どんなに台本を読み込み、台詞を掘り下げ、資料を漁り、人間関係を、役の人物像を漢字ではなくひらがなで構築し、ありとあらゆる想像をかき集め、役を膨らませても・・・
怖い、初日は。
果たして、お客様は気に入ってくださるのか・・・!?
「そんな深く掘り下げるような、大した役じゃないですよ」
稽古初日に演出家はおっしゃったが、とんでもない。
今回の役;スランプにおちいり酒に逃げた元大ヒット漫画家:藤野ミツオ。
なかなかその人物に入り込めなかった。
ただ、ひとつだけ決めたことは、ミツオさんの負の部分に焦点を当てるのではなく、陽の部分を引き出そうとしたことだ。
ぶっちゃけ、七千円も払って、暗く引きこもる陰鬱男なんかお客様は見たくないだろう。演出家も全くそんなもの狙ってはいない。
シチュエーションは悲惨でも、これはコメディなのだ!
評判は上々だった。
わたしのダメ男もちゃんと取った、笑いを。
「すごく面白くて、なんか不思議な世界・・・」
お客様の感想だ。
今回、随分と勉強させてもらった、役者として。
ワザもいっぱい伝授された。
更に、日々、上を上を目指す要求が出される。
それがいちいち的を射ているから、反論のしようがない。
きのうゲネプロの後に出された指摘は「呼吸と音色が同じになっている」だった。
台詞の喋りが、いつの間にか気持ち良く「歌って」いたのだ。
開演直前まで、必死こいて『編曲』し直す。全編Cメジャー4分の4拍子だったのを、次から次へと転調し、休符も不規則に入れ込み、変拍子で喋った。
なるほど・・・
この方が予定調和ではなく「その都度発見」している。
いや、すごいねぇ、演出家の目って!
二年続けてアカデミー賞監督賞を取ったイニャリトゥ監督が言ってた。
「一つのシーンの撮るために何か月もかけて細かく、細かく準備した」
彼の作品「バードマン」で一人の役者が罵声を浴びせる。
「一つ一つの台詞をもっと掘り下げろ!」
ミツオさんの千路に乱れ折れる気持ちを、丁寧に、デリケートに、時にはぶっ飛んで掘り下げよう。
フジノ・ミツオ、私の転機になりそうだ・・・
私の化粧前


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