羽田空港に着陸するや否や、タラップから見える外の景色に私は驚きを隠せませんでした。
地面って・・・黒かったんだ・・・!
これは岩見沢駅前。
電車が到着し、ホテルへ行こうと駅を出た途端、こうだったんです。
まるで、モーゼの「十戒」・・・あの割れた海のように雪が両脇にそそり立っているではありませんか!
赤壁(せきへき);「レッド・クリフ」という映画がありましたが、これぞまさにスノウ・クリフ;「雪壁の戦い」でありました。
反対側から駅を振り返る。
今回の北海道ツアー、実は、ちょっぴりスランプに陥りました。
いまひとつ集中力に欠けていたのです。
風邪はほとんど治っていたのですが、咳が止まらず、タンが絡んでしょうがありません。
最後の札幌でその原因がわかりました。
ここの劇場、札幌市民ホールだけは全く咳が出なかったのです。スタッフさんに聞けば、新しい劇場なので換気が良いのだそうです。おかげで咳の原因;スモークを全く感じずに澄みました。早瀬先生も、宇宙人ゼスもウソのようにさわやかだったのです。
空気が澄んでいるっていうのは本当に気持ちが良いですね。
おまけに最後の最後で、私は気持ちまで澄んでいたのです。
ツアー中、いくつかダメ出しを受けました。
普段ならうまく消化するのですが、集中力に欠けていたせいか、やけに不器用でした。
「間が長い」と言われれば間を詰め、「(台詞が)無声音だと聞きにくい」と言われれば、有声音にしました。
しかし、その修正はただ単に時間を短くして、ただ単に声をONにしただけだったのです。
肝心要の「心」が伴っていませんでした。
怒られないよう「義務を果たしていただけ」・・・
そんな気がします。
あれこれ改善を試みたのですが、どうにもうまくいきません。
私は芝居を楽しめず悶々としていました。
ヘタな役者やなぁ・・・そう思っていました。
しかし、札幌に着いて、化粧前がいつも隣の(源兵衛役)石山さんにあることを言われたんです。
出の直前に台本を読んでおりましたら、
「偉いなぁ・・・僕なんか(台本は)カバンにしまったままだよ」
と・・・
その瞬間、私は20年前のあの日に戻ったのです。
「その男ゾルバ」で共演させていただいた故藤田まことさん、私はこの偉大なる俳優から二つの仕事をいただきました。
名鉄ホール「必殺仕事人」、梅コマ「人生回り舞台」。
しかし、一つ目は伸び伸びとやれたのですが、二つ目「人生回り舞台」で大のスランプに陥ったのです。
私が台本を読んでおりますと、藤田さんがこんなことをおっしゃいました。
「そんなもん読まんでもよろし。台詞なんて(舞台に上がったら)出てくるもんや。そんときの気持ちを大事にしなはれ」
石山さんの一言で私は思い出したのです。
「その時の気持ちを大事にする」
気持ちは先に準備するのではなく、舞台上で作れ、石山さんもそうおっしゃったのでしょう。
3人の宇宙人に「地球言語を喋れる薬」をやり、その結果に感動する「完璧です!」の台詞。
感動すればするほど「間」を取り、伝えようとすればするほど「言葉にならない言葉」になってしまう。
長すぎる間でなければ、ちゃんと聞こえる無声音であれば、そして、「そのときの気持ちを大事にすれば」、それはありなのです。
稽古場で初めてそれを実践したとき共演者は大笑いし、町田の本番でも大ウケでした。
しかし、ダメ出しで「守り」に入った途端、旭川でも、岩見沢でも、江別でも全くウケません。
それはダメ出しの「字面」だけを実践したからです。
「そのときの気持ちを大事にしなはれ」
私は「守り」から「攻め」に入りました。
私は腑に落ちるまできちんと間を取り、気持ちを高め、なすがままに台詞を喋りました。すると、やっぱり、無声音になったのです。
結果、札幌では大ウケでした。
芝居は審査員に見せるのではない、お客様に見せるのだ。
無論、ダメ出しをもらったとき、私は長すぎる間で、聞こえない無声音だったのでしょう。
しかし、それで萎縮する必要は全くないのです。
大切なのはダメ出しの行間を読むこと、つまり、何故、そのダメが出たのか探り、それに対処すればよいのです。
私は芝居ノートに早速書き込みました。
「ダメ出しは額面どおりに受け取る必要はない。
大事なのは『攻めの修正』だ」
札幌、ホテルの窓辺に飾ったクリスマスローズ

10