駅へと続く急な坂道を下っていくと、どこからともなくなき声が聞こえてきました。
みゃー・・・
か細いその声の方向に目をやれば、三匹の猫がふらふらと立っています。
母親らしき猫と、仔猫が二匹、母猫はやせ衰え、仔猫は目やにだらけ、立っているのがやっとです。
栄養不良は一目瞭然、慌てて私はリュックの中をあさりました。劇場で食べる予定だったシャケおにぎりを取り出し、ほぐして猫たちにあげます。
母猫は警戒していますが、仔猫たちはバクバク食らいつきました。
やがて、母猫も空腹には勝てなかったのでしょう、こちらをちらちら見ながら食べ始めます。シャケは仔猫たちに譲り、自分は海苔の付いたご飯を食べています。
鼻の下にチャップリンのようなちょび髭模様、母親とはとても思えない小さな白黒猫です。
こんなシチュエーション、毎度のことですが胸がキュンとなります。
なんとかしてやろう・・・
そう思いました。
何日か経って、仔猫の一匹が消えてしまいました。
死んでしまったかもしれない・・・
急がなくてはなりません。
親子を保護し、母猫ののりちゃんは不妊手術を施しました。
あ、言い忘れましたが、あのちょび髭模様が故三木のり平さんに似ていたのでのりちゃんって名前を付けたんです。
仔猫の一匹はご近所の方が里親になってくださいました。
そして、死んだと思っていたもう一匹は病院の看護婦さんが捕まえて、面倒見ていたのです。
何ヶ月ぶりかの親子の再会でした。
ま、忘れちゃったのか、フーハーいってましたけどね。
のりちゃんはどうしても里親が見つからず、ご近所の方と交代でご飯をあげ、外猫にしました。
今から6年前の話です。
坂道のりちゃん
とあるおばあちゃんからSOSが入りました。
おばあちゃんは自分の畑で猫にご飯をあげていたのですが、母猫が子供を産んでしまい、あっという間に八匹になってしまったのです。
これ以上増えないようにして欲しいという依頼です。
KNK; 国際野良猫救助隊、出動です!
先ずは全員捕まえて不妊去勢手術をしなくてはなりません。
KNKはネズミ捕りを巨大にしたような捕獲器を畑に設置し、入るのを待ちました。
直ぐにつかまるミーハーもいれば、なかなか用心深いフーハーッ!もいます。
隊員のひとりは畑のそばに車を置き、なんと徹夜してまで保護に努めたのです。
猛暑の夏、車のエアコンを入れればバッテリーが上がるし、窓を開ければ虫が入る。
おまけに近所の方々から警察に「不審な車が止まっているという通報までされました。
しかし、隊員は屈することなく任務を遂行したのです。
そして、とうとう全員保護し、手術を完了させました。
八匹と、想定外の一匹、さらにこれまた想定外の巨大なオス猫もいれ、総勢十匹です。
オス猫はどうやら八匹の父親のようでした。
さて、坂道のりちゃん・・・あれから六年経って、どうも様子がおかしくなってきました。
元気がなく、ご飯も他の猫に食べられてしまうようで、やせ細ってしまったのです。
そこへKNKの隊員が手を上げました。
「うちの猫にします!」
猛暑虫刺通報徹夜隊員です。
退院は6年前、のりちゃんの仔猫も保護していました。
あの坂道以来、久しぶりの親子同居がかなうのです。
仔猫は母親との再会をどれほど喜ぶでしょう!
(・・・ま、多分、忘れてまっしゃろけど・・・)
準備が整うまで我が家でのりちゃんを預かることにしました。
よかったね、のりちゃん。今年の冬はあったかいよ!
家猫のりちゃん


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