小学生の頃、ブロードウェイミュージカル『THE SECRET GARDEN』を観覧して以来、ずっと憧れていたミュージカルの舞台に、今、わたしは立っている。
純粋な“ミュージカル”とは少し、いや、かなりかけ離れているかもしれない。時には陰毛になったりするし。あんまし歌わないし。
それでも、これは、ミュージカルの舞台だ。
だってやってる本人達がミュージカルって言ってるんだから、ミュージカルなんです。
2013年の7月から半年間、仕事やライブのない日はほぼ毎日稽古をしてきた。恐らく、わたしの人生で最も頑張った半年間ではなかっただろうか。
あいちトリエンナーレ公演から始まり、大阪での2日間に渡る遠征公演も経験した。
そんな、人生初のミュージカルの舞台が、遂に、千秋楽を迎える。
2013年2月、演出のトリエさんと制作のグリコさんがJONNYのライブを見にいらした際に、この舞台への出演を依頼してくれた。
企画書を読み、「ミュージカル?ロック?エログロ?下ネタ?何、それ、あたしが出なくてどうすんの??」と、その時は意気揚々と快諾したのだが、
日が経つにつれ、「そういや、稽古ってやっぱ夜だよなぁ。夜、あたし仕事じゃん」「ていうか、舞台って結構な人数でやるんだよなぁ。あたし、人見知りじゃん。新たなコミュニティーに参加するのって、めっちゃ労力使うじゃん」「てか、あたし、演技なんかしたことないや」「え、ダンスもするんかな。あたし、運動能力皆無だぜ?」「…これ、無理なんじゃね?」と、かなり後ろ向きな考えに囚われるようになっていった。
「…やっぱり、断ろう」
実は、初めて稽古場に見学に行った時、わたしは依頼を断るつもりでいた。
しかし顔を出した瞬間、「トリエです」「上田です」「藤村です」「釈迦です」「(・・・釈迦・・・!??)」「こちらが佐藤さんです」「あ、どうも」「よろしくお願いします」「あ、よろしくお願いします」「頑張りましょう」「あ、はい、頑張ります」と、言い出すきっかけがないまま、自己紹介を済ませてしまった。
これは…やるしかないではないか。
わたしだけかもしれないが、大人になるにつれて、不安や恐怖、怠惰などを覚えてしまい、何を始めるにも、期待や好奇心よりも強大なそれらとまず立ち向かわなくてはならない。
逃げるのは簡単だ。だけど、やるなら今しかねぇ。やーるなら今しかねぇー。脳内BGM、長淵の『西新宿の親父の唄』に支えられ、7月、遂に舞台の稽古に参加することになった。
それからは、あんた、刺激と挑戦の日々ですよ。
舞台での演技ってのは、バンドの演奏と似ている。お客さんに伝わらなきゃ、意味がない。ただ大きい声で、大きい身振りで、なんて単純な話ではもちろんなくて、キャラクターの境遇を背負い、そのシーンでのそのキャラクターの言動の意図を明確に表現しなくてはいけない。伝わるように。会話の場合、伝えるのはお客さんだけではなく、もちろん会話の相手にも感情をぶつけなくてはいけない。
なめてた、訳ではない。けど、思ってたよりも、底が知れない世界だった。
演技だけではなく、今回は演劇とコンテンポラリーダンスのコラボレーションということもあり、身体もたくさん使わなくてはならない。この、“極力動かずに”をモットーとしているわたしが、だ。
エラいもんで、こんなわたしでも、今では汗をかくことに抵抗がなくなり、心なしか、胴周りにくびれらしきものができてきたようにも思う。
素晴らしい、素晴らしいよ。
得るものばかりだ。
10月2日のトリエンナーレ公演では、初の舞台への緊張から、開場直前、かなりのパニックを起こしてしまった。これから2時間弱、わたしはわたしの日常へ、帰ることはできない。ステージを前にして緊張故に吐き続けるなんぞ、バンドで初めてライブハウスのステージに立った、10数年前以来だ。あと、暗転も怖かった。思ってたより、暗い。というか、真っ暗。闇。何にも見えない。
初舞台は、とにかく必死だった。
終わった後、深い無気力に襲われた。
それでも、1つの公演を終えた達成感は、心底気持ちが良かった。
11月9日、10日は、大阪北加賀屋のカナリヤ条約という小屋で、2日間の公演を行った。2日で3公演。
短時間で、集中力をマックスまで整える術を知った。時間に迫られバタバタと焦燥することにも少しずつ慣れていった。
この頃から、何となく演技やダンスってものがわかってきて、自分が何がしたいのか、何ができていないのかが少しずつ見えるようになってきた。
そして、今。
なんと、
わたしは今、千秋楽の公演が楽しみで、わくわくしているのだよ!!
楽しみ!!そう、完全に楽しむことができているのだ!!!
もちろん、まだまだ至らぬところは多々ある。もっともっと努力して精進しなくてはならない。
それでも、楽しいと思えるようになったのだ。
もうすぐわたしは、ミュージカルの舞台に立つと言う夢を完遂する。
続く。
【サ××ド・オブ・ミュージック】の詳細はこちら
http://som2013.tumblr.com/

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