「口笛は誰でも吹ける」
・・・ちょっと変わったタイトルだ。
ヒロインのフェイは有能で、行動力もあり、頭脳明晰な看護婦だが、一つだけ出来ないことがある。それは口笛だ。
タンゴも踊れるし、ギリシャ語だって分かる、ドラゴンだって倒せるのに、口笛だけが吹けない。
そう、美しくて、完璧なほどの能力を持つのに、彼女は・・・
「アイラヴユー」が言えない・・・
そんなメタファー(比喩)なのだ。
ソンドハイムの作品にはたった十六回でクローズした「メリリーウィルロールアロング」という、いわゆる失敗作がある。
この時、ソンドハイムの落胆ぶりと言ったらなかったらしい。
だが、この「口笛〜」は、なんと、その上をいく(というか下回る)九回でクローズした。
言わば、ソンドハイム最大の失敗作なのだ。
しかし、この偉大なる作曲家は胸を張る。
「欠点をあげればいっぱいある。だが、私は決してこれを失敗作とは思わない」
私も同意見だ。
というよりむしろ傑作だと思う。
すばらしい楽曲、歌詞、知的で、洒落た台詞。
論より証拠、再演版、コンサート版にはトニー賞常連のパティ・ルポン、オードラ・マクドナルド、バーナデット・ピータース、サットン・フォスター・・・
そうそうたる面子が顔を連ねている。
みんな出たいのだ、この作品に。
では、何故、九回で終わったのか?
五十年前には早すぎた、知的過ぎた、風刺がきつ過ぎた等色々あるが、ぶっちゃけ・・・長すぎたみたい。
三幕もので、14分にも及ぶワケの分からんモダンバレエまであったらしい。今回はその三分の一を(もちろんバレエも)カットし、二幕ものにダイエットしてある。
ま、確かに、正常と狂気のテーマ曲「シンプル」は、一歩間違えると引くかもしれない。
だが、このナンバー、一歩正解すると、大感動、心臓バクバクの大傑作なのだ。カーネギーホールのライブ版は鳥肌もので、劇場が揺れるほどの大拍手だった。
ああ・・・行きたいねえ、あのレベルまで!
さて、今回、私、肝に銘じなくてはならないことがある。
それは、「陶酔するな」だ。
えてして、悲劇、狂気を演ずる役者は酔いやすい。
かく言う私、何度か・・・「いっちゃった」・・・(あほか)
だって、気持ちいいんだもん、わめきちらし追いつめるって。
そのたびに、慌てて勝田さんが現実に引き戻し、どこをどうすべきか具体的に道を示してくれる。
ありがたいねぇ、演出家って・・・あやうく「何ひとりで気持ち良くやってんだ、ばーか!」だった。
それからもうひとつ。
どんだけファンタジーで、どんだけポエジーだろうと、心はいつも通天閣歌謡劇場でいよう。
(意味分からん・・・)
メタファーだからこそ、下世話でなくちゃいかん。
気取って酔いしれるより、一段下卑て、笑いに変えよう。
三ツ星フレンチレストランで、あえて「芋の煮っころがし」になるんだっ!
だが、ここにも落とし穴はある。
二十数年前、私はクロード・ミッシェル・シェーンベルグにいさめられた。
“Not too much !”
4か月前、深沢桂子先生に叱られた。
「はるパパ、やり過ぎはダメよ」
先日、勝田先生に笑われた。
「何でも、ほどほどがいいんです」
追い打ちをかけるように、「オペラ座の怪人」で共演した柳瀬大輔がほくそ笑む。
「安心しました。20年前と少しも変わっていません・・・」
そう、おれは邪心でいっぱいだ。
“Not too much”、気を付けちゃいるのよ、本当に。でも・・・
サガなのかねぇ・・・
三十年前、故藤田まことさんに言われた。
「はるたくん・・・きみには、みにくい血が流れている。
何かやろうとする・・・ウケようとする・・・みにくい血だ」
私が神妙な顔になると、藤田さんはこんなオチを付けた。
「わたしとおんなじや・・・」
相変わらず凄いぜ、今どきの若いもん!
行けーっ!
行って、行って、行きまくれーっ!!


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