昨日のブログの続きです。
年をとったら、どんなおじいちゃんになりたいか…
おだやかで、優しくて、どんないやなことでも受け入れる。
そんな大らかな人になれたら、どんなに素敵でしょう…
今年の4月23日、ジェリクル・ハウスのテレサが市が尾の区役所で一匹の猫を保護しました。
去年逝ったムギョちゃんと同じアメショ、追うように逝ったがんじろうと同じ大猫、まるで、二人を合わせたような子です。
そして、当たり前のように、彼は我が家の一員になりました。
うちに来たその日から、他の猫たちは、まるで何年も一緒にいたかのように彼を受け入れました。
そして、私たちも彼の大らかさにどれだけ包み込まれたでしょう…
ぎんじろうは不思議な猫でした。
お気に入りのキャットタワーで寝ているとき、触ってもピクリとも動かず、死んでるのではないかと思うことがありました。
びっくりして、体を揺すると、ひょいと目を開けます。
まるで、魂がどこかに抜け出ていたみたいです。
一体、どこに行っていたのでしょう…
昨日、朝、楽屋に入って着替えていると、突然、ゴミ箱の中のビニール袋が音を立てて沈み始めました。
もちろん、中の空きビンの重みで沈んだのでしょうが、それにしても、捨てた直後ではなく、しばらく経ってからのことです。
すると、突然、かみさんから電話が入りました。
ぎんちゃんの具合が急変したのです。
体がそこにあるだけで、「魂はいないみたい…」
ぎんちゃんが劇場に来た…!?
一幕七場、生駒が徳姫を諭す場面で私は正座をしています。
膝の悪い私にはここのところ、かなりきつかったのです。
ところが、昨日は痛みがすーっと引いたのです。
ゴミ箱が動いた直後のことです。芝居をしながら、私は彼を感じていました。
「ありがとう、ぎんちゃん。でも、もう戻りなさい…」
私は言いました。
夜の部はいつも通り痛かったから、きっと、東京に戻ったのでしょう。
ぎんじろうはムギョちゃんとがんじろうが虹の橋から遣わした使者です。
彼はどんなミッションを帯びて来たのでしょう。
多分、ひとつは「優しさ」です。
私の住むマンション、最近、住民間にいがみあいが起きて、ちょっと複雑な人間関係になっています。
どこの派閥にも属さない我が家ですが、さすがに一時期、悲しい気持ちになりました。
ごく仲良くしている家族を除き、猫と植物だけに囲まれて「引きこもろうか…」、そう、かみさんと話したものです。
すると、ぎんちゃんはあの愛くるしい目で言いました。
「けんかしたら疲れるにゃあ。仲良しは楽しいにゃあ」
ぎんちゃんは私自身の性格も諭しました。
瞬間湯沸かし器の私は直ぐに切れます。
それもブチっと音を立てて。(笑)
でも、ぎんちゃんはまたしても言うのです。
「切れると痛いにゃあ…」
ぎんちゃん、二つ目のミッション、それは私の「健康」です。
昨日の夜、あんまり寂しくて、もどかしくて、いっぱい飲んだら、鏡の中の左目が真っ赤に充血していました。
背中も痛いです。
「体悪いと、芝居できなくなるにゃあ」
遠いところからぎんちゃんの声が聞こえてきます。
あのおだやかなぎんじろうが、今、自分の体を張って、私に伝えているのです。
先生の診断によると、ぎんじろうはすい臓も悪いらしいです。
私の父はすい臓癌です。
「(自分の)誕生日まで持たんかもしれん」
父はそう言って、ずっと不安がっていました。
父の癌が私に遺伝しない保証はどこにもありません。
今年は色々しんどいことがあって、私の酒量はかなり増えていました。
体はかなり限界にきており、自分も癌になるかもしれない。
それでも飲まずにはいられなかったのです。
そんな矢先、ぎんじろうは倒れました。
ぎんちゃんの警告は痛いほど私に突き刺ささったのです。
今朝、ベッドの目覚ましが突然、鳴りました。
私は飛び起きます。
目覚ましは一瞬鳴っただけで、すぐ止みました。
六時四十分…
不思議です。
私の目覚ましは携帯にかけていますから 、ベッドのが鳴るわけがないのです。
あ…
そのわけが分かりました。
すると、今度は携帯電話が鳴り響いたのです。
かみさんからでした…
十一月二十三日の朝、ぎんじろうは天使になりました。
かみさんが他の猫にご飯をあけている間に逝ったそうです。
「六時四十分ごろ…」
かみさんは言いました。
四月二十三日にテレサが保護してから丁度7ヶ月…
たった7ヶ月…
私には何十年も一緒にいたようです。
目には見えない本当のこと…
覚悟していたこの日がいつ来るのか、私はずっと前から分かっていました。
今日、十一月二十三日…
父の誕生日です。
父は今、元気に闘病を続けています。
「肩代わりなんかしなくていいから…」
あんなに言ったのに…
今日も、一幕七場、徳姫の前に正座したら、少しも痛くありません。
また、来てくれたのです。
「ありがとう、ぎんちゃん…」
君が体を張ったのだから、今夜は酒を飲まないつもりだったけど、さっき、ざこば師匠から電話あってね。
こないだ飲んだとき、ぎんちゃんの話をしていたから、今夜は二人で賑やかに送ってあげるよ。
だから、今はみんなのいる東京に戻ってあげてね。
ありがとう、ぎんちゃん。
おれ、年をとったら、どんなおじいちゃんになりたいと思う?
おだやかで、優しくて、どんないやなことでも受け入れる。そんな大らかなおじいちゃん、そう、ぎんちゃんみたいになりたいよ。
ありがとう、いっぱい伝えてくれて。
君のミッションは必ず果たすからね。
がんじろうやムギョちゃんにも、そう伝えてください。
そして、いつか、あの幸せの青い空に会いに来てください。
みんなで待ってるから。
ありがとう、ぎんちゃん。
大好きだよ!


113