『楽園のカンヴァス』  書籍関係

〔書籍紹介〕

クリックすると元のサイズで表示します

原田マハという作者、
マリムラ美術館、
森ビル森美術館、
ニューヨーク近代美術館などに勤務経験のある
美術に精通した方らしい。

その経験を生かしての
アンリ・ルソーについてのミステリー。
ミステリーと書いたのは、
物語の展開が謎に満ちているからで、
読者の心を掴んで離さず、
先へ先へと物語が展開する。

時代は2000年。
主人公早川織絵は、
倉敷の大原美術館に勤める監視員。
1時間ごとに担当部署を変えながら、
美術品に向かう仕事だ。

画家を知るには、
その作品を見ること。
何十時間も何百時間もかけて、
その作品と向き合うこと。
そういう意味では、
コレクターほど絵に向かい続ける人間はいないと思うよ。
キュレーター(学芸部員)、研究者、評論家。
誰もコレクターの足元にも及ばないだろう。
ああ、でも──待てよ。
コレクター以上に、
もっと名画に向かい合い続ける人もいるな。
誰かって?
──美術館の監視員だよ。


という昔の会話を思い出しながら。

その大原美術館に
新聞社を通じて不思議な申し出が舞い込む。
新聞社主催のアンリ・ルソーの展覧会に
ニューヨーク近代美術館(MoMA)から
「夢」を借り出したいが、
MoMAのチーフ・キュレーターの
ティム・ブラウンが、
織絵を交渉の窓口することを求めて来たのだ。

織絵は昔パリのソルボンヌ大学で美術を学んでいたことがあり、
学会でフランス語で論文を発表していて有名な
オリエ・ハヤカワだった。
パリで身ごもった織絵は、
子供を生むために帰国し、
過去については封印してきた。
16年間固く閉じられていた
「パンドラの箱」の蓋が、今、開けられたのだ。

ここで、物語は
一挙に1983年のドイツ・バーゼルに飛ぶ。
伝説のコレクター、コンラート・バイラーが秘蔵する
ルソーの未公開の絵の真贋を判定が秘密裡に行われる。
招かれたのは、
MoMAのアシスタント・キュレーターであるティム・ブラウン。
上司のトム・ブラウンと一字違いで
間違って招待されたのだとティムは思うが、
誘惑に抗しきれず、
トムのふりをしてバイラーのもとに赴く。

もう一人招待されていたのは、
ルソーの研究家として名高い早川織絵だった。
二人は豪邸の一番奥の部屋で
伝説の人、バイラーに会う。
そして、ルソーの描いたと思われる「夢を見た」に対面する。
それはMoMAにある「夢」とほとんど同じ構図、題材だった。
ただ一つ、
絵の中に登場する裸のモデル「ヤドヴィガ」の手が
何かを握りしめている点を除いて。

バイラーが提示した条件で、
二人はある「物語」を読まされる。
一日一章ずつ。
それを7日間かけて読んだ後で、
「夢を見た」の真贋の判断をし、
勝者に「夢を見た」の権利を委ねる、
というものだった。

二人は毎日バトラー邸に招かれ、
それぞれ与えられた時間で「物語」を読む。
それはあのベル・エポックの時代を生きた
アンリ・ルソーの創作の秘密に関わるものだった。

その「物語」の作者は誰か。
物語に出て来る、ピカソやヤドヴィガ、その夫のジョゼフらは実在したのか。
「日曜画家」「子供の絵のごとく拙い技術の」
と揶揄されたルソーが評価されるきっかけであった
ピカソ主催の「ルソーの夜会」はどのようなものだったのか。
「夢」「夢を見た」の創作秘話は真実なのか。
「夢を見た」の背後にピカソの作品が隠されているという話は本当か。
物語の各章の最後に記されたイニシャルは何を意味するのか・・・

謎は謎を呼び、
ラストは意外な展開に至る。

私は近代美術には詳しくないし、
あまり好きでもないが、
そのような読者でも引きつけてやまない内容がある。
そして、美術というものに対峙する人間の業のようなものも感じられた。

本作品の中に出て来るルソーやピカソの作品については、
心当たりがなかったが、
パソコンの「画像」で見ることが出来た。
図書館に行かずとも、
このようなことを在宅で出来るのだから、
便利な時代になったものだ。

以下、本作に登場するルソーやピカソの作品の一部を
「画像」から拝借する。

「夢」

クリックすると元のサイズで表示します

「眠れるジプシー女」

クリックすると元のサイズで表示します

「飢えたライオン」

クリックすると元のサイズで表示します

「詩人に霊感を与えるミューズ」

クリックすると元のサイズで表示します

「女の肖像」

クリックすると元のサイズで表示します

ピカソ「アヴィニョンの娘たち」

クリックすると元のサイズで表示します

作品自体は、
登場人物がやや一面的で、
事件そのものに深みがなく、
ストーリーに追われている感じがするのが難。
しかし、小説は「大いなるホラ話」なのだから、
大風呂敷を広げて展開する話は歓迎したい。
今の諸作品のように、
身近な出来事をチマチマと描くのはつまらない。
その点、本作は読者の知的好奇心を刺激する。



この「楽園のカンバス」をもって、
2回先(2012年上半期)の直木賞候補作全作品を読了
随分時間がかかってしまった。

順位をつけると、

1.辻村深月 「鍵のない夢を見る」〔受賞作〕
2.原田マハ 「楽園のカンヴァス」
3.貫井徳郎 「新月譚」
4.宮内悠介 「盤上の夜」

番外 朝井リョウ 「もういちど生まれる」は、
私の感性とは合わず、読了不能だった。

「鍵のない夢を見る」の書評は、↓をクリック。

http://star.ap.teacup.com/applet/shokuniku/20121205/archive

「新月譚」の書評は、↓をクリック。

http://star.ap.teacup.com/applet/shokuniku/20121118/archive

「盤上の夜」の書評は、↓をクリック。

http://star.ap.teacup.com/applet/shokuniku/20120924/archive





AutoPage最新お知らせ