『ワイルド・ソウル』  書籍関係

〔書籍紹介〕

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「アマゾンに移住させることは、
わが国民を死地に陥れるのと
同じようなものだ」
(1898年、初代駐ブラジル公使が外務大臣に上申した報告書より)
「アマゾンはとても外国人が住めるようなところではない。
万一わが国民を移住させたなら、
幾百名の移民は
数カ月のうちに
ことごとく惨死するのは確実である」
(1900年、ブラジル公使の手による公文書より)

上記の上申書に反して、
1961年、「サンパウロ号」に乗せられた移民たちは、
アマゾン奥地の入植地に送られた。
外務省移民課及びその下部組織である海外協会連合会が主幹になって
日本各地で説明会が開催され、
夢のような内容で移民への希望を語り、
外務省の窓口には応募者が殺到した。
しかし、送り込まれた入植地は
全くの荒れ地だった。

冒頭、衛藤やその他の移民家族たちの
荒れ地での奮闘が描かれる。
次々と離脱する移民たち。
残った者たちも
天候不順で悩まされる。
そもそも土地そのものが
農耕に適さない土質だったのだ。
条件が違っていると、
領事館に訴えても無視され、
衛藤の妻も実弟も亡くなり、
衛藤自身も入植地を離脱する。

その後のブラジルでの筆舌に尽くし難い苦労の末、
サンパウロの青果市場で職を得、
成功者としてのし上がっていくが、
衛藤の中に残ったのは、
自分たちが日本政府に棄てられた棄民だった、
という恨みの思いだった。

2006年夏、
ブラジルから一人の男・ケイが成田空港に降り立つ。
迎えた男・山本は、
やはり2年前にブラジルから偽造パスポートで潜入した男だ。
ケイは、
松尾という、7年前コロンビアから入国し、
麻薬シンジケートを運営する男と接触する。
そして、松尾・ケイ・山本の三人で、
2年前から練り上げて来た作戦を実行する。

山本は衛藤と金鉱で知り合った入植者、
ケイは衛藤と入植地で一緒だった家族の一人息子、
松尾も同じで、
衛藤の意をくんで、
日本政府のブラジル棄民政策に報復するためにやってきたのだ。

こうした作戦の進行に
NBSテレビの看板番組「ジャパン・エキスプレス」のディレクター
井上貴子とケイの関係がからむ。
色事師のように貴子に近づいたケイは、
報道の効果を上げるために、
自分たちの計画の一部を漏らす。
そして、決行の日・・・。

この時の描写が秀逸。
特に、貴子がハンディカメラで撮った映像
報道番組の中でスクープとして初めて公開され、
それを犯人たちが
自宅のテレビで見るあたりは
緊迫感が漂う。
映画にしたらさぞすごい場面になるだろう。

貴子が実は犯人を知っており、
事前に情報をもらっていたことを
貴子は言えない。
この事実に、貴子は
報道関係者として悩み続けるのだが、
そのサスペンスも効果をあげている。

そして、犯人たちは、
次なる作戦を実行に移し、
政府にある表明を迫る・・・

ブラジル移民のことは知っていたが、
戦後、このような詐欺にも等しい手口で
ブラジルに農民が送られたとは知らなかった。
その意味で、
戦後史の暗部に光を当てた意義は大きい。

物語のスケールの大きさ、
問題性の深さ、
描き方、
そして読後の爽快さ、
どれをとっても一級エンタテインメント

それというのも、
最初のブラジル移民たちの苦衷を
ていねいに描いているからだ。

大藪春彦賞・吉川英治文学新人賞・日本推理作家協会賞の
三冠もダテではない充実した内容。
1300枚の大作だが、
面白さに時を忘れ、あっという間に読み終えた。
必読。





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