『検察側の罪人』  書籍関係

〔書籍紹介〕

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「検察側の証人」は、アガサ・クリスティの小説・戯曲。
ビリー・ワイルダによって映画化された。(日本題は「情婦」

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「検察側の罪人」はそのもじりだが、
読後、その意味が分かって来る。

将来を期待されている若手検察官・沖野啓一郎は、
地方の地検支部から東京地検に異動し、
司法修習生時代の恩師である
最上毅の下で事件を担当することになる。
最上に尊敬の念を抱いている沖野は発奮して捜査に取り組む。

事件は蒲田の民家で
競馬仲間にお金を貸していた老夫婦が刺殺された事件だ。
蒲田署の捜査本部は借金をした者の犯行とみて捜査を進める。
事件の参考人リストに松倉重生の名前を見出した時、
最上は運命的なものを感じる。

というのは、23年前、
最上が学生時代に住んでいた
根津にあった寮の管理人夫妻の一人娘が自室で殺され、
松倉が有力容疑者として浮上したが、
証拠不十分で逮捕には至らず、
事件は迷宮入りした。
水野という元寮生の雑誌記者が
その後も執念深く松倉を追いつめたが、
やがて時効が成立。

その名前を見出した時、
最上は、水野から執念のバトンを手渡されたような気がする。
今度こそ松倉に罪の償いをさせなければならない。

別件で逮捕された松倉は、
すでに時効の成立した根津の事件についてはあっさり犯行を自供した。
しかし、今度の事件については、頑として犯行を否認する。
物証はなく、目撃証言も乏しく、捜査は難航する。
しかし、最上の指示もあり、
沖野は厳しく松倉を追及する。
時には人格攻撃を行い、
やっている沖野自身が嫌悪感にとらわれる。
しかし、異様ともいえる執念で、
松倉犯行説を裏付けようとする最上に、
沖野は違和感を覚え始める。

やがて新たな容疑者が浮上する。
弓岡という男が酒場で犯行を臭わせるような自慢話をしていたというのだ。
沖野からも捜査刑事からも
松倉の犯行ではないのではないかとの示唆を受けた最上は、
このままではまた松倉を取り逃すことになりかねないとあせる。
そして・・・

この後は、楽しみを奪うことになるので、
読む予定の人は読まないで下さい
まあ、3分の1位でそうなるので、
秘密とは言えないでしょうが、
物語の核心部分に触れることになるし、
読者の「驚き」が失せるので。

松倉のアパートの捜索に立ち合った最上は、
松倉のアリバイにつながる中華料理店のレシートを発見する。
その証拠を最上は自分のものにしてしまう。
そして、将来、松倉の有罪証拠につながりそうな
ダウンジャケットの羽毛、使用済みの絆創膏、
書き込みのある競馬新聞などを懐に忍ばせる。

検事の立場にある人が
現場検証で証拠物件を秘匿する行為に
驚かされる。
ここで物語は大きく急展開する。

それだけではない、
最上は、真犯人らしき人物・弓岡と連絡を取り、
箱根におびき出し、
無人の別荘の庭で銃殺し、
庭に埋めてしまう。
その前に弓岡自身の口から
老夫婦殺害の詳細を聞き、
弓岡の犯行を知っていながら。
つまり、松倉の無実を知りながら、
それを真犯人を殺害することで隠匿するのだ。

そして、弓岡から受け取った凶器の庖丁を
松倉の部屋から持ち帰った競馬新聞で包み、
河川敷の草むらに捨て、
警察に密告する。
物的証拠が出て来たので、
松倉への逮捕が執行される。

このような行為を最上がした動機は
時効の成立した松倉に
罪をつぐなわせるために、
老夫婦殺しの罪を負わせるということ。
そのために真犯人の行方をくらませ、
証拠となる庖丁を
松倉の指紋がついた競馬新聞にくるんで捨てた。

しかし、こんな検事がいるだろうか
昔の犯罪を松倉が時効で逃げおおせている報いを
と言っても23年前の話である。
自分に危害が加えられるわけでも、
保身のためでもない。
それを自ら新たな殺人を犯してまで
冤罪を作り出すとは。

納得できない
最上は後輩検事から尊敬されているベテラン検事だ。
しかも、司法修習生の前で教壇に立って
法律の精神を述べていたりする。
いくら学生時代世話になった寮の娘の死の無念さを晴らすためと言っても
そこまでするだろうか・・・

そのことについては作者も触れている。

しかし、捜査関係者が松倉を陥れるためだけに
わざわざ手を汚すような真似をするだろうか・・・
沖野はそこがどうしても引っかかってしまう。
彼らは公務員だ。
どんなこだわりがあろうと、
基本的には任務を受けて与えられた仕事をしているだけの人間だ。

つまるところ、最上を突き動かす
時効の成立した犯罪者にそれ相応の償いをさせる、
という気持ちを納得させるだけの
学生寮時代の思い入れが描き損なっているのだと思われる。

というわけで、
善人と思っていた中心人物が
突然悪人に変身することに
読者は驚き、あきれる

後半は、
松倉が告訴されると共に
心に痛みを負った沖野は検事を退職し、
国選弁護士と接触、
松倉の弁護に協力するようになる。
人権派弁護士として有名な白川雄馬の支援も得、
雑誌記者と連携して最上を追いつめていく。

後半は、沖野の活動がどうに展開し、
最上の犯罪がどのように暴かれていくかだが、
最上の犯罪を一旦認めてしまえば、
物語は面白く展開する。

人権派弁護士の白川が実は商売人だったり、
沖野の「苦い勝利」も面白い。

検察の取り調べの過酷さなど、
リアリティあふれる場面もあり、
最上の変身という納得出来ない一点を除けば、
大変面白く読める本である。





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