『詐欺の帝王』  書籍関係

〔書籍紹介〕

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「食肉の帝王」を書いた溝口敦によるノンフィクション。
今回は「オレオレ詐欺の帝王」と呼ばれる
本藤彰(仮名)からの取材を通じて
システム詐欺の実態に迫る。

(システム詐欺・・・オレオレ詐欺に代表されるように、
「息子」役や「警官」役や「上司」役などが組んで
システムとして詐欺をはたらくことからの命名。
警察は「特殊詐欺」と呼ぶ)

と言っても本藤自身は
詐欺の現場にいたわけではないので、
詐欺の様々な手口についての解明本を期待すると、
見事に外される。
そのたぐいのことは
他の類書に任せるというわけで、
本藤彰の軌跡を辿る。

本藤の起点は
大学のイベサー(イベント・サークル)。
そこで辣腕を発揮する。
学生を動員してイベントを開催し、
巨額な利益を生み出す過程で
様々なノウハウと人脈を形成する。

本藤が次に手をだしたのが、
ヤミ金融
トイチ(10日に1割の利子)やトサン(10日に3割)、トゴ(10日に5割)で、
金に困った人間を食い物にする。
貸す金は小額。
100万円を借りて10日に10万円の利子を高利と感じる者でも、
10万円を借りて1万円の利子なら返せると思う。
そこにつけこんで、
10日ごとに1万円の利子だけ払わせて、
元金は借りたままにさせる。
100日たてば元金が回収できる。
こうして、小口が集まれば、
1億円は10日ごとに1000万円の利子を生む。
ポイントは借り主に元金を返させないことで、
一度借りた人間は、ずっと骨までしゃぶられるようになる。

最終的に本藤のヤミ金は300店舗を数え、
従業員1300人を抱えるまでに肥大した。
給与月額は新人でヒラの「店員」になると、40万円からスタート。
店員の上が「番頭」で、役回りは店長補佐。
月給は200万〜300万円になる。
「店長」の月給は700万〜800万円。
その上が「統括」といい、
月給1000万円が基本で、
それに統括する店舗数で割り増しがついた。
その上が「総括」で月給が5000万円。
さらに上が「社長」になり、
この月給が1億5000万円〜2億円。
その上が3人からなる側近の「幹部」で、月給2億〜3億円。
その上が本藤本人で、
月収が最低でも2億〜3億円だった。

この「月給」は全部脱税
所得税など支払わない。
ヤミ金そのものが闇なのだから当たり前だ。
そこで、本藤が腐心したのは、
金の流通の痕跡を残さないことだけだった。

カネは処置に困るほど流れ込んできた。
あまりに巨額だったから、
銀行に預けることは不可能だった。
税務署にカネの残高や出所をお伺いされたくないから、
土地も株も債券も買えない。
基本的に遊び以外には使い途がなかった。
それでもカネはうなりをあげてなだれ込んできた。
タンス預金せざるを得なかったが、
とにかく巨額だった。
1億円というとみかん箱一つぐらいのボリュームになる。
それが何十、何百箱と積み重なった。
仕方なく渋谷区東一丁目に
住まいとは別に目立たないマンションを借り、
そこを自分だけのカネ置き部屋にした。
カネ置き部屋は他に
北新宿のマンションと、
渋谷に近い神泉の戸建てにも設けていた。

こんなに入ったカネを何に使ったか。
結局、歌舞伎町での遊びに使うしかなかった。
「悪銭身につかず」
というが、
カネはあってもカネの使い途は知らなかったのである。
時には愛人の誕生日に
東京ディズニーランドを二人で貸し切りにしたこともあるという。
アークヒルズからヘリコプターに乗り、
開園前の1時間を貸し切りにし、
3000万〜4000万円使ったという。

そのころぼくには週に9000万円入っていたから、
4000万円ぐらいはどうってことなかった。

それでいながら、
従業員には、早めに辞めることを勧める。

本藤は従業員がヤミ金を好もうと、
システム詐欺に走ろうと
何も言わなかった。
彼が従業員に勧めていたのは、
「サクッと稼いで、サクッと辞める」だった。
ヤミ金や詐欺は長く続ける商売ではない。
カタギの商売をはじめる目標が立ち、
資本が貯まったら、
「さっさとヤミ金や詐欺から足を洗った方がいい」
が本藤の持論だった。

こういう商売に一度でも手を染めたら、
カタギの商売などできるものではない。
中に「夫婦で弁当屋でも」という者も書かれているが、
弁当一つ売って100円〜200円の儲けという
固い商売など、ばからしくて出来ないだろう。

