「マイ・フェア・レディ」ツアー、ここ長崎でいよいよ四十七日目を迎えます。
色んな町並、色んな劇場、色んな人、そして、色んなホテルに出会いました。
駅からの距離も様々です…
「駅からどのくらいでしょ?」
「そうでんな、タクシーで三メーターぐらいだっしゃろか」
「へぇ、そら近いわ!」
「は!?」
「歩いて行けまんな!」
「いや…ワンメーターでも、そこそこ距離おまっせ」
「なに言うてまんの!三メーターやったら、三歩で着くがな!」
「…あんた、どんな足してまんの…」
「こんな足」
「見せるな!」
「三メーターやろ?」
「三メーターです」
「ほな三百cmやん」
「そう三百…そりゃメートルや!!」
これ、ちょっと脚色しましたが、実話です。アホやけど、愉快な人ですね。
さて、ホテルの善し悪しはこんな交通の便ばかりでは計れません。
以前も書いた従業員の応対、これはとても大事な要素です。
誰もが知っている、あるブランド・ホテルでの出来事です。
ベルキャプテンに、行きたかった園芸店までの道を尋ねたら、あろうことか彼はかなり面倒くさそうな顔をしたのです。
そればかりではありません。
だらだらと地図を持って来て私に見せ、私が彼の横に立つと「そこに立ったら説明しにくいやろ、そっち行かんかい」と、言わんばかりに、ボールペンの先で指図するのです。
その前日泊まった新潟オークラのペロンヌさんは「どうぞ、そちらにお座りください」と、言葉を喋りました。
私は唖然としました。もし、彼が格式誇るイギリスのホテルマンだったとしたら、間違いなくロンドン塔にぶちこまれていたでしょう…
団子屋さんが団子売って金をもらうように、ホテルマンはサービスを売って金をもらうのです。
たとえ心でアッカンベーしていても、「笑顔でサービス」がプロというものでしょう…
一流ホテルで、建物も設備も実に立派なのに、彼ひとりのために全てが台無しです。
私は、個人旅行だったら、もう二度とここには泊まるまいと思ったのでした。
さて、従業員の次に大事なのは何でしょう。
きらびやかな電飾、タワーホテルなど、建物の外観はかなり優越感をくすぐります。
しかし、肝心なのはやはり部屋です。
今回のツアーではありませんが、昔、「ドアを開けるなり、もうベッド」という部屋がありました…
(どないして入るねん…!)
ちなみに、この部屋の奥に見つけたのが「チーズケーキ風呂」でした。
まあるいチーズケーキを十六分割したような三角形の風呂で、ひとたび湯船に尻を突っ込もうものなら、挟まって二度と出られぬ…恐怖の風呂なのでありました…
このように、広さは大きな問題です。
でも、意外にもっと重大なポイントがあるのです。
それは「洗濯物が部屋で乾くかどうか…」ということなのです。
長いツアーで何が大変かと言って、洗濯ほど頭を悩ませるものはありません。
結論から言うと、洗濯物が「乾かないホテル」ほど良いホテルなのです!
ひどいホテルに泊まった友達が言いました。
「いや、洗濯物をさ、今干したと思ったら、もう乾いちゃったのよ。部屋ごと乾燥機って感じ…!」
そうなのです。
ホテルはえてして乾いています。
前述の洗濯物がすぐに乾くと言うことは、喉、声帯もカラカラに乾くということなのです。
これはミュージカル俳優にとって致命的です。
ですから、ホテルに加湿器は欠かせないのです。
今回の旅は、部屋に入ると必ず加湿器が置いてあります。
制作の心使いなのでしょう…ありがたいですな…
しかし、かなり良いホテルですと、この加湿器いらずなのです。
今泊まっているホテルでは洗濯物は全くと言っていいほど乾きません。
二日干しても、靴下はびっしょり濡れています…
それはそれで…なんだか簡単に困って、そして…複雑に嬉しいのでありました。
名古屋から数えて六十日…色んな出会い:色んな人、色んなホテル、そして、色んなクリスマス・ローズ…もうすぐ終わり…思い出が、落胆が、感動がてんこ盛りに詰まっています…
グラバー邸で出会ったニャニャニャン親子


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