油絵と水彩の二つの映画を見た。
ひとつは若き天才映画監督グザヴィエ・ドランの「マミー」。
発達障害の子供を持つシングルマザーの話。
主演女優アンヌ・ドルバルの演技が濃くて、最後は中々涙無しには見られない。
悲しいのをぐっと我慢して笑顔を振りまく。
役者が泣くから観客は泣くのではない。泣きたいのをぐっと我慢しているから泣けるのだ。
そして、ひとりきりになったら、堰を切ったように感情が吹きだす。この時の息の使い方が秀逸だった。
息は、吸って喋るか、吐いて喋るか、止めて喋るか、印象はガラリと変わってくる。
いい役者ってのは息の操縦士なんだよね。
勿論、自分の演技帳に書きこんだ。
だが、私はこの映画をもう一度観たいとは思わなかった。
秀作なのだが、辛すぎる。重いのだ、自分には。
もう一つはまるで対極の日本映画、「あん」。
http://an-movie.com/
さえないどら焼き屋におばあちゃんが時給300円でいいから雇ってくれと売り込む。店長は一度は断るが、おばあちゃんが作ったあんこを試食して動転する。
おそろしく美味いのだ!
この導入だけで、なんだかワクワクするが、この映画、なにが凄いっておばあちゃん役の樹木希林さん。
素晴らしい!!!!!
そこに「居る」のだ!
大昔、「ミスサイゴン」の稽古中、演出家のニコラス・ハイトナーに言われたことがある。
「役を生きなさい」
この映画、徳江という老女がそこに生きていた。
さらっと吐く言葉が、台詞なんだか、日常会話なんだか境目がない。素敵すぎて目を奪われるのに、演技帳にどう解説したらいいのか分からない。
呼吸とかテンポとか、間とかいう技術じゃ分析できない。
しかし、まがいもなくこれは演技なのだ。
希林さんはこの役のためにハンセン病の施設で寝泊まりして役創りされたらしい。
そう、この映画は重いテーマを扱っている。
でも、けっして重くない。淡いのだ。これ以上薄めたら水墨画になってしまうくらい淡い、淡い水彩画・・・
多分、徳江さんには悲壮感がまるでないからだ。
むしろ、とても可愛いくて、すっとぼけてて、お茶目。
だから、余計彼女の背負う運命が哀しい。
徳江さんを守ってあげたい・・・幸せになってほしい・・・
そう思わずにはいられない。
そして、思えば思うほど、涙がじゅわーっとあふれ出てくる。
さらさらに透き通った涙が。
悲しみは「マミー」のように押しつけるものじゃない。
匂わすだけでいい、「あん」のように。
「役を生きる」という意味、真剣に考えさせられた。
樹木希林、素晴らしい女優さんです!


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