目からウロコでした。
こんなことだったんだ・・・
「そうだよ、それでいいんだよ!」
先生が言います。
6月11日、午後3時、都内某所、私は新しい歌の先生の元でレッスンを受けました。
「どうだい、このほうが楽だろ?」
おっしゃるとおりです。喉に何の負担もかかりません。それどころか・・・
「楽しいね!」
私の顔から笑みがこぼれました。久しぶりに。
「そうなんだよ。歌ってて、楽しくなくっちゃ!」
先生も笑顔で言います。
そして、彼はレッスン最大の収穫となった一言を発するのです。
「いいかい、音程は音で取るんじゃない・・・息で取るんだよ!」
ギャル・ももがご飯を食べません。
昨日、11日の朝、正確には前の晩から変でした。
喉の奥に何かが詰まっているようで、吐こうとするのですが吐き出せず、喉の奥から何度も何度も何かを引っ張り出そうとします。
私ははっとしました。
ベランダでももちゃんはよく草を食べます。
ライオンもそうですが、ネコ科の動物は草を食べ、その刺激で飲み込んだ自分の毛など、余分なものを外に吐き出す習性があります。
細長い草が大好きで、彼女はベランダにあるフウチソウを良く食べていたのです。
ただ、この草は結構固く、ギザギザもあります。
あれが喉にひっかかったのではないでしょうか。
つかまえて口を開けてみればよいのですが、ももちゃんは、だいぶ慣れてきたとは言うものの、まだ誰も彼女を触ったことすらありません。
一刻も早く病院に連れて行かなくては。
私は野良猫を保護する時に使う捕獲器を取り出しました・・・
「ははあ・・・癖が分かったよ」
先生はにやりと笑いました。
課題曲の「カフェ・ソング」を私に歌わせ、それで診断を下したのです。
「思いが強すぎて、喉でせき止めてるね」
「・・・喉・・・閉まってる?」
「いや、喉は充分開いてる。もう、それ以上開けなくって良いよ。それより、もっと前に出して!」
「マエニ・・・?」
「音を出そうとするんじゃなくて、息を前に流すんだ!」
先生は実際自分でやって見せました。かつて、現役俳優であっただけにハイバリトンの実にいい声です。
「模範歌唱」を注意深く観察しました。すると・・・確かに見えます、「息の流れ」が。
「やってみて」
先生はピアノを弾き始めました。
「♪ことばにならな・・・」
「はい、『ことば』の『ば』でせきとめた!『ばっ』じゃなくて『ばー』。はい、もういちど・・・」
テンポの良いレッスンです。なんだか嬉しくなってきました。
「♪こーとーばーにーなーらーなーい・・・」
わたしは注意深く先生の真似をしました。イキヲナガス、イキヲナガス・・・・
「そう!できたじゃん!そのほうがうんと素直な声だよ。音も安定してるし」
「ほんと・・・?」
「ほんとだよ。一番最初に歌ったときとぜーんぜん違うよ。楽だろ?」
「うん、ぜんぜん楽。第一・・・」
「なに?」
「楽しい!」
・・・「楽」って「楽しい」ってことなんだ・・・
「そうだよ、歌ってて楽しくなくっちゃ!」
本当に楽しかったのです。録音機の前で、ああでもない、こうでもないと、ひとり試行錯誤していたのがバカみたいに、心から楽しかったのです。
ちまちま治していたのを、この先生はダイナミックな外科手術でいっぺんに治療してしまったのです。
「いいかい、表現っていうのは音でするんじゃないんだ」
先生は語気を強めました。
「息が表現するんだよ!」
テレビでたまたま、敬愛する野村監督のインタビューを見ました。
画面をじっと見つめ、ひとつひとつの言葉に耳を傾け、何度も何度もメモを取りました。
監督は、心のうんと奥底まで響く言葉を授けてくださったのです。
いみじくも、新しい歌の先生の下で「目からウロコ」の発声法を授かったその夜のことです。
ただの偶然なのでしょうか・・・
6月11日・・・11日はムギョちゃんの月命日です。
実を言うと、ずーっとモヤモヤしていました。
理性と理屈で持ってはいたものの、朝起きると、とりわけ雨の朝は、一日の始まりがおっくうでした。
そんなとき、あるひとからこんな言葉をもらいました。
「穏やかな心、感謝する心、信じる心を持ち続ける」
これで随分と楽になりました。頑張れたのはこの言葉のおかげだと思います。
でも、なにかが足りません。それは、一体なんなのでしょう・・・?
それは6月11日、昼のレッスン、そして夜、野村監督の言葉だったのです。
気持ちがすーっと楽になりました。
そう、文字通り「息が流れ」たのです。
野村監督はこんなことをおっしゃいました・・・
「失敗」と書いて「成長」と読め。
「恥をかかされないと、飛躍はないよ。命をとられるわけじゃあるまいし・・・」
「目からヤニだにゃあ・・・」
ギャル・ももはやはり草が詰まっていました。
細長い草が二つに折れて、鼻と喉の境目に挟まっていたのです。麻酔をかけて取ってあげたら、とても元気になりました。
良かったね、息が流れて・・・!
「今度はこの発声を癖にして!」
先生はにっこり笑って言います。
そう、後は何度も何度も繰り返して、逆立ちしても息が流れるようにしなくちゃ。
再来週、レッスン予約を入れました。
新しい課題曲は「ブイドイ」そして、「ブリング・ヒム・ホーム」です。
身体中で息を流して歌いましょう!

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