ドクター・アトミック〜原爆の父  

今日は常務会の資料を順調にこなし、
来客とも会って、
夕方からは東銀座へ。
METライブビューイングを観るためです。

いつもはばたばた時間間際に飛び込むのですが、
今日はゆっくりでかけて、まず、夕食。
銀座の奄美・鹿児島・沖縄料理の「麴蔵」(こうじぐら)へ。
しゃぶしゃぶや水炊きは二人からなので、
鶏飯(とりはん)と薩摩軍鶏のもも焼きを注文。

鶏飯は、奄美大島で食べたことがあります。
↓のような具の乗ったご飯に鶏ガラのスープをかけて食します。

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このスープがすこぶるうまい。

それだけでは寂しいので、軍鶏のソテー↓。

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これもうまかったな。

などとのんびり食事をしていた時は、
後で書く「大事件」はまだ起きていませんでした。

丁度うまく夕食を終わらせて、東劇へ。
前の「サロメ」から1カ月も経っており、
今年のMETライブビューイング、随分進んだ気がしましたが、
実は、まだ2作目
今日のオペラは
ジョン・アダムス「ドクター・アトミック」
11月8日の収録 (欧米では生放送) ですから
随分間を置いたものです。

そんなオペラ聞いたことない、と思ったのも当然で、
2005年10月1日にサンフランシスコ・オペラで初演された作品の
MET初演。
つまり、21世紀のオペラ
当然、現代音楽。
しかも英語。
という、伝統的オペラファンの好みではない作品のためか、
広い東劇に観客は8人
特にこの日は空いていたようです。
年齢層は五十代から六十代までの
おじさん、おばさん。

なにしろ題材はロバート・オッペンハイマー
1945年7月16日の、人類初の核実験。
この実験で実用化された原子爆弾 (アトミック・ボン) が
その1カ月後、
広島、長崎に投下されるのですから、
日本人としては心にさざ波が来ざるを得ません。

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↑オッペンハイマーは原爆開発の結果、「原爆の父」などと呼ばれていますが、
その後、水爆開発には反対。
赤刈りの犠牲になって、公職を追われます。
教養の高い、相当複雑な人間だったようで、
オペラの主人公にはぴったり。

興味のある方は、↓をクリック。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%83%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%BC

更に、このニューメキシコでの原爆実験前後のことに興味ある方は、
↓をクリック。

http://members.jcom.home.ne.jp/rieux2/oppenheimer.htm

さて、このオペラ。
音楽は現代音楽で不協和音の連続。
セリフも生の英語で、ロマンのかけらもない。
美しくも、楽しくもないですが、
この題材にはぴったり。
不安と焦燥をかりたてます。

特に、第1幕の幕切れのジェラルド・フィンリー (オンペンハイマー役) の
アリアには圧倒されました。
ここで使われているのは、
17世紀の宗教家でかつ詩人のジョン・ダンの詩で、
この孤独感に満ちたアリアを聞きながら、
アンドリュー・ロイド・ウェーバーの出世作
「ジーザス・クライスト・スーパースター」の中の
「ゲッセマネの祈り」
事務局長は思い出していました。
超越した存在に対する孤独を歌いあげる様がそっくり。
歌の後の後奏がドラマチックで素晴らしい。

ジョン・ダンについて興味のある方は↓をクリック。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%80%E3%83%B3

後半は実験のその日、悪天候が晴れて、
カウントダウンまでの息詰まる展開。
当時、実験結果が読めず、
連鎖反応で地球全体が火の海になるのではと心配していたのなど、
初めて知りました。

演出も素晴らしく、
三層の重層舞台に
たとえば、空間がねじれたようになった人々が置かれ、
その上に、正装したインディアンたちが並んだりします。
インディアンの世界観には
原爆など容れられないもので、
そのアンチテーゼを視覚化します。

また、映像で広島の地図が出て、
それが燃えていくなど、
アルゼンチンの映像作家、ペニー・ウールコック (女性) は
視覚的に迫ります。

原爆そのものの美術も素晴らしく、
その醜悪な姿が
宙づりになって世界を見下ろす様は
まさに大変なモンスターを人類が生み、
その呪縛の下に支配されていることを表現します。

冒頭と二幕冒頭で紗幕に周期律表が映し出されるのもいい。
高校時代覚えさせられた経験を思い出します。
周期律表は、原子構造の解明によりもたらされたもので、
これにより、全ての物質の宇宙での位置が決まり、
ここから原子の分裂と融合がイメージ化合されます。

まさに、核実験は、
この周期律表に手を加えることで
「あの日から世界が変わってしまった」
というのがよく分かります。

人類は二十世紀になって、
二つの「神の領域」に踏み込みました。
一つは物質の根本を少なくとも素粒子段階まで解明して、
原子の分裂と融合に手を下したこと。
もう一つは、
生命の根本を少なくともDNA段階まで解明して、
遺伝子の組み換えにまで手を下したこと。

この二つは、かつては哲学者と宗教の領域だったもので、
十九世紀以前の人には思いも寄らない世界観の大変革でした。
ただ、そこから先がまだ未知数なので、
さっき「少なくとも」と書いたのは、
そういうわけです。

そこまで行った科学がその先を見出すことができるかどうか、
それが今後の人類の課題で、
素粒子世界で核兵器というものを生み出してしまった人類は、
もう一つの遺伝子の世界で何を得るのか。

オペラの最後、人類初の原爆の炸裂で舞台が真っ白になった後、
広島で被爆した少女の声が日本語で流れます。
「水を下さい」
「子供たちが水を欲しがっています」
「谷本さん、助けて下さい」

拍手するのもはばかれるような幕切れ。
圧倒されて、客席から立つこともできない衝撃を受けました。

既に書いたように、
美しくもなく、楽しくもないオペラですが、
21世紀のオペラとして、
音楽と演出が見事になし遂げた
すこぶる質の高い作品でした。

衝撃からようやく立ち直って、外に出て、
切っていた携帯電話の電源を入れると・・・
大変な事件が起こっていたのです。

それは、明日。







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