どんな映画が好きですか?
と、聞かれたら上映時間一杯、心奪われた感がある映画。
そんな映画「ライフ・オブ・パイ」@TOHOシネマズ日劇
パイという青年がベンガル虎と一人と一匹で太平洋をさまよう話。
予告編を見たときに、なんとも荒唐無稽なお伽噺の結末は
どうなるんだろう?という興味を持った。
原作はイギリスの権威ある文学賞”ブッカ―賞”受賞作で
アメリカで長期間ベストセラーになった作品。
素晴らしくファンタジックな映像に酔い、イマジネーションの
世界に飛び込んでいける人なら、きっとこの映画に嵌ってしまう。
漂流する海で出会うクジラや夜光虫のきらめく様子は、全部CGだが
その美しさといったら!
こういう映画こそ、IMAXシアターのような大きなスクリーン
で見る価値があるだろう。残念ながら普通の劇場で公開されてます。
心の印画紙に焼き付けられるようなインパクトのある映像満載の
映画なのだが、テーマは深い哲学的なおとぎ話だと思う。
といっても、シンキ臭いとか難しそうとかは一切なし。
いったん、物語の世界に取り込まれたら「心奪われ体験」は
約束します。(といっても、個人の好みですが)
この年になって、最近とみにファンタジー系の映画が好きです。
若い頃には、子供向けでしょーが!と決め付けていたタイプの
映画に最も心奪われる。
複雑にひねくれた存在の大人がファンタジーにひたれるのは、
ファンタジーは現実の映し絵だから。
ちょっとフィルターかけて、奇想天外なシチュエーション
にしてあるけれど、そこにあるのは「人生の真実とはなんぞや」
太平洋ふたりぼっち、しかも相棒は肉食獣。
こんな究極の状況に投げ出されて、何を信じ何を支えに
生き抜くのか。
パイ(インド人)は、ヒンズー教徒でありつつ
キリスト教徒でもあり、イスラムも信奉。長じてユダヤ教の
カバラを大学で教えている。「ひとり宗教のるつぼ」状態ですね。
そんなたくさんの神々を信じる彼が、毎日死と直面する状況の中で
はたして「神」を見たのか?
・・・・神はともかく(神の問題を置いといちゃいけないが、
私の浅い知識では分からず)、映画の最後に
「人生は手放していくものだと思った」というパイの
セリフに心打たれました。
生きていくうちには、楽しいことと同様に
悲しい記憶や辛い体験も雪のように
心の底に降り積もってしまう。
雪下ろしをして悲しみを根付かせないようにしないと、
心がパンパンになって潰れてしまう日が来るかもしれない。
手放すのは、悲しみという感情に対する自分の執着。
ちょうど、友人から借りた仏教特集の「一個人」を
読んでいる最中なので、私はこの映画から仏教に
たどりついたようです。色即是空、執着こそ苦の源。
優れて哲学的なテーマを持った作品です。
インスパイアされれば、いろいろなイマジネーションが広がります。
奇しくも魚座に天体が集合するこの時期にぴったりの映画です。
アカデミー賞も取るでしょう。
ところで、お話の結末は二つあります。
どちらを信じてもどっちも信じなくてもいい。
ただ、パイの人生がハッピーエンドであることが嬉しかったです。


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