『55歳からのハローライフ』  書籍関係

〔書籍紹介〕

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村上龍による新聞連載小説。
5篇の中編小説を収録。

題名のとおり、
55歳前後の「余生」を描く。

「結婚相談所」

定年退職した夫と離婚した後、
生活苦から再婚を志した女性が
結婚相談所の門を叩き、
何回かの見合いを通じて
人生の哀歓を味わう。
14回の見合いを通じてもゴールインまでは至らない。
そんな時、パーティの会場であったホテルで
奇妙な出会いを経験する・・・

結婚相談所とはこういうことをやるんだ、
と興味津々。
そして、見合いの現実をあますところなく描く。
最後の出会いはほろ苦く、かつ甘い。
人生には粋なことも起こる。
それを抱えれば生きていける、
と感じさせる秀逸な一篇。

両手で顔を覆って、
すみません、と何度も謝りながら嗚咽する男を見ていると、
胸が締めつけられるような気がした。
小さな子をあやすように、
中米志津子は手を伸ばして、
男の肩のあたりに触れた。
初対面の他人の前で、
男は幼児のように泣きじゃくっている。
あなた自身にも、
終わってしまった恋愛にも、
その涙にも価値がある、
とう言いたかった。
哀れを誘うものではないし、
恥ずかしいことでもない。
恥ずべきなのは、
相手の人格や気持ちを無視して自分のことだけを考え、
喋る人間たちだ。
今あなたは悲しくて苦しいかも知れないが、
何も起こらない退屈な人生よりもはるかに豊かなときを生きている、
そう思った。
だが、何も言えなかった。
そんな言葉は、実際に口に出してはいけないのだ。
言葉にした瞬間、装飾され、嘘が混じる。
傍らにいる他人の心を揺さぶるほどの深い悲しみは、
言葉を拒む。


「空を飛ぶ夢をもう一度」

出版社をリストラされた主人公が
道路工事現場の交通整理をしながら、
偶然旧友に会う。
その後、山谷のドヤ街を追い出されそうになっている旧友を訪ねて、
旧友の母親に会いに行く。
その二人の短い旅路を描く。

人生に夢も希望も失った中高年が
中学時代の旧友の窮状をみかねて
抱き抱えて高速バスに乗る場面で涙が出た。
バスの中でおもらしをしてしまい、
怒る乗客を
客の一人、革ジャンパーお男がいさめる場面は泣かせる。

「バカ野郎、病気なんだ。
小便の臭いくらい我慢しろ。
小便の臭いで、
お前ら、死ぬのか」


帰宅した後の妻の反応も嬉しい。

連絡先を渡して病院をあとにしたが、
自宅に戻ったときには、
夜の九時を過ぎていた。
疲れていたが、
待っていた妻に、
実際に起こったことをそのまま話した。
仕事を探すどころか五千円近くつかってしまった、
そう言うと、
妻は遅い夕飯を作りながら、
いいことをしたね、
と微笑んだ。


「キャンピングカー」

定年後、キャンピングカーを買って
妻と二人で全国を旅する計画を持っていた退職者が
その話を打ち明けると、
妻から断られる。
「自分の時間がなくなるのは困る」と。
計画が狂った主人公は、
娘から再就職を進められて
就職活動をするが、
現実は厳しい。
昔関係のある会社に依頼して断られた主人公は、
人材紹介会社に行き、
そこで屈辱を味わう。
情緒不安定に陥った主人公は心療内科医に相談する。

会社という隷属と庇護の関係性の中にいた男が
「外」との関係性を取り戻すまでのいきさつの一篇。

「ペットロス」

定年退職後、
書斎にこもってブログに励んでいる夫との関係に疲れた高巻淑子は、
柴犬のボビーを飼い始める。
愛犬家同志の交流も広がる。
その中の一人、ヨシダとの関係も良好だ。
そんな時、ボビーが心臓弁膜症にかかり、
ボビーを看取るために
淑子は部屋にこもってしまう。

夫との関係が壊れた女性が
ペットの死によって、新しい関係性に目覚める一篇。

「トラベルヘルパー」

トラックドライバーの源一が
老いらくの恋に陥る。
古書店で知り合った女性・堀切彩子とデートを繰り返す中、
想いが募ってしまう。
しかし、ある日、
彩子は一方的に「会うのをやめたい」と言い出す。
彩子には、人に言えない秘密があったのだ。
子供時代に海女である祖父に引き取られた経験があり、
死を覚悟した源一は、
故郷の断崖で死のうと旅を出かける。
そこで源一はあるグループに出会い・・・

高度成長が終わり、
トラック業界の停滞で取り残された一人の
トラックドライバーの日常を描く。
                                           

5篇の中編小説は、
どれも50歳後半から60歳までの
余生を生きる人たちの生きざまを描いている。
今も日本のどこででも起こっている現実。
そこで、題名の「55歳からのハローライフ」となる。
新しい人生との出会い
それを描いて、
味わい深い中編集である。





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