勘三郎逝去と『鍵のない夢を見る』  

中村勘三郎さんが逝ってしまいました。
あまりにも早い。
まだまだこれからあぶらが乗るというのに。

京都・南座で
ご子息の勘九郎さんは
自身の襲名披露公演の口上で
「一緒に芝居も、親孝行も、話も、飲みたい酒も、
いっぱいやり残したことがあります。
でも悔しいと思っているのは父。
大好きな芝居ができず、
お客様の笑顔が見られず、
父は無念だと思う。
父のことを忘れないでください」

と涙ながらに客席に語りかけたそうですが、
勘三郎さん、無念だったろうなあ。

急性呼吸窮迫症候群って何ですか。
つまるところ、肺炎で亡くなったということでしょう。
そういえば、
銀座に住んでいた義兄も
風邪をこじらせ、肺炎で50代で亡くなりました。
肺炎は恐ろしい。
しかし、「寿命」ということでしょうか。

勘三郎さんについて言えば、
子役の時から知っている役者が、
どんどん大きくなっている様を見るのは
居合わせた者の醍醐味です。
その進取の精神、
新しいものの挑戦に意欲的。
平成中村座の創設、
ニューヨークでの公演、
野田秀樹とのコラボなど、
歌舞伎の新境地を開くものでした。

何しろ芸風が明るい
何をしてもはずませてしまう。
今、「お金を払ってでも観たい役者」の一人でした。

というわりには、
あまり観ていません。
最後に観たのが、
2010年2月3日の「籠釣瓶花街酔醒」(かごつるべさとのえいざめ)でしょうか。
いや、2010年4月30日の
歌舞伎座閉場式での
「都風流」が最後か。

「都風流」は、
菊五郎、吉右衛門、仁左衛門、勘三郎、
三津五郎、梅玉、団十郎、幸四郎
という、
当代を代表する立ち役たちが
ずらりと並んで登場し、
扇子一つで順に踊るという趣向。
そんな豪華な顔ぶれが揃って踊るのは、
まさに「ワン・ナイト・オンリー」の素晴らしさ。

その他、シネマ歌舞伎で、
「らくだ」「連獅子」「文七元結」も観ました。
こんなことなら、
もっと舞台を沢山観ておくんだった。
後悔しても、もう遅い。

役者やオペラ歌手の生の舞台を観るのは、
その同じ時代に生きた者だけが享受する特権です。


〔書籍紹介〕

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先の直木賞受賞作

不思議な感覚の短編集。

小学校の友人の母親の盗癖を扱った「仁志野町の泥棒」

デートした相手と再会したいために、
公共施設に放火する消防団員を描く「石路南地区の放火」

どうしようもない男に母親を殺された娘の逃避行の「美弥谷団地の逃亡者」

空疎な夢を持ち続けて大学に残留した恋人と付き合いを続け、
大学教授を殺害した恋人に殺されたと偽装することで
恋人の夢を断ち切る女を描く「芹葉大学の夢と殺人」

子育てに疲れ果てた母親が
スーパーで子供のベビーカーを喪失する「君本家の誘拐」

どこにでも、いつでも起こりそうな事件を取り上げて、
人生の断面を切り取ってみせる。
地方都市に住む人間の鬱屈も描く。
特に、「芹葉大学の夢と殺人」は、
夢見る青年の頼り無さと
それに気づく女の心のすれ違いを描いて秀逸。

まぎれもない、才能を感じさせる
犯罪者の描写。
短編を読む面白さを感じさせてくれる一篇である。





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