先日、久方ぶりに表に出た。
・・・まあ、別に引きこもっていたわけではないが、半径2KMから外に出かける気がしなかったのである。
圏内にはいっぱい園芸店があり、買ったばかりの花を(かなり飽和状態になってきた)ベランダのどこへ置くか思案したり、それがまた楽しかったり・・・
おっと、こんなことばかりじゃまずいってんで・・・ボイス・トレーニングをやったり・・・
(最近のテーマは「パバロッティの歌唱法分析」、これがかなり楽しい。)
それから勿論、次回作の色々構想を練ったり・・・
わざわざ外へ出ずとも、この「はるパパ圏内」で充分事足りていたわけだ。
しかし、この日ばかりは表へ出た。
行く先はブローニュの森・・・じゃなくて、府中の森!
音楽座ミュージカル「アイ・ラブ坊ちゃん」を観るためだ。
今から七年前、劇団四季を辞め、再出発した私である。
そんな私が最初に立った舞台がこれだった。
「坊ちゃん」をミュージカルにしたのではなく、「坊ちゃん」を執筆する夏目漱石の心象風景を描いたものだ。
虚構と現実が巧みに交差し、入り乱れ、実によく書けた本なのである。
船山基紀さんの曲もすばらしく、観るものの心に優しく、切なく響く。
私が思うに、日本のオリジナルミュージカルでは間違いなく最高峰である。
私はこの日を心待ちにしていた。
何故なら、作品との再会もさることながら、たくさんの旧友たちと再び会えるからである。
「やせたね、はるパパ!!」
楽屋で会う人ごとに私は言われた。
私はこの作品で校長のたぬきを演じていた。
たぬき・・・
そう、あのころ私は・・・デブだった。
当時の写真を見ると、思わず目を背けたくなるほど、でっぷりお肉がついている。
みにくい三重あご、盛り上がった肩ロース、ぶ厚いひれ肉、それを包む背あぶら、お腹に至ってはキロ三万円は下らぬ、見事なまでの大トロだった。
今回これをやるのは、(最近四季を辞めた)小林アトムちゃん・・・「条件」はぴったりである。
コロコロ太って、コロコロかわいい校長先生だった。
やはり‘たぬき’は太ってなくては・・・
私は別段、ダイエットしているわけではないのだが、普通に食べて痩せたのである。
もっと正確に言うと、‘好きなだけいくら食べても太らない’のである。
つまり、「ブート・キャンプ」を真剣に取り組み、自分に厳しく体重を落とそうとしている人にとっては、考えられない、決して許せぬ、「自分に大甘な」状況なのである。
ま、そんな話はどうでもよくて・・・
作品はやっぱり素晴らしかった。
今回は歌のレベルがかなり上がった。
アンサンブルのクオリティは前回よりもはるかに上を行くと思う。
一番心に残った役者さんは、漱石の妻、鏡子を演じた秋本みな子ちゃんである。
彼女もアトムと同じく四季を辞めた女優である。
見た目の美しさもともかく、その美形から‘半歩外に出たおまぬけさ’がかわいいのである。
漱石が精神的にかなり‘いらついて’いるから、余計、彼女の‘おおらかさ’が夫との関係を中和し、観るものをなごませる。
私は感心して見ていた。
そんな鏡子のキャラクターを支えるのが、実は、女優秋本みな子のしたたかな‘技術’だからである。
それは何かと言うと、彼女の「さりげなく見事なセリフ術」だ。
さすが劇団四季出身だけあって、言葉が小憎らしいほどクリアなのだ。
それもこれ見よがしではなく、あくまでも「さりげなく」なのである。
言葉が聞こえるのは当たり前、その上を行かなきゃ。
彼女は身をもってそれを呈していた。
いい女優さんになったなぁ・・・
舞台の上の彼女を見ながら、私はつくづく思った。
そして、「大甘に痩せた」今、ぜひ次回、もし次回があるなら・・・
私は赤シャツを演りたいと思ったのである。
みな子、私、アトム


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