交番で調書を取られた。
実は、女子校に忍び入り、つい制服を・・・盗めへんわ!
実は、五日前、車に自転車を当て逃げされたのだ。
踏切を渡り、駐輪場に停めようとしたら、後ろからぶつかられ、前につんのめった。
で、あろうことか、車は止まらずに前へ進もうとしている。
野郎!逃げる気だな!!
瞬間湯沸かし器の私、車を追いかけ、ボディをぶったたき、怒鳴り散らす。
「ふざけんな、このやろーっ!!」
おっちゃんの怒鳴り声が町中に響く。
なにしろ、軟口蓋を引き上げ、鼻腔に息を当てるベルカント。
「すいません・・・以後気を付けます・・・」
片や、蚊の鳴くようなソト・ヴォーチェ。
もっと腹筋使わんかい!(一般人じゃ・・・)
三十代前半、なんだか親のすねをかじってる感じの太った兄ちゃん。持ってた携帯をこっそり切った。
話しながら脇見運転してたんだろう。
運転席に座ったまま、降りてこようともしない。
ますます血が上る。
「なにが、『イゴ、キヲツケマス』だ、ばかやろうっ!!」
腹背筋を総動員した正しい発声が再び町に鳴り響く。
「はるパパ、高い音は『怒り』の感情を加えると、ますます太く、強く響きますよ」
先生の教えは正しかった・・・
・
「で、どんな人だったの?」
警視庁交通課K係長が聞く。
「太ってて・・・おたくみたいな感じ・・・」
「わたしみたいな?」
「え・・・!?」
「今、そう言ったから」
「・・・あ・・・いや、『おたく』じゃなくて、『オタク』」
「・・・?」
「ほら、漫画のオタクとか、家に引きこもってるタイプの・・・」
「年齢は?」
K係長はにこりともしない。
あ、ちなみにこれ、ネタじゃなくて、実話。
・
本来なら119番するのが筋だったが、その日は本番が控えており、時間がなく、不承不承オタク兄ちゃんを解放する。
今にして思えば、名前と連絡先を聞いておくべき、せめて車のナンバーをひかえておくべきだった。
五日後の昨日、自転車の調子がおかしく、修理に出したら大変な金額を請求されたのだ。
腹が立って被害届を出したのだが、時すでに遅し。
「とんだ災難でしたね・・・」
k係長が先ほどの取り調べとは打って変わった穏やかな口調。まるで二重人格、ジキルとハイドだ。
どうやら、警察官というのは事件の真相がはっきりするまでは、たとえ被害者と言えど疑いの目で見るらしい。
なるほど・・・これは使える・・・今度、刑事の役来たら・・・
「転んでも」ただでは起きない私だった。
K係長が言ってた。車のナンバーは4桁の数字だけじゃ調べきれないそう。「埼玉 こ 2016」みたいに全部控えなくちゃだめらしい。
教訓;
「瞬間湯沸かし器はいいかげんに卒業しよう。
たとえ正しい怒りでも、冷静に携帯でナンバープレートを撮影しよう」


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