『紙の月』原作本  書籍関係

〔書籍紹介〕

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テレビドラマ化され、映画化もされた「紙の月」の原作小説

銀行の契約社員の梅澤梨花が、
顧客の金に手を付け、
若い男に貢ぐ様を
夫との確執を交え、
詳細に描くこの小説。

今さらなので、ドラマや映画との比較を論じたい。

梨花の犯罪について描くと同時に、
3人の人物の視点から梨花のしたことについて考察するのが
小説とドラマのアプローチ。
一人は岡崎木綿子で、
梨花とは中学・高校時代のクラスメート。
節約節約の生活でしばしば夫と衝突し、
最後には娘がこども用化粧品を万引きする。

山田和貴は、学生時代梨花と付き合っていた人物。
今は妻の牧子の愚痴につきあうのがいやで帰宅を遅くしている。
牧子の悩みは、自分が親たちからしてもらっただけのことを
子供にしてあげられていない、ということで、
それが間接的に和貴の給料が少ないことの批判になっている。
そういう空気から逃れるために、
和貴は浮気をしている。
やがて牧子が消費者金融に手を付け、離婚の危機に至る。

中條亜紀は梨花と料理教室での知り合い。
カード破産で離婚されたが、
また再び買い物癖が頭を持ち上げる。
夫に親権を取られた娘の沙織を可愛がるが、
沙織は何か買ってもらいたい時だけ亜紀と付き合い、
その要望もエスカレートする。

この三人の視点から梨花の犯罪を推測するのだが、
あまり効果を上げているとは言えない。
そんな推測を吹き飛ばすほど、
梨花の犯罪がすさまじいからだ。

あまり証書を見ない老人に偽の定期預金証書でお金を着服し、
ボケが始まった老女から預かった預金通帳からお金を盗み、
果ては架空の金融商品を作って顧客から金を巻き上げる。
当初は細かくノートをつけて、
やがて返すことが出来ると思っているのだが、
その額はどんどん膨れ上がり、
どうすることも出来ない地点まで至る。

その金は顧客の家で知り合った孫の大学生・光太に貢いでしまう。
最初は光太の小額の借金の肩代わりから始まり、
衣服などを光太に買い与え、
映画祭に行く費用を出してやり、
連休に高級ホテルのスイートに連泊し、
果てはマンションを借りてやる。

そこに至るまでの夫婦の間のちょっとした行き違いなどが
細かく綴られる。

NHKのドラマでは木綿子と亜紀の視点が残され、
和貴の部分はカット。
二人の友人の部分が必要以上に膨らんで、
視点がぼやけていた。
間接描写よりも直接描写が優先するのは、
物語の鉄則。

映画ではその3人の視点は全面カット
梨花の犯罪に至る過程だけに絞った。
炯眼といえよう。
そして、銀行のお局様的存在と
梨花の犯罪を予見するメフィスト的存在を創作して
厚みを加えた。
これは脚色の妙

ただ、貞淑な主婦が若い男と関係を結ぶ、という点は、
「一線を越える」重大な局面だが、
映画では全く不十分
なにしろ、会って3回目で衝動的に関係を結んでしまう。
その点、
小説もドラマもそれを細部に渡り描ききっていた。

いろいろな事柄がからみあって犯罪に走り、
それが加速度的に膨らんでいく過程は
常人の理解の外だが、
その点小説はさすがによく描写されていた。

ただ、梨花の学生時代の挿話として登場する
アフリカやアジアの貧しい子供たちを応援するボランティア活動は、
映画に残るほどだから
よほど強烈な内容かと思ったが、
原作では意外と少ない。
観客に解釈の余地を不要に与える今日雑物なので、
いっそのこと映画でもカットした方が良かったのではないかと思われる。

タイでの逃亡生活の描写は秀逸。
これはドラマでも充実。
映画でもこの部分を十分に織り込んだ方が良かったのではないか。

タイでの生活の中での次の描写。

もし光太と会っていなかったら、
こんなことにはなっていなかったろうかと
梨花は川を見つめて考える。
いや、こんなふうになったのは
光太と会ったからだとは思えない。
もう編集プロダクションに勤めていたら。
もし子どもができていたら。
もう正文と結婚していなかったら。
もしあの中高一貫の学校に進んでいなければ、
推薦であの短大を選ぶこともなかったろう。
もしあの短大を出なければカード会社に勤めることもなく、
銀行でも働けると思うこともなかっただろう。

そした感慨の最後に、次のような結論に至るのだ。

仮定は過去へ過去へと遡りながら
無数に散らばっていくが、
けれど、どの仮定を進んでも、
自分が今この場にこうしているような気がしてならない。

まさに人間は
自分の行くべき所に向かって進んでいるのだ、
と分かる、究極の虚無

というわけで、
小説・ドラマ・映画
「一粒で3度おいしい」味わいをさせてもらいました。

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