新法皇と投票行動  

新ローマ法皇決定のニュースは、
ペルーのリマのホテルのテレビ、
ワールドNHKで知りました。
数日前、アルゼンチンを訪れたばかりですので、
親しみを感じました。

その後、
選出後初めての記者会見で、新法皇は、
「貧しい人々のための質素な教会を望む」
と語ったといいます。
法皇選出会議(コンクラーベ)で投票が進む中、
ブラジルのある枢機卿から
「貧しい人々のことを忘れるな」
と言われたことが心に残ったと述べ、
自身の富と名声をなげうって
「貧者のための教会」を目指した
聖人「アッシジのフランシスコ」を思い、
「フランシスコ1世」の名を決めたとのこと。

更にその後、
新ローマ法皇は、
出身国アルゼンチンの聖職者や信者に対して、
19日の就任式に出席するために渡航しないよう依頼、
「司教や信者が高価な長旅をして(ローマに)会いに来る必要はない。
代わりに貧しい人々にそのおカネを与えて」

と述べました。
選出後に公用車に乗らず、
他の枢機卿と小型バスで宿舎に戻ったそうです。

何だかバチカンが変わりそうな気配を感じます。

投票の際に用いられた投票用紙は焼却され、
その際、特殊な薬品を混ぜて、
新教皇がまだ決まらない場合には礼拝堂の煙突から黒い煙を出し、
新教皇が決まった場合には白い煙を出して外部への合図とする、
という粋な計らいは、
一体誰が始めたものなのでしょうか。

誰が決まってもいいように、
あらかじめ3つのサイズが用意されている法衣をまとう、
というのも粋な計らい。
助祭枢機卿の最年長者が
サン・ピエトロ大聖堂の広場を見下ろすバルコニーに出て、
ラテン語で新教皇の決定を発表し、
新教皇がバルコニーにあらわれて、
「ウルビ・エト・オルビ」(Urbi et Orbi、「ローマと世界へ」の意)ではじまる
在位最初の祝福を与える、
というのも伝統あるバチカンの習慣として素晴らしい。

去年の夏、
「ローマ法王の休日」という映画が公開されましたが、
このバルコニーに登る前に、
選ばれた新法皇が
「私には出来ない」
と逃げ出してしまい、
数日間ローマをさまよう、
という内容でした。

クリックすると元のサイズで表示します

抜群のアイデアを料理しそこねた
不出来な作品でしたので、
このブログでも紹介しませんでしたが、
世界12億人の信者の頂点に立つ役職、
イエスの一番弟子ペテロの伝統を受け、
天国への鍵を持たされるこの役職への重圧は大変なものに違いありません。

その役職に着くためには、
枢機卿団の3分の2の票を獲得するまで、
何度でも投票を繰り返すやり方。
まさしく神の手が人の手を会して介在する方法といえるでしょう。

今回の投票は5回目で決定したそうですが、
その間、ドラマが展開していたに違いありません。


一方、中国の全国人民代表大会
習近平氏が国家首席に選ばれた時の賛否の票は、
2952対1だったといいます。
まさに一党独裁国家の面目躍如ですが、
その反対票を投じた一人は、
追及され、処分されるんだろうな、
と思ったら、
反対票を投じたのは習氏本人だという見方があるそうです。
「謙虚さ」を示すためだといいます。
しかし、信任投票で
立候補者自身が自分に反対票を投じるというのは、如何なものか。
これが2953対0だったら、
どうなのか。


そこで、
菊池寛の名作「入れ札」を思い出しました。

代官を斬り殺した国定忠治は、
赤城山から榛名山を越え、信州へ落ちて行く。
忠治は少人数で逃げ延びようと決意するが
意中の3人を自分で決めると他の子分から不満が出ることを懸念して
自分から言い出すことができず、
迷った忠治は、卑怯にも「入れ札」を思いつく
連れて行くのにふさわしい子分の名を子分たちに書かせ
札数の多い者から3人を連れて行くことにしたのだ。

子分達に異存はないが、
一番古参の子分、稲荷の九郎助は複雑だ。
表向きは「あにい」と立てられているものの
他の子分たちから軽んじられているのは自分が一番知っていた。
古顔の弥助は好意的な微笑を自分に送ってきて、
九郎助の名前を書くという意思を見せた。

不安な九郎助は、
自分の名前は書かないという掟を破って
自分の名を書いてしまう。

入れ札の結果は、浅太郎に4枚
知恵者で軍師の役割を担う喜蔵に4枚
大力の嘉助に2枚、
そして九郎助に1枚だった
忠治に付いて行く3人は忠治の期待通りの結果となり、
弥助は裏切ったのだ。
九郎助は自分の名を書いた浅ましさ、卑しさがひしひしと身に沁みる。

忠治と分かれてそれぞれに落ちていく子分達だが
九郎助を追ってきた弥助は
「親分があいつらを連れて行くのは納得できねえ
11人のうちでお前の名前を書いたのはこの弥助1人だと思うと
奴等の心根がわからねえ」
と言う。

それを聞いた九郎助は脇差さえ掴んだが
弥助の嘘を咎めるには
自分の名前を書いたという
自分の恥を打ち明けなければならないことに気付き、
九郎助は自分の卑しさがなおさら情けなくなる・・・

国定忠治の任侠物語の脇筋を菊池寛が創作した作品。


倉本聰のテレビドラマにもこういうのがありました。
町議会選挙に立候補。
妻と娘と3人で選挙運動に励む。
しかし、投票結果は、
自分の得票数はわずか2票で落選。
ということは、
家族のうち一人が裏切ったことになる。
それは妻か。
それとも娘か。
と疑心暗鬼になる話。

投票行為とはこのような悲喜劇を生みます。

ユダヤでは、
全員一致の議決(又は判決)は無効」という掟があるそうです。
どんな決定もかならず異論があるはずで、
全員一致は
その過程で何か不自然な圧力が働いた結果である、と、
成熟したユダヤ人らしい智恵です。

それを適用すると、
全人代の決定は「全員一致」ではないから有効。
そこまで考えて習さんが「反対」票を投じたのか、
それは不明です。





AutoPage最新お知らせ