初秋の風は、人を切なくさせていけない。
感傷に浸るうちにネガティブな発想を持ちだしてしまわないよう、
ありそうでないような妄想に耽るに限る。
ありそうでないこと。
調子に乗って信号を無視してきた二人乗りのヤンキーのバイクに車でぶつかる。
時に「あればいいのに」と思ってしまうけど、なかなかないよね。
車って、ちょっとぶつかるだけでもどえらい音がする。それも安っぽくてバカでかい音。メタルゾーンみたいな音。
だけど、生身の体は、ぶつかった時にどんな音がするのか。
小学生の頃、自転車でバイクにはねられたことがある。
脳味噌ってすごいな、と思うのが、
はねられる直前に意識が飛んだことだ。
「キィーーーーーーー」というバカでかいブレーキ音が耳のすぐそばから聞こえて、
その直後、目の前は真っ暗、その隅で、漫画やアニメで見るような星がくるくる円になって飛んでいた。
「そうだ、わたしは、お昼のドラマを見ていたんだ。それから・・・」
と思ったところで目が覚めた。
どれくらいの時間意識が飛んでいたのかはわからない。
気づけば周りで友達数人が号泣している。その後ろには騒ぎを聞きつけて近所の住人が駆け寄ってきて、ちょっとした人垣ができていた。
ドラマを見ていた、という夢を見ていたのかしら・・・と現状を把握しようと頭を回転させるも、まだ朦朧としている。
そうか、わたし、はねられたのか、と理解したのは、近所の住人のおばちゃんに、自分が今どんな状態なのかを説明された後だった。
不思議なのは、「キィーーーーーーー」という音しか思い出せないこと。
ぶつかった時、ものすごい音がしたそうだ。「ドン」だか「ガン」だかわからないが。
どれだけ思い出そうとしても、まるで他人が経験したかのような、遠い遠い世界のお話にしか感じられない。わたしが見たのは、ただの暗闇と空を飛ぶ星の輪だけで、視覚以外の感覚は何にも思い出せないのだもの。
その時のことを考えると、
調子に乗ったヤンキーを車ではねようが、そのヤンキーは自分の行動を恥じることなく終焉を迎える可能性もある。
だったら、はねてもこっちにばかり嫌な思いが残るだけだ。
おやおや、いけない、何てことを考えてしまったんだ。
人の命が関わることは、いけないよ。道徳ってのは、色んな視点があるから、正解は一つとは言い切れないものね。
いや、そうじゃなくて、
もっと、何かハッピーなことを想像しなくちゃ。
コカコーラの、
ポイント貯めて抽選で当たる自転車が手に入ったらどうしよう。
うーん、
赤すぎるなぁ。
これも違うな。
歳をとると、想像力が枯渇して、いけない。
あぁ、
秋の夜は、
長くていけない。
いけないよ。

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