『大川わたり』  

家に持ち帰った仕事が結構順調に進んだので、
午後から渋谷に出て映画。
観たのは、「この自由な世界で」

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監督は巨匠ケン・ローチ
前作「麦の穂をゆらす風」は、
事務局長の2006年個人ベストテンの2位。
アイルランド紛争の次はイギリスの雇用問題で、
特に、外国人の不法就労を描いて、
いかにもこの監督らしい。

会社をクビになった主人公の女性が、
就職斡旋会社を始める。
搾取に対抗し
弱い者に同情していたはずの彼女は、
やがて、知らず知らずのうちに
弱い立場の外国人労働者を食い物にするようになっていく。
それも、自分の家族の幸福を願う「自由競争」の結果なのだが・・・

ドキュメンタリーのようにリアルな描写で息がつまる。
日本のワーキングプアの問題と重なって切ない。
まだ外国人労働者が少ない日本とは比較にならない問題を欧州は抱えている。
しかし、こういう現実を見せられても、
どうすることもできないのが実情。
世界の問題を全部背負うにはこちらは非力すぎる。

予告編で、時給数円で働く
中国のジーンズ縫製工場の女工の記録映画が紹介されていた。
前にニューヨークの
福建省からの出稼ぎ労働者の話を観たことがある。
ルームシェアならぬベッドシェアをして働く彼の時給は1ドル。
安い、と思うのは我々日本人の感覚で、
15時間働いて得る月給換算450ドルからほとんど仕送りされる金は、
本国の労働者の給料を上回る。

映画館の向かいの東急百貨店の1階は、
きらびやかなブランドの店であふれていた。
富の偏在は現代社会の病巣の一つだが、
日本に生まれた幸運を思わざるを得ない。

5段階評価の「4」
映画を観て辛くなりたくない方は、観なくていいです。

その後、浜町の明治座へ。
渋谷からは半蔵門線が一本で便利。
おかげで、水天宮さんに十数年ぶりにお参り。

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いいですねえ、こういう日本情緒。

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明治座といえば、
昨年の今頃は「奥様孝行観劇会」の準備で大忙しでした。
1年前のこととは思えず、はるか昔のことのようです。

今日観たのは、↓の『大川わたり』

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原作者の山本一力と事務局長の間にただならぬ関係
があることを知っている方が招いて下さいました。

「ただならぬ関係」について、興味のある方は、↓をクリック。

http://star.ap.teacup.com/applet/shokuniku/20070221/archive

この中で山本一力は「OP」とか「One Power」(=一力)と書かれています。

プログラム(明治座では「筋書き」という)に山本自身が書いているように、
(中学時代からの友人で、「俺」「お前」の仲だったので、
あえて直木賞作家を呼び捨てにさせていただきます。
先方も事務局長に対しては呼び捨てですから)

ビデオ制作会社の経営に失敗、
借金にあえいでいた時代に小説を書き始めた時の処女作がこれ。
ある雑誌の新人賞に応募して、
最終選考に残ったものの、落選。
それが後にWEBで公開され、本になり、
こうして二度も舞台化されるわけですから、
小説の運命は分かりません。

ちなみに、最終選考の審査委員の一人が林真理子で、
選考決定後の懇親会で
「山本さん、新人賞はちゃんと取った方が将来のためにはいいわよ」
と励ましてくれたそうです。
後に「あかね空」で山本が直木賞を取った時の選評で、林真理子が
「山本さんは新人賞応募時代から知っているので、今回の受賞はうれしい」
と書いたのは、そういうわけです。

ところで、『大川わたり』という題名は
事務局長がつけた、と言ったら、
読者は「ウソだ〜」と思うでしょうが、ホントの話です。

当時、山本が書いた小説を「最初の読者」の観点で読んで、
(実際は奥さんが先に読んだから「第二の読者」)
アドバイスしていたのが事務局長。
作家と編集者みたいな関係で、
指摘により作品が良くなるので、
山本からは信頼されていました。
直したのを会社の帰りに待ち合わせて読んで、
感想を述べ、改善点を指摘していた頃が懐かしい。
当時、短編の新人賞にも応募していて、
ニューヨークにいた事務局長のホテルにFAXしてきて
直して送り返すなどということもやっていました。

山本は次々と会社を興しては失敗の連続。
作品を読んで、
「お前は才能があるんだから、
次々と賞を取れば、
出版社がほっておかない。
お前が今の借金を返す方法はそれしかないよ」

