支障、死傷など

しんし    57 紳士、真摯、信士など
こうしん   57 行進、交信、更新など
かんしょう  57 鑑賞、干渉、感傷など
こうえん   56 公園、後援、講演など
しょうこう  55 将校、焼香、昇降など
こうせい   55 構成、厚生、公正など
こうせん   54 交戦、鉱泉、公選など
せんこう   53 先行、選考、専攻など
せんせい   53 先生、宣誓、先制など
かんし    51 監視、冠詞、漢詩など

こうして見ると、
カ行、サ行に同音異議語の素があることが分かる。

美しく、繊細で、
きれいな響きを持つ
日本語
を持つ国に生まれて
本当に良かったと思います。





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