『朝はアフリカの歓び』  書籍関係

〔書籍紹介〕

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このブログにしばしば登場する
賢人・曽野綾子さんは、
「海外邦人宣教者活動支援後援会」(略称JOMAS)というNGOを運営しているが、
この本は、JOMASがどのような支援をしたか
お金を難のために使ったか、
ということを通じて、
アフリカや南米の貧困の実相を伝え、
それに関わる精神について書いた本である。

第一章で、
JOMASがなぜ出来たかの説明がされており、
韓国にある聖ラザロ村という
ライ患者の施設への寄付金集めについて、
興味ある話が書かれている。
600万円かかる食堂の建設費を集めてほしい、
と村を運営している李庚宰神父から言われた時、
咄嗟に当時の人気作家で、
銀座で豪遊している人に半分出してもらおうか
と思ったというのである。

何しろ氏にとって三百万円は、
たった三カ月分の飲み代なのである。
しかし私が何一つ言わない前に、
神父が言った。
「曽野さん、こういうお金は
一人の人に出してもらわないようにしてください」
私は心のうちを読まれたのだが、
そんなことはおくびにも出さずに尋ねた。
「神父さま、どうしていけないんですか?」
「人を助けるというようないい機会は、
一人の人が独り占めにしてはいけないでしょう。
多くの人にその機会を分けてあげるようにしてください」
私はそれまで誰からも
そのような言葉を聞いたことがなかった。
寄付は受ける人が
たとえ自分が使う金でなくても礼を言う。
しかしほんとうは
よきことのためのお金は、
出させてもらう人が礼を言うべきなのである。

 
また、別なところに、このように書く。

私たちは、スタートの時点から、
日本中の個人的な善意の人々以外の、
いかなる組織からも実は寄付を受けるつもりはなかった。
つまり国家からも、
それに準ずるような組織からも、である。
私たちは、事業を大きくする必要全く認めなかった。
「身の丈にあった仕事」をすることが
人間にはいいのだし、
「焚くほどは風がもて来る落葉かな」(良寛)で、
活動はあるだけでやるのがいいのだ、
という日本風の美学も私は感じていた。

しかし、その結果、
20年の間に
17億を越えるお金が集まり、
支援に使われたのである。

曽野さんの団体のすごいところは、
必要経費や人件費に一銭も使っていないところである。
事務所は曽野さんの家の一室。
文房具や電話も曽野さんの家のものを使うから、
物品も購入しないし、
電話を持つ必要もない。
働く人は完全にボランティアで、
交通費も食費も会議費も、
まして日当など全く支払っていない。
どこかの慈善団体が
寄付金の中から人件費を出したり、
必要経費を出したりするのと全く異なる。
集めた浄財は、
その目的のためだけに使う

という精神が徹底しているのである。

また、ボランティアの根本についても、このように書く。

日本財団に勤めている時、
当時は財団の中にボランティア支援部という部があり、
世間で真面目に活動をしているグループに資金援助をしようとしたことがあった。
私個人としては
こうした組織を経済的に援助するのには反対であった。
そのボランティアが続く必然を有しているのなら、
他人が助けなくても自然に続く。
なくていいものなら、
消えていいのである。
というか、消えるということは人間の生涯、
物事の消長の過程で、
むしろ必要な淘汰である。
(中略)
結果は果たして芳しいものではなかった。
女性したボランティア・グループは
平均三、四年で消滅するものが多かった。
表向きは、
仲間割れがあったというのが
一番大きな理由のようだったが、
ほんとうの理由は、
ボランティアたちの中に、
どうしてもその仕事を続けなければならないという
熱意と必然がなかったのだと思う。

曽野さんの団体では、
送ったお金が正しく使われているかを必ず確認しに行くという。
もちろん、自費である。
その背景には、
発展途上国における汚職の構造がある。

加藤神父は
ペルーの貧しさの原因を
「政治家のエゴと汚職」
とはっきり言い切っている。
インドで会った一人の神父が
「インドの敵は周辺の国ではない。
それは役人の汚職と腐敗の体質だ」
と言い切ったのと同じだ。
私がJOMASを始めて
真っ先に知ったことも、
援助の金を、
この世界に蔓延している病気に汚染させて
失うことがあってはならない、
ということだった。
実に「汚職」は、
世界的に広がっている精神の病気で、
その伝播力はそれによる損失は、
インフルエンザや他の恐ろしい感染力を持っている疾病の火ではないかもしれない。

アフリカが植民地時代から解放されて
既に半世紀になるが、
今だに国民が貧困のままに放置されているのは、
やはり政治が悪いからだとしか思えない。
そうでなければ、
世界の様々な機関からの援助が
砂地に吸い込まれるように消えてなくなることはないだろう。

