ミュージカル「ドラキュラ伝説」、新国立劇場公演は無事、千秋楽を迎えました。
総立ちのお客様からは惜しみない拍手が送られ、何度アンコールがあったでしょうか。
たった10回の公演でしたが、本当に充実した舞台になったと思います。
ご来場くださったお客様には心から感謝いたします!
今回の共演者達を見るにつけ、これまでの自分の役者人生をいっぱい振り返りました。
先ずは二十数年前キーヨと初共演した「アニーよ銃を取れ」・・・
この時はまだバリバリのダンサーで(ほんまでっせ!)、アンサンブルとしては結構メインで踊っておりました。
メフィストのシンタロー(そして、キーヨ)とは18年前の「ミス・サイゴン」、アンサンブルの千鶴ちゃんとは15年前「オペラ座の怪人」、中野さっちゃんとは「美女と野獣」、この作品では勿論キーヨ、そして、光枝のお父さんとご一緒です。
高野けんけんとは「アイラブ坊ちゃん」、ヤマちゃんとは「レディ・ゾロ」、キリちゃん、シンタローとはブロードウェイまで行った「太平洋序曲」、そして、オーケストラのサックス;サイカチくんとは17年前の「キャバレー」・・・
随分、いっぱいやってるんですねぇ・・・(笑)
それぞれの作品で楽しいこと、辛いこといっぱいありました。
でも、しんどいことのほうが多かったかなぁ。
腕は三流なのに自信だけは一流でしたからねぇ・・・
「人生、谷あり底あり」、いつ浮上すんのや!って感じでした。
挫折を味わい、それでも少しずつ勉強を重ね、今日に至っているのだと思います。
最近では紫城るいちゃん、カマちゃん、そして、キーヨと一緒だった「ゲーム・オブ・ラブ」・・・
あの時は心が全く開けず、稽古場へ行くのがずいぶんといやでした。
「もう、あかん、役者としては終わりや・・・!」
何度思ったことでしょう。
結局、不完全燃焼のまま、公演は終わりました。
心は閉じる一方です。
その重い扉をこじ開けてくれたのが船橋研ちゃんでした。
今は「ミス・サイゴン」「レ・ミゼラブル」等の歌唱指導をしていますが、かつて「ミス・サイゴン」で共演した仲です。
亜門さんの「テイク・フライト」に歌唱指導として現われた研ちゃん、その模範歌唱を聞いているうち、あ・・・いつかレッスンしてもらおうと思ったのでした。
響く、すごくいい声だったからです。
そして、去年の6月、彼の門を叩きました。
息を前に吐く。
母音(とりわけ「あ」と「お」)を縦に開いて出す。
一年かけて、それを身体に叩き込みました。
あの暑い夏、部屋に閉じこもってやった稽古、私は一生忘れないでしょう。
数をこなせ!筋肉で覚えろ!!
へこみそうになるたび、自分に言い聞かせ、たとえできなくとも、とにかく一日二回、午前と午後、録音したMDを相手に稽古しました。
すると・・・
息を前に出すほど、口を縦に開くほど、硬く閉じた心の扉が少しずつ開いていったのです。
今回の「ドラキュラ伝説」をとある俳優さんが観に来てくれました。
増沢望くん、去年の「反逆児」で同じ楽屋だったひとです。
彼とは何度も「平(幹二郎)さん談義」をしたものです。
平さんの「言葉」に対する思いは尋常ではありません。
あれほど丁寧に、大事に言葉を喋る俳優は、そういないでしょう。
あのバズーカ砲発声も随分盗ませてもらいました。
腹筋で支えて眉間に当てているのです。
この盗品(!)が今回、どれほど役にたったでしょう・・・!
この公演で私はある(結果的には)実験をしました。
研ちゃんや平さんから学んだこと、それを三人の女優に伝授したのです。
バンパイアの三人です。
稽古を見ていくうち、マオリンは「あ」母音がひしゃげる傾向を発見しました。
で、縦に開いてごらんとアドバイスしたのです。
カヨコは時として喉にかかる発声でした。
私は「北半球で歌いなさい」と、言いました。
鼻の辺りが赤道だとしたら、ロシア(眉間)に響かせろと言ったのです。
はっちゃんは発声は悪くないのに、思いが強すぎて言葉が聞きとりにくい箇所がいくつかありました。
で、あのバズーカ台詞術を伝えたのです。
感情を表現するよりも「伝える」ことを大事にしてごらん・・・
これは歴史をもっとさかのぼれば、劇団四季時代、浅利先生に散々言われたことでもあります。
そう、三人へのアドバイスはとりもなおさず自分への戒めだったのです。
この公演を通して、三人はとても良くなりました。
マオリンはとても素直に声が出るようになったし、カヨコは随所で響く太い声を出し、はっちゃんの台詞は格段に聞きやすくなりました。
私の知人はバンパイア三人がすごく魅力的だったと言ったほどです。
なのに、私は三人から恩を仇で返されたのでした。
(あほか・・・)

左からカヨコ、はっちゃん、マオリン。
もう、お分かりですね。
ひとの(三人の)振り見て、私は我が振り直したのです。
去年、一年、取り組んできたことは間違っていませんでした。
この公演を通して、あらためて取り組んだのは言うまでもありません。
ミュージカル「ドラキュラ伝説」・・・
技術的にも、精神的にも、俳優として一つのきっかけをつかんだ公演になったと思います。
発声、息、そして、開いた心・・・
この先、大阪、長野、札幌、再度東京、静岡、そして、名古屋と公演は続きます。
去年、勉強したことにさらに磨きをかけ、前へ前へ進んでいく覚悟です。
もうひとり、きっかけをつかんだ俳優がいました。
アンサンブルのカマちゃんです。
彼は「ゲーム・オブ・ラブ」のとき、踊りがダメで紫城るいちゃんとのペアダンスを何度も居残り稽古させられていました。
それが、一年経って、随分と上手になっていました。
相当レッスンを積んできたのでしょう。
敬愛する野村監督が言っています。
「恥をかかなきゃ、向上はない」
これまた、ひとの振り見て我が振り直すであります。
カマちゃんに問題があるとしたらひとつだけ、出番直前に(衣装の)かばんを忘れないことぐらいでしょうか・・・(笑)
「人に歴史あり」
新たな楽屋同居人;シンタロー、ツヨポンと。
初共演;ZUNKOちゃん、そして、キーヨと。
ヴァン・ヘルシング教授&ドクター・セワード。
さあ、大阪へ!

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