瞠目したのは、
オレオレ詐欺がヤミ金の中から必然的に生まれて来た、ということだ。

「ぼくが店長の地位を、
今まで以上に上げてやりたいとする。
しかし判断の基準は数字であって、
ぼくが勝手に昇格させるわけにはいかない。
じゃ、その数字って何かといえば、
貸付残高と利息回収率です。
それしかない。
貸付残高が1億円で、
利息回収率が150%、
1億5千万円だとなったら、
誰だっておかしいと思う。
が、そういうことが現実に起きた。
というのは、
店長連中が
貸付金の回収だろうと、
他の名目の振込だろうと、
カネはカネだということで、
カネを貸し付けてもいないところからカネを引っ張った。
オレオレ詐欺です。
オレオレ詐欺による振込金を回収金に紛れ込ませたわけ。
当然、回収率は信じられないくらいに上がった。
ぼくとしては
その者を厚遇するしかないわけです」
要するにオレオレ詐欺は、
回収率アップを原動力として
ヤミ金から自然発生した。
「ヤミ金=システム金融」が
「オレオレ詐欺=システム詐欺」に換骨奪胎されたのだ。

オレオレ詐欺から始まったシステム詐欺は
架空請求詐欺、融資補償金詐欺、還付金等詐欺と
進化発展している。
警察との知恵比べの様相もある。

その中で、
詐欺を働く者の理屈が笑える。

泥棒にも三分の理という言葉がある。
同様に詐欺犯にも詐欺を正当化する理屈がある。
未公開株や社債詐欺なら、
「俺たちは貧乏人からカネを奪い取っているのではない。
持っているカネをさらに増やしたいと願う業突く張りから取っている。
だから俺たちの詐欺は欲深い者たちへの咎めであり、罰だ」
オレオレ詐欺には
この言い訳は成り立たない。
子を思う親心を咎め立てすることは誰もできないからだ。
代わって登場する理屈は、
「年寄りが銀行に預け、
タンス預金しているカネは死に金だ。
社会に循環していないから死蔵であり、
経済的を波及効果がゼロだ。
それをわれわれが引き出し、
キャバクラなどでパッと使えば、
店がうるおい、勤めるホステスやボーイの収入になる。
彼女ら彼らはそのカネで生活をまかない、
欲しいものを買う。
波及効果が出る。
そういう意味では、
われわれが日本経済を回している。
政府に代わって所得の再分配を行っている。
だからオレオレ詐欺は捨てたもんじゃない。
もっとも、こういうことをまともに信じている者は
われわれの中にもいないけどね」
(詐欺グループの元リーダー)

詐欺仲間にはカネを貯め込んだ人間は
一人もいないと野瀬は言う。
手にしたカネはすべて即、
費消して日本経済を回したと主張したいのだろう。

結局、カネを求めても
カネの使い方を知らない。
人を騙して得た金は
身につかない。
そういう意味で、
次に書く一人の元詐欺師の述懐は興味深い。

友だちに大工や不動産屋がいる。
それなりにいい給料を取っている。
歯医者もいる。
月給が60万円だという。
今は「きれいな仕事でそこまで稼げる、凄いな」と率直に思える。
汚い仕事、悪い仕事をして
目が無意識にキョロキョロ動くより、
額の多寡は問題ではなく、
キョロキョロしないで済む仕事が立派なのだと思うという。

これだけマスコミが注意を促しても、
システム詐欺の被害額は増加している。
それだけ巧妙になり、
新手が出現しているのだろう。
いろいろ理屈をつけても
システム詐欺が卑劣な犯罪であることは間違いない。
動機はカネへの妄執だが、
それがどれほど人間性を毀損するか。
「いい死に方をしないぞ」
と言うしかない。

本書で触れた本藤は、
表に出ず、
一度も逮捕されていない。
本当の「巨悪」だが、
数軒の金の隠し場所に積み重ねられたミカン箱、
一生かけても使い切れないほどのカネの山、
つまり、「死に金」の山を見て、
何を思うのだろうか。
このような男は
それなりに人生の楽しんでいくのだろうが、
やはり死後の世界で
地獄が用意されていた方がいいような気がする。

最後に、私自身がターゲットとされた架空請求詐欺を。
携帯電話に何何の課金の分30万円を支払え、
ということで、何とか協会からメールが来た。
振込口座(個人名義)も書いてある。
当時、まだ架空請求詐欺が始まったばかりで知らなかったので、
そこにあった番号に電話した。
真面目そうな青年が出て、
これこれのサイトへのアクセスで料金が発生している、
という説明。
途中で詐欺だと気づいた。
支払わないと言うと、
それでは、勤め先まで伺うという。
「面白い。じゃ、俺の勤め先の住所を言ってみろ」
すると相手の声音が変わり、
こちらを非難し始めた。
こちらも応酬。
「こんなことに騙されるほど
こっちは頭が悪くないんだ。
それより、お前のお母さんは、
お前にこんなことをさせるために育てたんじゃないぞ

前非を悔いて、
他の職業に付け」
そこでガチャンと切られた。
私の言葉は彼の心に届いたのだろうか。






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