公務員の月給が遅配されているような国では、
公立学校の教師、警察官、税関の役人、兵士などすべてが、
貧困にあえいで汚職体質を作る。
脅したり、盗んだり、
金持ちの私兵になったりして、
とりあえず妻子を食わす方途を考えなければならない。
彼らは貧困ゆえに汚職をするのだが、
汚職が最後にもたらすものは、
さらなる国家的貧困なのである。

曽野さんは、
世界各地を回り、
目にした貧困を明らかにする。
与えられた粉ミルクを乳飲み子に与えず、
その足で市場に行って
スプーン一杯いくらで売ってしまい、
その金で年長の子供たちに食べさせる食料を買う母親も出て来る。
電気と水道とガスがない生活。
トイレもなく、
公共の乗り物がない生活。
しかし、次のように書く。

しかし驚くべきことに、
それらの土地に住む人たちが、
日本人より不幸だとは、
私には時々思えなかった。
今そうした土地の光景を思い浮かべると、
家族の生き生きとした小さな幸福の姿が、
私にはありありと思い浮かべられる。
夕闇が迫れば、
家々の前のかまどにはあかあかと火が燃えて、
くべた薪の燃える香ばしい煙が村中にたなびく。
鍋の中に夕餉の食べ物が煮えている。
今夜食べるものがあれば、
一家の父親は
男としての責任を果たしたのだから胸を張っており、
妻も子供たちも
明日を愁うことなく幸せになれる。
貧困は、反面教師としてではあったが、
日本人の忘れている幸せの原型を思い出させた。

ボリビアの神父の話も胸を打つ。

或る時、神父はボリビアの子供の一人に、
「大きくなったら何になりたいの?」
と尋ねた。
すると子供は答えた。
「大きくなるまで生きていたい」
この答えは、
健康なごく普通の日本人には
考えつかない衝撃的な返答である。

JOMASの性格から、
日本人神父や修道女の生活が描かれるが、
イタリアから来たヴィンセント神父の挿話が忘れられない。

かつて若い頃、
ヴィンセント神父は、
ローマで神学生として学びながら、
将来は神学者になるつもりだった。
つまり学問僧になる予定だったのである。
しかし、サンタ・クルスの町に倒れていた一人の少年の存在が、
神父の進路を変えた。
神父は貧しい人々の真っ只中で暮らす道を神から示された。

キリスト教の思想の中で、
神はどこにいるかというと、
「今あなたたちの眼の前にいる人の中にいる」
と言われるのである。
神は、しばしば
貧しくて、他人に軽蔑されるような人の姿をして
私たちの家の戸を叩く。
私たちが惨めな外見の旅人を拒否せずに
一杯の水を飲ませれば、
神はそれを覚えている、
という挿話が聖書には出てくるのである。


また、このようにも書く。

シスターたちは
いつも洗剤の供給が切れる不安と闘っていた。
洗濯室で働く一人のおばあさんのシスターのお祈りが
特によく聞き届けられる、
という評判だった。
総じて、知的ではない、
肉体労働を主とする部署で働くシスターに、
こうした聖人が出るのである。
それは
私の幼い頃から馴染んでいた
神と人との関係の原則を示すもので、
つまり神の前では、
知性、能力、現世での地位や評判など一切関係なく、
ただ謙虚に密かに、
人のために働くことで
神に仕える人が、
最も神に信頼を得ている人だ、
という思想を端的に表しているものであった。

神から「貧しい人と共にいないさい」
という命令を受けて、
極貧の生活の中に身を置く神父や修道女の生活。
強い憧れを感ずるが、
自分に出来るかといえば、
決心がつかない。
そんな気持ちにさせる本である。

題名の由来は、次の文章に現れている。

昼間のアフリカは多くの場合、辛い土地だ。
暑さ、埃、断水、生活上の不便。
そこで接する土地の人たちは、
約束を守らず、ずぼらで怠け者で、狡いこともある。
ヨーロッパやアジアからアフリカに来た人は、
そうした現実に腹を立て、
「明日になったら俺は今度こそ帰るぞ。
明日こそ帰国のための飛行機の切符を買うぞ」
と決心する。
しかし翌朝、
その男がまだ払暁の頃に目覚めると、
そこには世にも爽やかな
瑞々しい朝の気配が訪れているのである。
空気は徹底して澄み、
朝焼けが近くの林を染める。
前日のあの暑さはどうしたのだろうと思うほど
風は冷え冷えと涼しく、
地球始まって以来、
人間の肺になど一度も入ったことがないような
清純な空気が流れている。
やがて鳥たちが一斉に林で鳴き始め、飛び立つ。
アフリカの日の出前から
午前七時、八時までの時間は、
この世のどこにもない天国のひとときだ。
それで前日、
席を蹴ってアフリカから帰ってやると
決意した男は、
帰国のための切符を買うことを忘れる。
こうして彼はずっとアフリカの虜になって
この地を去ることができないのだ。






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