と助言したことが今実現しているのは驚きです。
(かなりの額だったあの借金は返し終えたのだろうか)

で、当時、書いて来た作品の題名をつけるのが
何故か事務局長の役割。
「題名、お前がつけてくれよ」というわけ。
この作品は、不祥事を起こした主人公が
やくざの親分から
「借金を返せるようになるまでは大川(隅田川)を渡ってはならねえ」
と厳命されるのが発端。
そこで、『大川わたり』となるのですが、
落選した時の選評に、
「題名にある大川をわたることがうまく消化されていない」
とかなんとか書かれ、
こんな題名をつけて山本に悪いことをしたかな、
と思いました。
でも、今こうしてみると、
香りがあって風格があって、見た目も美しく、内容とも合致する
いい題名だったと思います。

ついでに言いますと、
終わりの方で読者をひっかけるある工夫があるのですが、
これは事務局長のアイデア。

初めての長編だったために、
前半で良い人物が途中で悪人になってしまうので、
「地の文で書いたことを後で裏切ってはならない」と指摘、
「でも、ここまでやったんなら、山本、ここは『スティング』をやろうよ
と提案。
「スティング」は、このブログにもたびたび登場しますが、
観客だまし映画の最高峰。
1973年のアカデミー賞の作品賞・監督賞など7部門を獲得した名作。
山本も観ていましたので、即座に理解して、
ああいうことになりました。
今回の上演でも、この部分、観客がざわざわとわきました。

そういうわけで、ちょっとしたフクザツな思いで観劇
原作が350枚という、大長編ではないので、
ダイジェストにならず、そのままていねいに脚色。
原作者冥利に尽きるというものでしょう。
川をわたるくだりは原作を改変。
あのままやると、舞台では煩雑になり、
セットも一つ増えますので、
ラストに余韻を持たせるには賢明な選択。

ただ、短い場面を暗転でつなぐのが少々わずらわしく、
ドラマの流れを断ち切られます。
暗い中音楽が流れてセットの交換を待つなど、とても今の芝居とは思えません。
従って、全体は平板な印象。

主役の筒井道隆は柄はぴったりですが、
やはり大舞台には力量不足。
活舌(かつぜつ)が悪く、声が通らず、セリフが立たないのは致命的。
舞台で突っ立っている印象が多く、
相手のセリフに対するリアクションも不足。
つまり、舞台で生きていない。
銀次の悩みも癒しも十分に客席に伝わって来ないのは、
不幸なことでした。
大舞台での動き方、見せ方一つから勉強し直さなければいけません。
江守徹、風間杜夫はさすがで、舞台を引き締めます。
渡辺哲の演技はユーモアがあっていい。

演出的には、無頓着なところも多く、
江守徹、完全復調とは言えないようです。

ただ、こうした感想は芝居を見すぎている事務局長の好みもあり、
芝居は観客があってのものですから、
明治座の観客層、この芝居に何かを求めて来た方への
期待にはこたえることの出来た舞台だと思います。

ところで、そんなに仲のよかった山本とは
わけあって絶交
原因が借金ですからなんだか「大川わたり」と重なります。
実際は禁を破って、その後3度ほど会っているのですが、
この10年は没交渉。
ビジネスマンとしては落第だった山本は、
作家としては大成。
直木賞を取り、作品が映画化・舞台化・ドラマ化され
更に社会的発言も重んじられるという、
作家としての夢を実現したのはすごいことで、
努力のたまものです。

プログラムを見ると、
少し前より太ったようですが
満ち足りた表情で写っており、
今の充実がうかがえます。
事務局長と付き合っていた頃は
嘘付きで女に汚く、人の道から外れたことを沢山したクズでしたが、
こうして人から尊敬され、重んじられる人間として再生したことは
やはり喜ぶべきことです。

最近、テレビの番組で
今の家庭の幸福を強調していたそうですが、
その番組を見た方は、
前の奥さん、前の前の奥さんのことを知っている人で、
それでいいのか、という気持ちになったそうです。
そういうところにもう少し配慮がほしい。
やはり若い頃した過ちは、
それを知っている者たちには辛いトゲとなっているようです。
事務局長は山本の成功は喜んでいますが、
事情を知る周辺の人間(特に女性陣)は今だに許していませんからね。

以上、山本一力外伝の一席。






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