うん十年も前、ミュージカル「キャバレー」の稽古中、私は市っちゃん(市村正親さん)にダメ出しをもらった。
「治田、『ア』は『ア』だよ」
私のア母音が平べったいという指摘だ。
当時、私は実力は五流なくせに、生意気だけは一流で、せっかくのアドバイスを聞こうともしなかった。
それが今・・・
「あのさ、『ウ』は『ウ』なんだよ・・・」
なんてダメを共演者たちにしている、いっちょまえに。
このおれが・・・もう、穴があったら、入りたいよ。
市っちゃんの指摘は正しかった。
母音が曖昧だと、本当に言葉聞き取れないもの。
ロム(旺なつき)さんが物凄く謙虚に耳を傾けてくれる。
「そうだよね、言葉、滑っちゃダメだよね!」
彼女が凄いのは、次の回にはきちんと治してくることだ。
そう、自分に親切じゃダメ、親切にすべきはお客様だ!
ロムさん、飲み込みも早い。
鼻腔発声をアドバイスしたら、一発でできた!
言葉がますますもって聞きやすくなる。
喉発声はワイアレスマイクには乗りにくい。
ミュージカルには滅茶苦茶不利。
稽古場で聞きとれなかったら、マイクを通せば100%聞こえない。
大事なのは音量じゃない、口跡(滑舌)なのだ。
彼女、相手役として、今、以前よりうんといいボールをくれる!
ある日、バスバリトンの鍋ちゃん(石鍋多加史さん)が、なんだか神妙な顔して聞いてきた。
「治ちゃん、高い音、どうやって出したらいいかな?」
大先輩におこがましかったが、例の「軟口蓋おっぴろげ発声」を伝授した。すると、何日かして凄く嬉しそうに言う。
「治ちゃん、出るようになったよ!ありがとう!!」
ひとりで稽古してたんだ・・・
大事だよね、いくつになっても、勉強は!
鍋ちゃんに私の歌の先生を紹介してあげた。
この本番が終わったら、レッスンに行くそうだ。
その顔はとても嬉しそう。
ロムさんも嬉しそう。
おいらも嬉しい、こんな向上心を持つ共演者と仕事できて!
こないだ観た映画でサンドラ・ブロックが言ってた。
「常にその上を目指せ。Bで満足するな!」
おいらも、耳を澄ませて、謙虚に謙虚に取り組もう。
市っちゃん、今度はちゃんと聞くからね!!
(遅いんじゃ!)
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稽古場行く途中の「せい家」。
いわゆる家系ラーメンで、普通に美味しいが、凄いのはその値段。
なんと五百円!チャーシューも食べでがある。
「みたか」の四百五十円といい、三鷹は昭和にタイムトリップだ!


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