近所に不思議な木を見つけました!
一本の木から白い花とピンクの花を同時に咲かせているのです。
花びらは八重で家にある桃に似ています。
「な、なにもの!?」
調査班は総力をあげて調べました。すると…
「源平しだれ桃」
やはり桃の種類です。紅白の二種花を源氏と平家になぞったのでしょうか。
可憐で不思議で、あっという間に魅かれてしまいました。
欲しい…!
見つけました。
シダリンを買ったじいちゃんの畑です。
「ゲンペイ」と確かに表示してあります。大きくて枝振りも立派、しかも、信じられないぐらい安いのです。
さすがはじいちゃん、相変わらずいい仕事をしています。
しかし、いまひとつ花の「咲き分け」が良くありません。色が混じっています。
違う…!
これだ!
まるで呼ばれたかのように訪ねた、横浜線古淵のホームセンターで発見しました。
ここは品種が良く、値段も良心的で世界的に有名な…わたし的に好印象の店です。
品揃えも体したことないのに値段ばかりバカ高い近所の花屋とは大違いです。
大きさも調度よく、まさしく白い花の間に紅いつぼみが混じり、探していた理想の源平です。
欲しい…!
しかし、ここへ来て、我が家のベランダはかなりの飽和状態。これ以上は増やせません。
あきらめよう!
買いました…
雨にもかかわらず、駅への道は、スィンギンニン・ザ・レインです。
手に持つと、そこそこ重いです。
気をつけなくては…
落として、大事なつぼみを傷つけたら大変です。慎重に階段を降り、ホームにたどり着きました。
電車が来ます。あ…
まずい!
混んでいます。
源平は一本の柱に何本もの「しなった釣竿」を付けたような木です。
人に当たる…!
私は(隙間なくトラックに荷物を詰め込む)サカイ引っ越しセンター職員へと変身し、乗客と乗客の間へ「さお」をミリ単位で入れ込みました。
ちょっとでもバランスをくずすと人に当たってしまいます。
「なにやっとんじゃあ、われ!」
前の兄ちゃんに怒鳴られそうです。
気をつけよう…!
当てました。
まずい!
兄ちゃんが振り向きます。あ…
いちゃもんつけられる…!
「かわいい花すね」
兄ちゃんは目を細めて、言いました。
隣りで、鼻先に「さお」を突き付けられていた女子高生も、なんとなくなごやかな顔つきです。
「いい花、買いましたね…」
兄ちゃんが言葉を続けました。
「は?」
私が聞き返すと、兄ちゃんはいっそう目を細め、こう言いました。
「つぼみがいっぱいついてるすよ…」
源平がいなかったら一生、口をきく機会もなかったろう若い兄ちゃんです。
「ありがとう」
私は兄ちゃんに言いました。
電車を降り、混雑を避け、エレベーターに乗りました。すると、若いカップルが同乗しています。
「す、すいません…」
私は平身低頭です。
「いいえ…」
カップルの男の方が言ったような気がしました。
乗ってる間中、当たらないよう緊張して、冷や汗が流れます。
ようやくエレベーターが着きました。
最後に降りようと思っていると、
「お先にどうぞ」
そんな目で、女の子の方が「開く」ボタンを押してくれるではありませんか。
「ありがとう…」
おじさんは思わず礼を言いました。
今日、これで二度目です。
都会の駅で、ましてこんな年代の子たちに、ついぞ口にしたことのない言葉です。
心がほんのり温かくなりました。
白とピンクの小さな花が人を優しくしたのです。
源平がとりもつ、ちょっぴり嬉しい交流でした…
(治田源平)


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